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間章

書いてるうちにルーン金貨の価値設定が少し変わったので修正しておきました。

 弥生たちが商隊の馬車に同乗させて貰っている頃、世界樹の町を収める領主の家では緊急会議が開かれていた。


 中央に町を収める領主のザード。その両脇に座るのは冒険者ギルド世界樹支部のギルドマスターにルーン金貨を渡された受付嬢。そして手前の席に座るアルフォード。以上の四人。


「…………」


 左肘を机に付けたまま、右手でルーン金貨を眺める領主に皆の視線が集まる。鑑定の結果、それが本物であることは既に分かっていることだが、やはり自分の目で見るまでは信じられないというのが本音というもの。


 そうして三人が待つこと数分弱。コトリ……と、ルーン金貨を置いてふぅーっと溜め息を吐く領主。その顔に浮かぶのは何とも言えない複雑な表情。


「参ったね……うん、本物だよこれ。しかも二枚とも……」

「信じられん……。確かにルーン金貨は貨幣としての使用が認めらておる。しかし、だからと言ってそんな簡単に出すモンじゃないぞ……」


 唸るように声を上げるギルマスに合わせるように、アルフォードは頭を抱えそうになった。


(やべぇ、金のこと説明すんの忘れてた……)


 今のヴェルトはかつての栄光時代のようにルーン金貨が製造されていない。五○○年前の落とし子事件のせいで製造法が失われたからだ。これが王族でも数十枚しか所持してないルーン金貨の正体だ。分かっていることは現在流通してる貨幣と異なり、完全に魔力で作られていること。魔力に質量を持たせるだけでも相当な魔力が必要とされるが、それを永久的に固定させるなど、一体どんなスキル・技術を駆使すれば可能なのか皆目検討が付かない。


 現在はルーン金貨に変わり、プラチナを原料とした白銀貨が使われているが、あくまでそれは製造法が失われたルーン金貨の代わりに使われているだけのもの。今のルーン金貨は稀少性も相まって貨幣というよりも美術品という一面を持ってる。高価な食器を一度も使わず硝子ケースの中に飾るようなものだ。その価値は込められた魔力と貨幣の色合い、細工などによって異なるが末端価格でも白銀貨二○○枚は固いと言われてる。弥生から直接ルーン金貨を渡された受付嬢はこの辺の事情を知らなかったので普通に金貨一○○○枚と答えてしまった。尤も、彼女のような勘違いをしてる人間は結構いたりするのだが。


「アルちゃん」


 ギシッと、背もたれに寄りかかり領主が彼を呼ぶ。友達に話しかけるかのような気軽さで。


「聞き込みの結果、分かったことだけどアルちゃんはこれの持ち主のこと、知ってるみただね。どんな人物なのか教えてくれるよね?」

「それは……」


 どんな、と言われて真っ先に思い浮かぶのは一も二もなくゲーム時代だ。

 最初に出会ったのは魔法都市ヘルゼンだった。アップデートに伴い、経験値・金銭の効率が良いと評判の狩り場へ向かうべく、消耗品を買い漁るべくNPCが経営してるショップに足を運んだ。どんな意図があって作ったのか、路地裏の奥の奥までいかないと辿り付けない僻地にある店だが、妙に品揃えがよく一人でじっくり選ぶのには最適な店だった。


(あー、もうかなり昔のことなのに思い出すだけで腹立ってきた……)


 あの時のことは今でも覚えてる。人形遣いなんて、珍しい職業をやってることもあったが、何より彼の周りが許せなかった。


 メイド服、リアルの学校に存在すると思われる可愛い制服、お洒落な私服、ブルマ、エトセトラ……。


 それらを着た、これまたやっぱりビジュアルに力を入れた人形達が胸を押し当てるように抱きつき、或いは胸元にしなだれかかり、後ろから抱きついてたり、笑顔でじゃれ合いながら色んなところをお触りする人形遣いのプレイヤー。極めつけは人形達が甘い声で御主人様だのお兄ちゃんだの先輩だの言いながらスキンシップを楽しむ人形達とプレイヤー。


 この瞬間、アルフォードは心に決めた。この人形遣いは全プレイヤーの敵としてコテンパンに叩きのめしてやる!


 相手はたかが人形遣い。未転生とは言え俺の廃装備でフルボッコして見下してやる……ッ!

 ……そう息巻いてフィールドで闇討ち同然に襲い掛かった結果、二秒で撃沈した。問答無用の闇討ちなど非マナー行為もいいとこだがきっと許される筈だ。


 非マナー行為に走ったのは私の責任だ。だが私は謝らない……ッ!

 そして嫉妬の炎に狂った彼はしつこかった。一度やられたぐらいではへこたれず、今度は決闘を挑む。どんな性格設定をしたのか、御主人様命のリーラにネチネチといたぶるように攻撃され、男としてのプライドをズタズタにされた。具体的にはHPがレッドゾーンに入ったら【ヒール】を掛けて延長戦に突入。恥を忍んでリザイン宣言したのは今でも忘れられない。


 ギルド対抗戦でも彼の姿を何度か見た。傭兵として雇われた彼と人形たちは遊撃隊として戦場を駆け回っていた。高所を陣取り、【ダイダルウェイブ】で人工的な激流を作り、そこに無駄に作り込んだ家屋を流してプレイヤーを一掃するようなやり方から接近戦に特化した人形だけを連れてとにかく近くのプレイヤーへ斬りかかったり。


 余談だがアルフォードが直撃して死んだ家屋は白亜色の壁にバルコニーと鐘楼が付いた、これまた無駄に立派な家だった。


(ど、何処から話せばいいんだ……ッ!)


 思い返せば返すほど、出てくるのは自分が一方的に喧嘩を仕掛けていた頃か、ギルド対抗戦で家屋に直撃、或いは人形に切り刻まれた記憶しかない。結論から言えば彼と会話らしい会話をしたのがあの偶然の再会が初めてだったりする。


「……女ったらしじゃないんですかねー。俺、あいつとは殆ど話したことなかったんで分かりませんけど」

「そう言えばあの人、メイドを連れてましたね。やはり何処かの貴族ですか?」

「あー……あれは、あいつの人形なんです」

『人形……』


 アルバート本人は人形遣いが使う人形のことを言ったつもりでいたが、他の三人は当然のように難しい顔をした。


 領主は人形のようなメイドと解釈し、ギルマスは人間ではなく道具として扱われてるところを想像し、受付嬢は顔を真っ赤にした。


「お、女の敵ですッ。領主様、すぐ指名手配して懲らしめましょう……ッ!」

「うん、止めた方がいいぞ嬢ちゃん。あいつ人形なしでも俺より強いから」

「なんじゃと? アルフォード、それは本当か?」

「嘘言ってどうするんです?」


 堂々とした態度で答える彼を見て、その言葉が真実であることを認めるギルマス。弥生に突っかかったときは思わず余裕で勝てる、なんて豪語したが実際のところ、勝てる見込みなんてないに等しい。


 この世界でも極めて貴重な人材であるアルフォードのレベルは二五○。レベル差五○に加えて限界突破者だ。ステータスの関係もあって課金装備を使っても勝てるかどうか怪しい。


「そっかー、アルちゃんより強いのかー……。興味本位で訊くけど、アルちゃんより強いってことはアルちゃんと同じ転生者って解釈でおっけー?」


 これは話して良いことなのか。少しだけ迷ったが元々そんなに仲の良い関係でもなかったし……と、思い直し彼に関する情報を素直に話すことにした。


(せいぜい国家権力に目付けられて苦労しやがれ……ッ!)


 完全に私怨全開である。


「えぇ、俺と同じ転生者ですよ。ついでに言うとエルフォードとその人形メイド──あ、そいつリーラって言うんですけど二人とも三○○レベル、つまり限界突破者です」

『な……っ!』


 これには流石に驚きを禁じ得なかった。アルフォードのような転生者ですら珍しいというのに、更にその上の限界突破者。文献や古書に残る伝承の一つに、半日で国が落ちたという記録があり、その犯人がたった一人の限界突破者だと伝えられている。


 脚色が入っているとは思う。しかし、だからと言って頭ごなしに否定することも憚れる。その事実として、アルフォードは二年前、長い間盗賊団に占拠された砦をたった一人で奪還するという偉業を成し遂げてる。そのアルフォードを上を行く強さなど、想像も付かない。いや、想像したくないのが本音か。


(アルちゃんみたいに節度を弁えてる人だったらいいんだけど……うーん)


 領主としてもそんな劇薬とも呼べる危険人物をほっとく訳にもいかない。暗殺は無理でも逐一向こうの動向を調べるべく手練れの諜報員を派遣し、監視する必要はある。現状で王家に本格的な報告は出来ないが、それでも一報はしておこうと思った。


「アルちゃん、領主権限発動」

(まぁ、やっぱそうなるよな)


 溜め息を吐きそうになるのをグッと堪え、真っ直ぐ領主を見る。


「エルフォードって男の行動を監視して逐一私に報告して。勿論生き残ること最優先で。アルちゃんは私の大事な懐刀だから。おけー?」

「嬢ちゃん……お前さん仮にも領主なんじゃからもっとこう、威厳というものを……」

「公の場以外はヤダ」

 身も蓋もない、子供のような発言にギルマスと受付嬢は頭を抱えた。

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