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花祭  作者: たこやきいちご
13/14

Chapter12『花祭』

さて、わりと長かった話もようやくここまで来ました。

結婚式にまつわるエピソードです。

Chapter12『花祭』


 エルザス公爵シオンとルカの結婚式の子細(しさい)が、エルザス領内のすべての都市、すべての村落に告知されたのは、その年の秋も深まった頃のことであった。

 リナの公爵継嗣(けいし)決定の公示があった、二ヶ月後のことである。

 エルザス領内は、立て続けに知らされることになった慶事(けいじ)に、()いた。

 式場は、公爵の居城……通称『黒鳥の城』にて。

 式の日は翌年、萌緑月一日。

 春、世界各地で創世の記念祭のおこなわれる祝日である。

 遠い遠い昔、ひとびとが闇の御神の導きにより、滅びゆく古い世界から、この大地に足を踏み入れた、その(とき)を想う祝祭日。


領宰(りょうさい)付一等秘書官ダナエ・カズメの覚書(おぼえがき)よりの抜粋(ばっすい)


 わたしが(とし)をとって過去を振り返りたくなったり、まだ見ぬ娘や息子に昔話をするときの楽しみに、いま、筆をすすめています。

 この文章には、わたしがこのお城に勤め始めたころから、現在に至るまでの、思い出深い出来事が詰まっています。

 きちんと書いておかないと、きっと、細かいことは忘れてしまいますものね。

 たとえば、あのシオンさまの婚礼の日から十数年が過ぎて、あれほど「こんな素晴らしい日のことは、決して忘れないわ」と、思っていたにもかかわらず……いまでは、細かい部分がどうしても思い出せなかったり。

 やっぱり、記憶って、風化してしまうものですね。

 もちろん、この記録はどこかへ公表したりはいたしません。

 ですから、きっとどこかで思わず不敬な表現をしてしまうことでしょう。

 うっかり、必要な敬称を省略してしまったり。

 ですから、もしもこの手帳をなにかのはずみで読んでしまうひとがいましたら、お許しください。

 なにしろ仕事の暇を縫ってのもの。

 どうせ読むとすればわたしの机を覗くことのできる、同僚くらいのものでしょうが。

 読んでしまっても構いませんが、読み終わりましたら、なにも(おっしゃ)らず、黙って手帳を閉じて下さい。

 そして、読んだことは決してわたしにうち明けないこと。

 恥ずかしいですからね。


  (中略)


 わたしがまだ領宰さま付き三等秘書官だったころの思い出のなかで、いちばんのものは、やはり前公爵閣下のご結婚にまつわるできごとでしょう。

 ですからわたしの憶えている限りの、婚礼の儀式、その(さいわ)いに満ちた日までのエルザスの血にかかわるひとたちの小話を、ここに(しる)しておきます。

 ただし……当時の公爵閣下はシオンさまでいらっしゃいましたから、以下の文で『公爵閣下』とあれば、シオンさまのことにしておきます。

 いまではもちろんリナさまでいらっしゃいますが。

 ややこしいですから。


 エルザス公爵夫人に予定されていらっしゃったところのルカ・トールさまが、連日連夜の礼儀作法の練習や、舞踏の練習、読み書きや計算と言った基本的な学習に()を上げられ、ときおりパジェル市街及び城内付き衛士長ティータ・オルグさまと共謀(きょうぼう)して、パジェル市街へ遊びに出かけていらっしゃった、というのはあまりに有名な話。

 わたしなんかが、取り立てて騒ぐようなことでもありません。

 だいたい、いまでもときどき城内からお姿が消えてしまうこともありますのに。

 ですが、そんなある日、彼女たちが街中で王立魔法院所属の魔法使いの青年に、

「あなたの言うとおりにして、大当たりです!」

 と、呼びかけられた……のは、知るひとぞ知るの出来事でしょう。

 わたしも、かなり後になってオルグさまに親しい衛士のひとりから聞きました。

 また、

(もう)けたお金で、郷里の両親に贈り物をしたんです」

 と、屈託(くったく)なく笑うその魔法使いの背中に蹴りを入れて、

「賭けに勝ったやくざな金で、親に孝行しようとするんじゃないよ!」

 と、当時、未来の公爵夫人であらせられたルカさまが啖呵(たんか)を切った、という話も別の衛士から聞きました。

 このあたりの真偽のほどはいまもって明らかでありませんけれども。

 でも、きっと本当のことでしょう。

 わたしの勘によると。

 というよりは、つねづねのルカさまの御行状を拝見いたしておりますと、とても作り話には思えません。

 ですが、その魔法使いの方……どのような賭けをしていらしたのでしょうか。

 そこがよくわからないのが残念です。

 そうそう、ほかにも結婚式のみつきほど前でしたでしょうか……公爵閣下のごく親しい友人であらせられたウィンチェスター前公爵カレルさまが、この城にご来訪あそばされました。

 もちろん、公爵閣下のご婚約のお祝いに、です。

 たしか、現ウィンチェスター公爵閣下ミオさまを(ともな)われていらしたと記憶しています。

 カレルさまが、公爵閣下のお待ちになられていた客室へ向かっておられたとき、れいによって舞踏の練習を(のが)れるべく部屋から跳びだしたルカさまに会われたようでございます。

 会われた……というよりは、おそらく「出くわした」とか「ぶつかった」という表現が正しいのでしょうが。

 あとで、ルカさまは客室で正式にカレルさまにご挨拶なさられたのですが、そのとき、

「貴女のような覇気(はき)光彩(こうさい)(あふ)れた女性を、是非、我が息子の妻にも迎えたいものです」

 と、カレルさまは(おお)せになったとか。

 お世辞にもほどがある、と思うか、カレルさまはやはり公爵閣下のご親友であらせられた、ととるか、カレルさまは見る目がおありになった……と感心するかは、ひとによりけりでしょう。

 わたしがどう思うかは……誰かに読まれてしまう可能性のある、ここには記さずにおきます。

 これは忘れないよう、こころのなかに留めておきましょう。

 蛇足ながら、このときのカレルさまへの公爵閣下のお返事は、

「その意見には大賛成だが、でも、ルカはわたしのものだからね。あげないよ」

 だったとのこと。

 ほんとうかどうか、分かりませんが。

 ちょっと、もっともらしすぎます。

 誰かの作り話かもしれませんわね。

 こののち、ウィンチェスター公爵さまからは、ご結婚の贈り物として、炎の魔導書『鳳花(ほうか)』が贈られて参りました。

 三万年ものまえの神々の大戦で、闇の御神とともに戦われた炎帝直属の精霊使いがご使用になられていたものとか。

 それが真実か否かは置くとして、永らくウィンチェスター公爵家秘蔵の品となっていたものです。

 これにはさすがに、公爵閣下も目を丸くされておられました。

 この魔導書をお持ちになられたカレルさまは、

「炎の書は奔馬(ほんば)のようなものでね。生真面目だけがとりえのわが公爵家では、残念ながら(ぎょ)しきれる者がいない。だが、君の花嫁どのとは気が合うだろう」

 と、公爵閣下に(おっしゃ)られたのだとか。

 ほんとうに……ルカさまとカレルさまは、どのような出会いかたをなさられたのだか。

 シオンさまとルカさまの出会いが、ルカさまが木から落ちてきたところをシオンさまが助けられた……というのは有名な話ですが、それに匹敵(ひってき)するかもしれませんわね。

 知りたい気もいたしますが。

 また、(さいわ)いなる花婿、シオンさまについては、こんな話がありました。

 祈族(きぞく)に転化する儀式のため、王都アルジェスにひとつきのあいだ留まることになりましたご婚約者のルカさまに会うために、わたしの直接の上司にあたる領宰ライラ・デュカスさまの目を盗んで、三日と空けずに王都を訪れていらっしゃった……というのは、いまでもエルザス領内津々浦々、十代の若い方以外なら、どなたでもご存じのこと。

 ほんと、あの熱愛ぶりは……羨ましいかぎりでしたわ。

 この覚書を懐かしみながら読むことになる、未来のわたしの(かたわ)らにも、あのくらいわたしを愛してくださる、旦那様がいればいいのですけど。

 こんなに仕事に追われているようでは、無理かもしれませんわね。

 それはさておき、その公爵閣下が王宮でルカさまに仕えていた女官たちに、口調こそ丁寧でありましたものの「仕事に支障(ししょう)をきたします」と、ルカさまの仮の住まいとなっておりました王宮のお部屋を叩き出され、たまたま(ごう)を煮やして公爵を迎えに来ていた領宰さまと出くわして、問答無用で自領へ連行されていった……という逸話(いつわ)は、のちに領宰さまがわたしたちに箝口令(かんこうれい)を敷いたため、そとへは意外に伝わっておりません。

 むろん、それしきのことで(くじ)けるような公爵閣下ではありませんでしたが。

 あの頃の領宰さまのご様子は、お(いたわ)しいかぎりでした。

 通常のお仕事に、結婚式などの準備。

 そのうえ、目を離すとすぐにいなくなる公爵閣下……。

 なみたいていの方に勤まるお仕事ではございませんでした。

 でも、領宰さまには同情する(かたわ)ら、おふたりの日常のやりとりを小耳(こみみ)に挟むたびに、笑いを(こら)えるのに一苦労でしたが。

 いつも、おふたりとも大真面目な顔をして、ご冗談にしか聞こえないようなことを(おっしゃ)っておられましたから。

 公爵継嗣(けいし)公女リナさまは、一年半の日程で王立魔法院へ入学し、基礎的な領地の経営及び商学の知識を学ぶことになりました。

 リナさまの学習における成果は目覚ましく、また、模範的であった、とのことです。

 わたしも、一年半ののち、学院からお帰り遊ばされたリナさまの言葉の端々に現れる、ご勉学の上達ぶりには、目を見張らされました。

 また、リナさまは、余技として絵札による占いを(たしな)み、その可憐(かれん)容貌(ようぼう)ともあいまって、学院じゅうの注目の的となっていらっしゃったとか。

 当然ですわね。

 余談ながら、リナさまは魔法院での学習ののち、公爵閣下の血により、転化の儀式を受けられました。

 よって、姉君のルカさまとはほぼ一年、外見の年齢で差がつくことになりました。

 はたの者から見れば、まるで違いはございませんが、リナさまはそのことをお気になさいまして、

「姉さんは十九だけど、わたしは二十なのよ」

 と、いまでもよくわたしたちに(こぼ)します。

 やはり、女性にとって、十代と二十代の差は、大きいですわね。

 公爵閣下もそのあたりにまでお気を配られてくださいましたら、よかったのに。

 ま、これは結婚式とはあまり関係のないことなのですけれど。

 さて、結婚式にまつわる事柄での最大の功績者は、やはり我が上司、領宰ライラ・デュカスさまをおいてほかにないでしょう。

 じつのところ、領宰さまは当初、比較的小規模の式を()り行う予定でした。

 そのために式の日をわざわざ、創世の祝祭日に決めたのです。

 この祝祭日は秋の豊国の祭りと同等の重要性をもち、各領主みなさまがたが、それぞれに自領での式典を抱えていらっしゃいます。

 結婚式の翌年に予定されておりましたリナさまの爵位継承式典に備え、出席者を抑えることで経費の抑制を(はか)ろう……という、目論見でした。

 わたしなど、当時は、ちょっと公爵家がおこなうにしては、姑息(こそく)なような……気がしていたのですが。

 でも、領土の運営は領民の税によるものですものね。

 ですが、その思惑は水泡(すいほう)()しました。

 花嫁のいちおうの父上にあらせられるところの国王陛下が、全貴族、及び、高等法院議員、豪商、その他、国じゅうの著名(ちょめい)な者たちすべてに、勝手に式への招待状を送りつけてしまっていたのです。

 もったいなくも……われらが主君たる公爵家には、内密(ないみつ)に。

 国王の招待となれば、みなさま断るわけにはゆきません。

 領主さまがたは自領の式典を代理の者に任せ、また、議員以下そのほかの者たちも、軒並み出席の意向を示され、式の出席者はおおよその予定で三千人を見込むこととなりました。

 なんと、当初こちらのほうで予定しておりました八倍です。

 式のふたつきほど前に、その事実が露見(ろけん)してからというもの、領宰さまは会場の設営、宿舎の確保等に狂奔(きょうほん)することになりました。

 もちろん、わたしたちも、あのときは死ぬかと思うぐらいの日程で、様々な作業に明け暮れました。

 規模があれだけ大きくなってしまいますと、それまで準備していたことなど、すべて白紙に戻してしまわねばなりませんでしたから。

 広間を予定していました式場も、ご出席の方々を収容しきれない、とのことで急遽(きゅうきょ)、屋外に移しましたものね。

 残念ながら、いまでもあの頃を思い出すと、愚痴(ぐち)が頭を渦巻きます。

 (おそ)れ多くも陛下にたいする愚痴まで(こぼ)れてきそうなので、もう、なるべく思い出さないようにしています。

 ほかの秘書官のかたや、不運にも我々のお手伝いに任じられた使用人のかたがたと、宿舎で雑魚寝(ざこね)したりするのは、なかなか新鮮な経験でしたけれども。

 また、これには続きがあります。

 なんのおつもりか陛下は招待状に、

『出席の際には、各自一輪以上の花を持参し、我が娘と公爵家の幸福な花婿に(ささ)げること』

 などという、(ただ)し書きをつけていらっしゃいました。

 それで、式の三日前から、中庭と広間を埋め尽くし、なお収まり切らぬほどの花が、世界中から届けられることになりました。

 腐らないような贈り物なら、式のひとつきもふたつきもまえから少しづつ贈られてくるものですけど。

 花は枯れてしまいますから、そうはいきません。

 式の当日に見事に咲き誇るよう、丹精(たんせい)された花々が、いっときに。

 それはもう、いらっしゃるご予定のみなさまが、ひとりのこらず一抱えも二抱えもあるような花束を……。

 その事務手続きや目録の作成などは、領宰(りょうさい)さまのお手を(わずら)わせることなく城の非番の衛士(えじ)たちが有志を(つの)って、手分けしておこなってくれたのですが。

その甲斐もなく領宰さまは、式の二日前にとうとう過労で寝込んでしまわれました。

 そして、その領宰さまが、病状を見舞いに寝室を訪れた公爵閣下に、

「まるで、どなたさまへかの意趣返(いしゅがえ)しのようですわね」

 と、鋭く(にら)みつけて呟いた……という話を、ここでは付記(ふき)しておきましょう。

 これは、そのとき領宰さまの枕元で、式の行程の最終確認をしていた、わたしだけが知っている事実です。


 かくして、かの美しき花嫁と花婿の、(さいわ)いなる婚礼の日は訪れました。

 あの夢のような日のことは、忘れもしません……

  (後略)



 黒鳥の城の湖をはしる石の道に、式の招待客たちが整然と居並んでいる。

 その式場の(はる)か向こう、湖岸には、式のあとに馬車に乗って姿を現すはずの公爵夫妻をひとめ見ようと、エルザス領の各地から集まったひとびとで埋め尽くされているが、式場からは見えない。

 銀月の(とき)

 湖の上、あたりは光砂(こうさ)の柔らかい光に包まれている。

 石の道の両側の水面は、遙かに遠くまで一面に浮かべられた花々に埋められている。

 式の招待客たちが、幸福なふたりに贈った花々である。

 湖をわたる風が、ときおり、濃い花の香りを運んでくる。

 深紅の絨毯を敷き詰めた壇の下に、花婿が立っている。

 花婿の(かたわ)らに控えているのは、公女リナ。

 現在、魔法院に留学中であるが、姉と公爵の結婚式に参加するため城に戻ってきている。

 そして今回の式の進行役を務めることになっていた。

 本来ならば、領宰(りょうさい)ライラがその役を務めるはずであったのだが。

 彼女は一昨日(いっさくじつ)、過労で倒れてしまっている。

 いまは、この式典の見える部屋に寝台を運んで、式のなりゆきを見守っているはずである。

 鐘が鳴り響いた。

 花婿が、リナとともに壇上にあがった。

 リナは壇上に(しつら)えられた演台を回り込み、招待客を見渡せる位置に立つ。

 花婿は演台の前、リナと向かい合うように立ち、やがて訪れる花嫁を待った。

 式場が湧いた。

 城の入り口のほうから、年若い青年に手を取られ、花嫁が姿を現したのだ。

 身の丈を遙かに越えて、彼女の後ろに流れているヴェールを捧げ持つ少女を、ふたり従えている。

 花嫁を飾るそのヴェールと冠は、国王陛下から贈られたもの。

 ヴェールには王家の家章の一部をなす百合の花、その花園に遊ぶ白鷺が意匠されている。

 花嫁の冠は、銀と緑柱石と金剛石の織りなす、葡萄の冠。

 白鷺と葡萄の冠は、公爵家の家章である。

 花嫁の手を取る青年は、花嫁の父親である国王クアスの代理を務めるカナン王子であった。

 彼と花嫁とは、国王の親族と血族という違いはあるものの、系譜のうえでは、きょうだいとなる。

 夜の深淵を想わせる漆黒の髪と瞳は、彼の父によく()ているが、面映(おもは)ゆく花嫁の手を取るその姿には、穏和(おんわ)さが(にじ)んでいる。

 花嫁は、壇をおおきく回り込み、正面から壇上にあがった。

 一般的には、招待客たちの向こうから式場にはいるのが普通ではあるが、今回は、それは不可能である。

 カナン王子が、花嫁の顔を(おお)うヴェールを、(うやうや)しくあげた。

そして、公爵に一礼、ふたりの少女とともに招待客の居並ぶ場所へ下がる。

 招待客の前のほうから、感嘆の声が漏れた。

半分は、むろん花嫁の美しさに。

 もう半分は、花嫁と公女リナの容貌が、あまりにも似通っていることに。

「エルザス公爵シオン・エルザス。ならびに、王女ルカ・クレスエンド・セトゥラ」

 リナが花婿と花嫁の名を呼ばわった。

 ルカは国王の血を()けたことによって、王の血族、王女となった。

 クレスエンドは王族の家名。

 セトゥラはクアスの血族であることを示す冠称(かんしょう)である。

 これらは、ルカが公爵と婚姻を結んでも消滅しない。

 公爵夫人となったルカの正式な名は、ルカ・クレスエンド・セトゥラ・エルザスとなる。

 しんと静まりかえった式場に、なおもリナの声が響き渡る。

(なんじ)ら、たましいを結ばんとする者たちよ。汝らの(きずな)(あかし)を我に示したまえ」

 花婿と花嫁は、演台に用意された飾り(リボン)の両端をおのおの持ち、リナの前に捧げた。

「我はひとの意志として、汝らの絆に(こころ)みを与える。汝らが永久(とこしえ)を誓うならば、試みの剣は汝らの絆を断ちきること(かな)うまじ」

 リナは腰に帯びた短剣を抜き放ち、飾り布を断ち切る仕草(しぐさ)をした。

 短剣は本物だが、切っ先は丸くなっている。

 切ろうとしても切れるものではないが、もしも男女のどちらかが、婚姻(こんいん)を望まない場合は、この動作の際、自分の持っているほうの飾り布の先を手放す(なら)わしになっている。

 むろん、ふたりの飾り布は落ちなかった。

「ここに、ふたりの絆は永久の誓いとなった」

 広大な式場の隅々にまで染みとおる、透明な声音でリナは宣言した。

「汝らの絆を持ちて厄災を封じ、互いの道の果てるまで、その歩みの重なりしことを!」

 ふたりの前に長剣が置かれた。

 その(つか)に飾り帯を結ぶ。

 長剣に象徴される厄災を封じる、儀式。

「祝福を!」

 ふたたび、鐘が鳴り響く。

 リナの声に、式場にあるすべての者が唱和した。

 その割れんばかりの喝采(かっさい)のなか、ふたりは向かい合い、くちづけを交わしあう。

「互いの道の果てるまで……」

 祝福の嵐のなか、花嫁にだけ聞こえる声で、シオンが囁いた。

 その頬に浮かぶのは、花のような微笑。

「ルカ、楽しくやろう」

 ルカはおおきく頷いた。

 瞳は涙に(うる)んでいる。

「シオン」

 ルカは、最愛のひとの名を呼んで、その腕に身を投じた。


あとはエピローグを残すのみとなりました。

神々のいないこの世界では、奇跡はおきません。

ひとの意志と願いだけが、世界を動かしていきます。

 

ささやかに。

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