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夏のサンタ

作者: 吉田 こうじ

 僕が台所で夕食の支度をしていると「ピンポーン」と玄関のチャイムが鳴った。

「ピンポーン」

「ピンポーン」とあまりにしつこく鳴らすので玄関のドアを開けると、白髪ヒゲもじゃの小太りのお爺さんが立っていた。

「あの、何か用ですか?」

 近所のお爺さんでも訪ねてきたのだろうか?

「ふむ。今夜は肉じゃがですかな?」

 小太りのお爺さんは、鼻をヒクヒクさせながらそう言った。

「ええ。まあ、そうですが.....」

「それはすばらしい。肉じゃがはワシも大好物です。」

「えっ?いや、何の用ですか?」

 僕は、少し口調を荒くして聞きなおしてみた。

「ふむ。そう興奮するでない。別に怪しいものじゃない。」

「何かの営業とかなら、お断りしますが....」

 お爺さんは、小太りのからだをゆさゆさ震わせて笑いながら「営業?ワシがかね?そう見えるのかね?」と言った。

「いや。もちろん、そんな風には見えませんよ。白髪ヒゲもじゃで、おまけにTシャツ短パンにサンダル姿で営業をするひとなんて聞いたことがない。」

「このお爺さんは、ボケているのかな?」と思ったが、それは口にしないでおいた。

「別にボケちゃおらんよ。」

 お爺さんは、じろりと上目遣いで、僕を睨んで言った。

「.....あの、忙しいのでそれじゃ。」

 もしかして、心を読まれたか?と薄気味悪く感じ、僕は慌ててドアを閉めた。

 台所に戻ると、さっきのお爺さんが立っていて、勝手に鍋の中を覗きこんでいる。

「ちょっと!何ですか?あなた!」

 僕は、びっくりして大声をあげた。

 お爺さんは、両肩をビクッと震わせて、振り向きながら答えた。

「はあ?肉じゃがは、ワシも大好物だと言ったろう?」

「いや、そうじゃなくて、何、勝手にひとの家に上がりこんでいるんですか?そもそも、どこから?」

 お爺さんは、鍋の上の換気扇を指差して「そこから。」と言った。

「はあ、何なんだ?このお爺さんは一体?」

 なんだかよくわからないけど、まともなことを聞くのが馬鹿らしくなって、

「それ、一緒に食べてもいいですよ。ただし、食べたら帰ってくださいね。」と言うと、お爺さんは出っ張ったお腹をぶるんと震わせて喜んでいるようだった。

 僕は、このなんだかよくわからないお爺さんと、テーブルに向かいあって、肉じゃがを食べていると、「絹さやは入っておらんのかね?あれが入っておらんと彩りが寂しかろう?」などとお爺さんはぶつぶつ呟いていた。

「あの、だいたい、あなた、何者なんです?」 

 僕が尋ねると、お爺さんは口にじゃが芋を頬張りながら答えた。

「うん?誰だと思うかね?」

「 チッ このジジイめ!」僕は少しイラついて「あなた、サンタでしょ?」と問い直した。

「ホッホッホッ」

 お爺さんは、口の中のじゃが芋の熱を冷ますのと同時に愉快そうに笑っている。

「はあ、まったく、だいたい、白髪ヒゲもじゃで小太りって言ったらサンタクロースを連想しますよ。その上、換気扇から侵入するだなんて、煙突の代わりですか?何より、なぜか、あなたには、警戒心が湧かない。親しみすら感じてしまう。」

 僕は、いちいち、そんなコトを説明するのも面倒だったが証拠を突きつけないと、このお爺さんは白状しそうにないと思った。

「お見事!だがね、そんなコトを考えなくても、昔の子供達は、皆、一目でワシがサンタクロースだとわかったもんだがね。」

 サンタは、片眉を釣り上げて、僕を睨みつけた。

 僕は、抗議したい気持ちになって、「だいたい、今は、夏ですよ?季節外れじゃないですか?」と言った。

「そんなこと、ワシもわかっとる。だから、夏らしい格好をしておるじゃろ?」

「いや、そうじゃない!あなたの見た目がサンタクロースのようだと思っても、Tシャツ短パンで夏に来られたら、サンタクロースだとは思わないってことですよ。」

 僕は、きっちりと自分に非がないことを告げるつもりだったが、

 サンタが自分の格好をあらためて確認し、「ふむ。まあ、ちょっとカジュアルすぎたかね?」と答えて少し申し訳なさそうな顔をすると、なんだか悪い気持ちになって、「いえ、いいんです。まあ、すぐにサンタクロースだと気づかなかった僕も悪かったとは思いますから....」と謝罪した。

「それで、サンタさんが、何の用なんですか?」

 家には、プレゼントを貰うような子供はいない。そもそも、僕は独身なのだ。

 そう告げると、サンタは、驚いた顔をして言った。

「ほうほう。サンタクロースが家を訪ねる理由といったら決まっとるじゃろ?わざわざ、肉じゃがを食べるためだけにやってくると思うのかね?」

「ええ、そうですね。サンタがひとの家に侵入して食べ物を漁って帰っていたら、誰も、サンタさんに敬意を払わないですもんね。」

「ふむふむ。わかっとるじゃないか。だったら、ワシがやることと言ったら決まっとるじゃろ?」

「ですがね、見てのとおり、この家は、僕一人しか住んでません。プレゼントを貰うような子供はいませんよ?」

 サンタは全身をゆさゆさと一際大きく揺らして笑うと、

「ホッホッホッ、お前さんは、何もわかっちゃおらん。自分では大人のつもりかもしれんが、ワシから見れば子供じゃよ。だったら、ワシがお前さんにプレゼントをするのに何か問題があるのかね?」と言った。

「まあ、だいたい、そう答えるのだろう。」とは思っていたが、それには触れず「それでは、サンタさん、僕にどんなプレゼントを頂けるのでしょうか?」と聞いてみた。

「ふむ。そうじゃな。実のところ、ワシは、今、持ち合わせがないのじゃよ。ほれ、例の大きな袋も持っておらんじゃろ?」と言って、サンタは肩をすくめてみせた。

「はあ。それじゃ、ただ、メシを食いに来ただけですか?」

「まあ、結果的には、そうじゃろな....」

 先ほどまで大きく見えていたサンタのからだが小さくしぼんだように見えたので、なんだか可哀想に思って、僕は助け舟をだしてみた。

「いや。そんなこともないですよ。なんというか、まあ、こうしてサンタさんが来てくれただけでも嬉しいです。それにプレゼントをねだる歳でもないですから。」

 なんだか、照れくさい気持ちになったが、僕の言葉で、サンタが元気を取り戻したようなので安心した。

 そのあと、僕とサンタは、「ぼちぼち帰って、トナカイに食事を与えんといかんな。」とサンタが切り出すまで、小一時間程、話をしながら食事をした。

 帰り際、サンタは、「今日は、ありがとう。ワシももう歳だし、今年のクリスマスは、もう引退するかもと思っていたのじゃが、頑張れる気がしてきたわい。」と陽気に笑って去っていった。

 サンタが帰ってから、僕は、なんだか少し寂しい気持ちになって食器を洗っていると、「絹さやが入っていない。」と愚痴っていたサンタの言葉が思いかえされた。

 牛肉、じゃがいも、人参、しらたき、絹さや、茶、黄、赤、白、緑、なるほど、絹さやが欠けてちゃ、サンタのイメージカラーに足りないな。

 もしかすると、サンタは、スパゲッティも大好物なのではないだろうか?トマト、パスタ、バジル、赤、白、緑、他にはどんなメニューがあるだろう?

 そんなことを考えていると、なんだか、愉快な気分になって、

「サンタさん、ちゃんとプレゼントは貰いましたよ。」とつぶやいてみた。

                                           Fin

 









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