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ある日、電車の中で

作者: 想多メロン

 会社の帰り。電車の中での出来事。

 ある駅で大学生くらいの男女が乗ってきた。男の子は結構なイケメン。女の子はちょっと地味な感じ。女の子だけが随分酔っている様子。


 女の子は自分がベロベロであることをしきりに男の子に謝罪している。敬語を使っているところを見ると、大学の後輩なのだろう。

 男の子は、それに対して、それほど怒った様子ではないが、「黙れ!  酒臭い!」と冷たい対応。しかし、女の子が電車の揺れでよろめく度に少し手を差し延べている優しいやつだ。

 ちょっと微笑ましく感じた。


 一つ目の駅を通過した頃、今まであれこれどうでもいいことばかり話していた女の子の言動が少し変化した。しきりに男の子に「明日はきっと今日の記憶がないと思う」ということをアピールしはじめた。また、「酔っているが、体調はとても良い」とも。明らかに男の子にへのアピールなのだが、男の子はそれを見透かしてかつれない反応。「だったらヨロヨロして迷惑をかけるんじゃないよ!」などなど。

 地味な女の子はその度に「スミマセン」を連呼。


電車がガタンと揺れた。その瞬間、女の子は私に少しぶつかった。といっても少し触れた程度だが。


 慌てて私に謝罪する男の子。

「問題ないよ。それにしてもよく飲んだんだな」

 私は笑った。男の子はチラリと女の子をにらんでから、私に苦笑いをした。


『ガタンッ!』

 電車がまた揺れる。次は狙ったかのように男の子の方によろめく女の子。他の人に迷惑かけるくらいなら、と支える男の子。


 なるほど、先ほどのはこの前振りだったのねと納得。

 女子というものはしたたかな動物だと感心した。


 そしてまた『今日のことは明日の記憶にはないと思う』と。

 残念だが、男の子にその気はない様子。また、失礼な話だが女の子の器量はそれほど良くない。


「わかったからしっかり立て!」

 小さな声だが少し強めにたしなめる。


 次の駅に着いた時、私の後方の座席が空いた。

「後ろ空いたよ、座らせたら?」


「いや、次の駅なので。今、下手に座らせると余計に面倒になりそうなので……。ありがとうございます」

 極めて礼儀正しい。この女の子が熱烈にアピールする気持ちがわかるような気がした。きっとすごくいいやつなのだろう。


 ようやく目的の駅に到着。実は私もこの駅で降りる。後方から声が聞こえる。

「ほら! さっさと歩け!」


 その後はどうなったのか知らないが、あの男の子のことだ。しっかり送り届けたのだろう。


 私は心の中でこの状態に命名した。「お持ち帰り」ならぬ「引き出物」と。

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