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人形遣いとアルバイト 2

予定を前倒しして今月あと一回ぐらいは更新してもいいんじゃないかなと思って投稿。

 シューレを治めるハイエルフのローウェン・フォン・ファルエンは頭を抱えていた。ゲーム的な解説を入れるなら彼はこの世界では二○人程度しかいない貴重な転生者であるので実年齢は今年で八○○歳を迎える。転生前は四五○年、転生後は三五○年という途方もない年月を生きてる彼が頭を悩ませているのは町の命運を分ける重要な案件──などではなく、末娘についた。


 末娘のフリージア・ファルエンは人族の使用人との間に生まれた。人族の血が混じっているとは言え、エルフの血を色濃く継ぎ、外見もエルフそのものなのでエルフと名乗っても差し支えがない。


 その末娘たるフリージアは貴族から見れば何かと問題が多い。女でありながら自ら剣を手に取り、魔法を駆使して各地を駆け回る毎日を送る。幸い、末娘というだけあって大きく問題視はされていないが父としての心境は複雑だ。優秀な護衛を付けようにも『自分より弱い奴に護られるのは屈辱の極みですわ』と一蹴される。幼少の頃より世話役をしてきたアリッサの言うことには幾分素直であるのが唯一の救いだが、それもそろそろ限界かも知れないと感じている。


『お父様。私、東方の森にある遺跡へ向かおうと思います。あそこには栄光時代のアーティファクトが眠っていると小耳に挟みましたの。冒険者としては是が非でも確認するべきだと思いません?』


 贔屓目を抜きにしても可愛い娘の笑顔が、このときばかりは憎らしくて仕方が無かったことを追記しておく。ついでに人肌が恋しいからと言って一夜の過ちに走るものではないと反省した瞬間でもある。


 ローウェンとアリッサの必死の説得の末、落としところとして三日の期限を設けることになった。三日までに娘のお眼鏡に適う冒険者を連れてくること。それが叶わなければアリッサを連れて出立すると。


 各地から冒険者が集まるシューレでもフリージアと肩を並べられるだけの実力者を探すのは難しいというのがローウェンの見解だ。他国に目を向ければ彼女より強い猛者を探すのはそう難しくはないが、話し合いで設けた期限がそれを許さない。今から兄妹たちを呼び戻すにしても、時間が足りなさ過ぎる。いや、時間があったとしても応じてくれるかどうか微妙なところだ。


 やはり一二○以上の実力者など、どだい無理な話だったかと頭を抱えて絶望するローウェン。だが天は彼を見捨ててはいなかった。


「旦那様」

「なんだ?」


 呼ばれて顔を下に向けると執事服を着た、身長一○○センチにも満たないピクシー族のアレスが直立不動の姿勢で立っていた。短命な種族だが非常に優秀なので後任が育つまでの間ということで臨時雇用しているが、最近はこのまま正規の執事にするのも悪くないと考え始めてる。


「旦那様が出した件の募集を見たという御方が来ました」

「……それは、本当か?」


 自分で出しておきながらまさか志願者が来るとは思わなかった……といったリアクションに対して、アレスは微動だにせず淡々と職務をこなす。


「応接間に待たせてるのか?」

「いえ……。実力的に問題がないか試験を受けさせるべく中庭へ通してます」


 本当によく出来た使用人だと、ローウェンは素直に思う。もういっそこの件が一段落したら正規雇用の話を持ち出してもいいなと思うくらいに。


「分かった。すぐに向かう」


 丁度書類仕事も一段落付いたところだ。気分転換も兼ねて問題の志願者がどの程度の実力者であるか、この目で確かめてみようではないか。

 ……少なくともこのときのローウェンはそんな軽い気持ちだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 弥生とリーラを出迎えたアリッサはその足で二人を中庭へ案内した。求人用に張り出された羊皮紙には省かれていたが、この仕事は使用人としての技量よりも護衛能力と純粋な戦闘力、この二つが求められる。


(まぁ、何とかなるかな……?)


 中庭に通され、試験官たちを観察する。

 黒ずくめの、如何にもエージェントっぽい服装をした執事たちは軒並み一○○レベルを超えてる。目に見える範囲での武装はダマスカスソードにカイトシールドで固め、メイド服を着たアリッサがアークワンドを装備してる。レベルも一一○と頭一つ抜けてる。


 抜けているのだが、未だにゲーム感覚が抜けてない彼から見れば『通過点にいる初心者』程度にしか思ってない。このレベル帯で戦う魔物も複雑な攻撃手段・厄介な特殊攻撃を持つ奴などいないし、属性だって一つに統一されている。今、彼が一番心配してるのは加減を間違って殺してしまわないか、その一点のみ。


 執事が四人とメイドが一人の計五人。数字の上では劣勢も良いところだが全く負ける気がしない。ただ、今回は護衛能力を見るということで人間に見立てたカカシがある。実力の有無に関わらず、この人形を破壊された時点でこの話はなかったことにされると、アリッサは念を押して説明する。


「私たちの準備は整いましたが、そちらはそれで大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫です」


 何の気負いもなく答える弥生に眉をひそめるアリッサ。彼は見たこともない武器を腰に下げてるだけ。メイド服を着た女性にしたって防御力の高い装備を身に付けてるようには見えない。もし彼女に【アイテム鑑定】があればリーラの持つ装備の質を知ることが出来ただろう。


 ほんの一瞬、油断しそうになる心を強く戒める。仮にもあの求人募集を見てやってきた冒険者だ。もしかしたら二人とも速さと手数で攻めるタイプかも知れない。


「では、参ります」


 宣言と同時に動いたのはアリッサ。男達を盾にして後方から魔法を唱えるスタンダードな戦法を取ってくるだろうと予想する弥生とリーラ。だが二人の予想を裏切るように彼女は果敢に突撃してきた。それに合わるように、弥生から見て右半分の男二人がアリッサに追随し、残る二名は【ファイヤーボール】の詠唱に入る。


(浪漫型かよ!?)


 予想を裏切るタイプに思わず目を見開く。自由度が高いVRMMORPGのキャラ育成は大きく分けると二種類ある。


 一つは純粋な強さ・職業にあったステ振りをするスタンダードなタイプ。人形遣いなどという、公式地雷を選んだ彼も程度の差はあれど、強さを追求してるのでこちらに分類される。


 そしてもう一つは浪漫型と呼ばれるもの。一般常識として魔法職たる【ウィザード】や【プリースト】にSTRを割くプレイヤーは殆どいない。割いたとしてもそれはあくまで重量制限を緩和することが目的であって、メインにはならない。


 だがそこは多くの人間が参加するMMOだ。ユーザーの中にはそうした奇抜なステ振りをするプレイヤーも居る。支援職の花形とも言える【プリースト】を敢えて物理特化に仕上げたり、魔法も剣もイケる【ウィザード】を作ったり、中には容姿が好きという理由で転職しない、通称エタ職を貫くプレイヤーまで存在するほどだ。


 因みにこの浪漫型を否定するかのように【魔法剣士】と【バトルプリースト】が登場したときは反響こそあったが『浪漫とは効率ではなく夢を注ぎ込むもの! かつてのBOTのように機械的にレベリングしてる効率厨には一生分からないだろうけどな!』と、若干負け惜しみも混じった発言で解決したとか。


 僅かな動揺。その隙をしっかり突くようにアリッサは左右合わせて四本のダマスカスナイフを指で挟み、【クイックスロー】で一斉投擲する。見かけ倒しかと、失望を抱いての投擲。が、ここで終わるほど相手は甘くはない。


「っと、危ない危ない……」


 咄嗟に抜いた剣を横薙ぎに一閃させて八本全てのナイフを払い落とす。完全に虚を突いたと思った奇襲は、しかし弥生にとっては驚異にはなり得ない。


 なら迫る男たちはどうかと思い、視線だけで様子見をする。リーラと名乗った人形(外見が殆ど人間レベルであるせいで額縁通り受け止めた者は誰もいなかった)は純白の光を放つ剣でダマスカスソードとカイトシールドをさながら野菜の千切りにした上で【バインド】で身体を拘束し、その上に重力魔法【グラビティ】で地面に叩き付ける。それだけでもう打つ手なしというのにトドメとばかりに【クイックサンド】で地面を沼にして、本当のトドメは死んだと思った相手に刺すものだと言わんばかりに【フリーズ】で沼もろとも拘束状態のまま凍結する男たち。見た目に反してやってることは鬼だ。少なくとも遠目に見たアリッサと執事たちの目にはそう映った。


 それを見た直後、アリッサは全力で後方へ飛ぶ。結果的にその判断は正しかったと目の前の光景を見て思った。


「ちぇ。突っ込んでくれたらサンドイッチのハムにできたのに」


 愚痴を零しつつ、後衛が飛ばした【ファイヤーボール】をしっかり剣で切り払いながら残念そうに呟く。


 設置型トラップの一種、【サンドプレス】がガバッと地面から盛り上がり、相撲で言う猫騙しのように長方形にくりぬかれた地面が迫る。あのまま突撃していれば自分は間違いなく【サンドプレス】の餌食となり、彼の言う通りサンドイッチのハムになってたかも知れない。


「……そう簡単にやられませんよ」


 負け惜しみだと分かってても、そう言わずにはいられなかった。

 ダマスカスソードとカイトシールドを一瞬で千切りにした上に徹底的に相手を無力化したメイド一人だって厄介だというのに、魔法を斬り伏せた技量に加えて設置型トラップによる保険。一見してラフに見えるあの格好は、相手のミスリードを誘う為の装いだったと言わざるを得ない──と言うのがアリッサと執事二人の見解だが、実のところ弥生に関してはほぼ初見の予想で合ってたりもする。その予想をあっさり否定したのは彼が受け手に回り、トラップなどという姑息な手段を用いたからに過ぎない。


 一方の弥生は終始優勢に立ってはいるものの、目の前の敵を侮れない相手だと素直な評価を下してた。もしも彼らと同等の強さなら最初の奇襲攻撃で甚大な被害が出てたかも知れない。


 負ける戦いだとは思わないが、思わず敗北をイメージさせられるだけのモノを持っている。少なくともアリッサに限って言えば環境次第では転生するかも知れない。


(保険掛けとくか)


 背後のカカシに不用意に近づけないように発動速度を重視した設置型トラップ【クイックバインド】を四方に設置して単騎で突撃。狙いは一番近いアリッサから。


「【スタンバッシュ】」


 そのまま攻撃すれば間違いなく必殺の一撃となるのでダメージの入らないスキルを選択する。舐められ てると思ったアリッサだが、【スタンバッシュ】を受けた直後、すぐに考えを改める。


(なんて一撃……ッ。気絶耐性の高い防具を身につけてなければ──いえ、彼が手を抜かなければ確実に死んでた!)


 威力もそうだが、何より目を見張るのが攻撃速度。初動すら確認する間もなく身体に撃ち込まれたスキルは芯まで響く。ダメージがないと分かってても膝を付いてしまう。


 膝を付いた相手ならわざわざ追い打ちするまでもないだろうと、既に楽観的な思考に切り替わった弥生は追撃せず、執事達に狙いを変更する。リーラも自分のノルマを達成したので既に傍観を決め込んでる。主が手伝えと言えば手伝うが、主の手柄を横取りするような行動は彼女の主義に反する。執事達は何もせず、状況を静観するリーラの姿に恐怖を覚えたが彼らがそれを知る機会はない。


「【ダッシュ】【スタンバッシュ】」


 アリッサに耐えられたことを考慮して、スピードを上乗せした【スタンバッシュ】を叩き込む。が、今度はノックバック効果が強過ぎたせいで敷地と街路を仕切る黒光りする柵にめり込ませてしまった。


 まずいと思い、慌てて駆け寄って【ハイヒール】を掛ける。意識はないが重傷ではないことにホッと胸を撫で下ろす。見た目はそう見えるだけかも知れないが……。


「……見事です。文句なしの戦闘力です」


 痛みから立ち直ったアリッサがパンパンと、スカートに付いた埃を払いながら賛辞の言葉を送る。盛大にやらかした本人はどう反応して良いか分からず、適当に相づちを打つ。


「えっと、試験は合格ということでいいんですよね?」

「はい。エルフォード様ほどの戦闘力ならばお嬢様も文句はないと思われます」

「あー、そう言えばお嬢様の護衛がメインでしたっけ。……あ、それと事後報告になりますが私、使用人の真似事とか経験ないんですが……」

「あぁ、それでしたら問題ありません。お世話はあくまで私のお仕事ですから」

「良かった……」


 肩の荷が降りたとばかりにふぅっと溜め息を吐く。と、そこで中庭へやってきた一人の男性に気付く。


「旦那様、いらしたんですか?」

「いや、今来たところだ。……この様子を見る限り、彼は合格かね?」

「はい。お恥ずかしい話ですが、私たちでは手も足も出ませんでした」


 あくまで冷静にコメントするアリッサに対して、ローウェンは考え込む。実際に模擬戦をこの目で見てないから判断はしかねるが、あのアリッサが手も足も出なかったというのだ。それほどの実力を持った流れの冒険者がまだ居たことに驚きと疑問を抱くが、今はこの幸運を素直に受け止めることにした。


「初めまして、冒険者殿。ファルエン家当主のローウェン・フォン・ファルエンだ。宜しく頼む。」

「エルフォードです。免許は持ってないので自称・冒険者になります。若輩者ではありますが尽力の限りを尽くさせて頂きます、旦那様」


 当たり障りのない挨拶を交わしながらローウェンを見上げて、小さく驚いた。エルフ族に良く見られる美形は、果たして言葉にすることが可能なのだろうか。少なくとも語彙が貧弱な弥生から見た印象はそうだ。


 勿論、相手が美形だから驚いた訳ではない。地球で言うところの白人に近い肌色ではなく、雪のように白く、それでいて芸術的な色合いで見る者を惹き付ける肌の色。


 普通のエルフと一線を画した存在であり、その正体を彼はよく知っている。


(冒険者のレベルが低いから期待はしてなかったけど居るんだな、ハイエルフ……)


 エルフと違い、ハイエルフは転生を経ることで名乗ることが出来るもの。通常のエルフ族より肌色に透明感がある。見慣れない人はエルフの亜種程度にしか思わないがある程度ゲームをやり込んだプレイヤーなら一目で違いが分かる。


「ところで、私が護衛するお嬢様というのは──」

「お父様、只今戻りまし……あら。お客様ですの?」

「フリージアか」


 剣を収めて、【凍結】状態の男二人の治療をしながら顔だけ動かす。

 腰まで伸びる金髪に紺碧色の瞳。均整の取れた顔立ちに全身から滲み出るお嬢様オーラ。何となくだが、自分の苦手なタイプだと思った。


「丁度良かった。今度、お前の遺跡探索に同行することになった護衛のエルフォード君だ」


 初めまして──と、挨拶しようとした矢先、フリージアは目を細め、無言で近づくと無遠慮に顔を覗き込む。何か気に障ることでもあったのかと思い、つい身構える。


「……ふぅん、なんだか冴えない男ですわね。お父様、本当にこんな男が私の護衛を務めるに値するというのです?」

「恐れながらお嬢様、そちらに居るエルフォード様の実力は折り紙付きです。現に私たちとの模擬戦では圧倒的な強さを以て完全勝利を収めました」

「へぇ、アリッサがそこまで言うなら期待してもいいってことかしら?」

「…………」


 無言で成り行きを見守る弥生は心中で溜め息を吐いた。これはアレだ、いわゆるツンデレお嬢様という奴だ。学生時代はツンデレに夢中になった時期もあったが、いざリアルでそういう女を見ると好きにはなれないタイプだ。


(そういやセリアも同じツンデレタイプだっけ……)


 ツンデレで真っ先に思い出したのは魔法特化に仕上げた三女のセリア。こちらは金髪縦ロールに加えて『おーほっほっほっ!』と、慎ましい胸を反らして高笑いをしたり一人称が妾だったりするエルフっぽっく作った人形。そして間違っても胸のことを指摘してはいけない。うっかり口が滑ってしまえば戦術級の大魔法が飛んでくる。


 普段はツンツンしてる癖にいざ主人に冷たくされると捨てられた子犬のようにデレる姿にグッと来た当時の自分。が、今はただの面倒臭い女に格下げされてる。戦力的には申し分ない上にリーラ同様、苦労して作った人形なので見捨てる気にもなれないけれど。


「まぁ、せいぜいこの私の足を引っ張らないよう励みなさい。私、弱い男は大嫌いですから。特に……かの有名なエルフォード様と同じ名前を持つだけの偽物は特に、ね」

「アリッサ、言い過ぎだぞ」

「お嬢様、もう少し言葉をお選び下さい」

「あら、私は思ったことを口にしてるのですわ。……ねぇ、自称・エルフォードさん? あなたは私を満足させるだけの強さを持ってますの?」

「それはフリージア様が判断すること。他人の評価など無用かと存じ上げます」


 まともに相手するのメンドクセーと思いながら適当にあしらおうと決めた弥生。仕事を受けた以上、庇護者との軋轢は避けるべきだと分かっているからこその下手。そんな彼の態度に初めて表情を歪めるフリージア。


「あら、逃げの一手ですの?」

「えぇ。自分はしがない小市民ですから」

「なんて情けない男。女に好き放題言われて悔しくありませんの?」

「口ではなく行動で語る主義なので」

「……ふん。張り合いのない男ね。ま、せいぜい明日の護衛では私の足を引っ張らないことね」


 他に罵り言葉が見つからなかったのか、負け惜しみ感全快の捨て台詞を残して屋敷の中へと消えていく。ローウェンはあんなに礼儀正しいのにどうして娘はああなんだろうという疑問を抱いたまま、その背中を見送る。


「セリアに似てますね。ああいうタイプの女性は将来、苦労するでしょう」


 暗に『刺々しく居られるのも今のうちだ七光りが取り柄のワガママ娘』という皮肉を込めて感想を述べるリーラに同意するよう頷く。仕事で来なければ間違いなく関わりたくない人種だ。


「済まない、娘に代わって非礼を詫びよう」

「いえ、身内にもああいうのが居ますから気にしなくて結構です」


 勿論、三女のことを指してるのは言うまでもない。

 そんな感じでその場はお開きとなり、アリッサの案内に従い客間に通される。元々宿を取る予定だった二人だが、宿泊費が浮くならそれに超したことはないと前向きに捉え、当主の好意を素直に受け取る。


「ふぅん……結構しっかりした部屋だな」


 領主という立場上、重役を持てなすことも考慮して見た目の華やかさを抑えた上品な調度品が使われてる客室。見た目の内装はともかく、彼の目に止まったのは部屋全体に掛かっている魔法だ。


 指定した空間内の音が外に漏れないようにする【サイレントルーム】に外敵の侵入を拒む【バリアウォール】に加えて各種属性に耐性を付けた上での永久付与。掛けられた魔法からしてローウェンが施したものだろうと納得はしたが、それでも普通の建物に防御魔法が掛かっているのは彼にとってはとても斬新なことだ。


 何しろゲームの建物は基本的に不死属性だ。勿論、意図的に壊せる建物を作ることだって出来るしそうした罠も存在する。ギルド対抗戦に至っては砦破壊も戦略の一つに組み込まれていた。わざわざ砦に爆弾を仕込んで解体工事みたいに綺麗に倒壊させるシーンが動画で好評されたときはちょっとした反響を呼んだとか。


(まぁヤバい話までは出来ないだろうな……)


【サーチ・サーヴァント】を掛けなくともこの部屋に会話を随時記録・報告する使い魔が放たれているのは何となく予想が付く。流石に無警戒に【サイレントルーム】を部屋全体に掛けているとは思えないからだ。


「夕食まで時間がありますが、何をして過ごしますか?」

「んー……寝る」

「……御主人様、お疲れになるほど動きましたか?」

「いやー、俺ってさ寝るの大好きな人間だから。つー訳で見張り頼む」

「承知致しました」


 もっと他にやることがあるのでは……という突っ込みを胸にしまい、主人から与えられた命令を忠実にこなす人形メイド。ダメな人だなと思う反面、だからこそ私が面倒を見て差し上げなければという、変な使命感を抱いているのはここだけの話。

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