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間章

二話同時更新なので先に前の話からどうぞ。

間章なんで別にここから読んでも問題ありませんが。

 オルフェウスは大陸の中でも五指に入るほどの大都市だ。オルフェウスに住む種族比率はヒューマン・ドワーフ・エルフ・ギガントがそれぞれ三:四:二:一という割合。巨大な鉱山をそのまま開拓した経緯もあって遠方から見ればでこぼこした三角錐に見える。


 良質な鉄が大量に取れるということで自然とドワーフが集まるようになったオルフェウス。最初はドワーフだけが住む集落だったが近くに出現したダンジョンによって事情は変わる。全ての種族に共通して言えることだが生産職を生業とした場合、どうしても他のステータスが犠牲になる。結果、同レベル帯の魔物との戦闘でも高級装備で身を固めた上で多対一で当たり、ようやく互角。泥仕合もいいところだ。


 そうした事情から地元のドワーフたちは種族を問わず冒険者を募った。ダンジョンから鉱山に勝るとも劣らぬ良質で貴重な金属を魔物が落とすというのも一役買って瞬く間に腕利きの金欠冒険者が集まり、いつしかそこに一儲けしようと企む商人も加わり、最終的にドワーフが治める都市となった。


 閑話休題。

 オルフェウスの下級地区──外壁の外にある区域で主にダンジョンアタックをする冒険者の為の地区でもはや一つの町になってる──の連れ込み宿に向かう一組の男女の姿があった。


 男は平民が思い浮かべるような、如何にも冒険者といった感じの風体だ。程よく日焼けした皮膚の上に着ている服から発せられる汗臭い臭い。身体を守る防具は鈍色の胸当てにグリーブ。腰に提げてるのは幅の広い片手剣。最近になってオルフェウスを拠点に活動をするようになった冒険者だ。


「──そこで俺様の登場ってワケよ! 俺様自慢の剣でアイアンワーム共を一刀両断! 流石のアイアンワームも俺様の豪腕の前では雑魚も同然、一発でお陀仏さ!」

「凄いです。お兄さんってとっても強いんですね」


 調子よく武勇伝を語る冒険者を、たどたどしくおだてるのは十代半ばの女性。肩が完全に露出するチューブトップに丈の短いスカート。町娘にしては露出度の高い服を着ているが、さりとて娼婦にしては拙いリップサービスで男を煽てていく。


「やっぱり、冒険者って強いですね。私、気が弱くていつも虐められるけど、お兄さんみたいな冒険者ならいつでも守ってくれそうだし……何より頼りがいがありますね」


 もはや完全に暗記している台詞を読み上げてるだけだが、男がそれを気にする様子はない。直前に飲んでいたお酒の効果もあって、少女のあからさまなぎこちなさ、周囲の様子に気付いてない。


「ガハハハ! そうだろう、そうだろう~! お前はなーんにも心配しないで俺に任せればいいんだぜぇ?」


 ニヤニヤと、卑下た笑みを浮かべながら剥き出しの肩に指を這わせて肌触りを堪能する。


 ここ最近は良いこと尽くしだが、今日は最高の日だと言っても過言じゃない。仲間達と郊外にあるダンジョンに潜り、上鉄を落とすアイアンワーム相手に連戦。鉱物を主食とするアイアンワームを倒せばたまに体内から未消化の上鉄を入手することができる。だが極稀に魔力を帯びた魔鉄や魔石の類をドロップすることがある。男たちのパーティーは幸運に恵まれ魔鉄と魔石、合わせて四つをアイアンワームから剥ぎ取ることができた。


 思いがけない高収入に男達は浮き足立った。装備を新調しても三日は遊べるほどの金が手元に残った。であるなら、女を抱かない手はない。金はその日のうちにパーッと使うものだと、偉い冒険者が言ってた。


 意気揚々と娼館へ向かう仲間達とは別に、男は娼婦でもない普通の娘を抱くことになった。荒くれ者が集まる酒場の隅っこで、テーブルに膝を付きながら溜め息を吐く少女。


 当然、男は下心全開で、しかしそれを悟られないよう紳士的(あくまで男基準)な態度で接して話を聞いてみた。なんでも、親が借金をしたらしくその返済期限が明日に迫っているのだと。その返済に必要な金額も、男の懐から出しても問題ない額だったのでド直球に身体と引き替えに借金返済に協力すると申し出る。


(全く、今日は最高にツいてるぜ! 装備は新調できるわ、可愛い処女とヤれるわ。……へへ、自分でも怖いくらいツイてるぜ)


 今頃仲間達は娼婦と仲良くしてる頃だろうか。だがこっちはいたいけな少女と合法的にやれるのだ! そんな優越感に浸りながら連れ込み宿に入る二人。受付で『一番いい部屋を頼む!』と、ドヤ顔を決める。


 連れ込み宿と言っても、所詮は郊外にある宿。完全防音の魔法付与のない宿の防音対策などせいぜい壁を少し厚くする程度のもの。だが今夜に限って、連れ込み宿を利用する客の姿は見られない。完全な貸し切り状態だ。これは否応なしに興奮する。


 部屋の鍵を開けて、少女の背中を押しながらベッドへ誘導する。勿論、邪魔者が入らないよう鍵をしっかり掛けておく。


「さぁて、お楽しみの時間だぜ、嬢ちゃん……」


 へっへっへ……と、完全に悪人面で欲望に身を任せ、ベッドへ押し倒す。あまりの豹変ぶりにビクリと身を震わせる少女。それが逆に男の嗜虐心に火を付ける。脱がすのももどかしく、乱暴にチューブトップに手を伸ばす。そして……。


「──そこまでだッ!」


 裸にされる寸前のところをか細い腕に止められた。


「……あン? んだテメェ?」


 水を差されたことで、腹の底からどす黒い感情がわき起こる。掴んでいる腕を振り解こうと力を入れるよりも早く、相手が動く。


「ボクの彼女に手ぇ出すなこのゲス野郎!」


 ギリギリギと締め上げられる男の腕。一体どこにそんな剛力があるのか。瞬く間に関節を極められる。そして──


「【青柳落とし】……ッ!」


 柔道で言う一本背負いのモーションで男を床に投げつける。半分はネタスキルなのでダメージはないに等しいが高確率で【スタン】の強化版、【昏倒】状態となるが、一○○レベル以上の開きがある場合はこれが確実に発動する。


「さてと。戦利品は……ふむふむ、金貨二枚に銀貨三○枚か。エーテル買うにはちょっと足りないね」

「えっと、この人他の人とパーティー組んでるって言ってたから多分、その人たちに分け前あげたんだと思う……」


 乱れた髪や服を戻しながら強姦される寸前だった少女が言う。連れ込み宿に乱入してきたのは美味しいところで登場して華麗に悪漢を倒すイケメン男子──ではなくボーイッシュな女の子だった。


 栗色のショートヘアー。赤い肌着の上から羽織った袖のないベストの前は閉じず、自然に任せてる。女の子らしいひらひらしたスカートではなくホットパンツだ。本人曰く、こっちの方が動きやすいとのこと。


「ねぇシャルちゃん、私達がやっているのってただの──」

「もぉ、歌音は気にしすぎだって。いつも言ってるでしょ、これはボランティアなんだ。間違っても美人局じゃない」


 この場に良識ある者がいれば間違いなく美人局だと指摘しただろう。だがこの場には主犯と共犯しかいない。


「で、でも……ボランティアならお金は取らないと思う──」

「必要経費だよ。ボクたちは生きる為にはどうしても霊薬やエーテルが必要なんだ。それにこいつがいる冒険者グループはどうも女をバカにする節がある。だからこうやってボクたちが天誅を下す必要がある。ほら、こう考えれば立派なボランティアじゃないか」

「やっぱり何か違うような気がするけど……」


 尚も反論しようと頭を働かせる歌音なる少女。しかしいつもと同じようにシャルちゃんなる少女に押し切られる形で渋々納得して連れ込み宿を後にする。勿論、部屋を出る前に意識を失った男に【忘却】効果のあるマジックアイテムを使っておく。


 店を出る際、受付に呼び止められそうになるが【魅了】を使い、舌先三寸で言いくるめる。一連の流れには無駄がなく、完全に手慣れた様子だ。


「歌音、ボクたちの所持金は今幾らだい?」


 急に話を振られて、あたふたとしながら首に提げた小袋を取り出して中身を確認する。袋には女の子らしい丸文字で『ぐんしきん』と書かれている。


「えっと、昨日の分も合わせて……金貨六枚と銀貨三五枚、銅貨六枚あるよ」

「一人分か。まだまだ厳しいね」

「仕方ないよ、シャルちゃん。元々オルフェウスはエーテルが高いから」


 ドワーフが開拓した都市というだけあって、オルフェウスは値段の割りに良い装備が揃う反面、魔法薬の類は完全に輸入頼みということもあり、資金に余裕のない冒険者では購入するだけでもちょっとした冒険だ。


「歌音、そろそろこの町でのボランティア活動も限界かも知れない。いずれボク達の素性を調べ上げて憲兵が来る。そうなる前に町を出ないと……」

「そのことなんだけど、ちょっと気になる話を聞いたんだけど……」

「言ってごらん」

「うん。……あのね、信憑性とかそういう全然ないから真に受けないでね? シャルちゃん、ブラッティ・ファングって知ってるよね?」

「勿論。今をときめく盗賊団だね。泣く子も黙るっていうぐらいの有名人だ。で、その盗賊団がどうしたって言うんだい?」

「美人──ボランティア活動の前に酒場にいる冒険者さんから訊いたの。周辺の村落を虱潰しに潰してるって。このままだとオルフェウスに向かってくるかも知れないって言ってた」

「なるほど。そうなると外壁のない郊外町は真っ先に被害が出るね。そして仮に郊外町の住民が助けを求めてもオルフェウスを治めているのはあの頑固なドワーフだ。どんな理由があろうと通行許可書のない者を通すとは思えない」


 聞いた話によればオルフェウスを統治するドワーフは人族が嫌いだと言う。何でも昔、人族に両親を殺されたとか何とか……。そうした経緯もあるが、ドワーフを始めとする亜人・獣人は人族を見下し、煙たがっている。自然と共に生きるエルフはそれが顕著に現れてると言ってもいいが最近──と言ってもここ二○年ぐらいの話だが──は人族との関係を修復しようと言う者から自ら進んで親睦を深めようとする者がぽつぽつと出始めて来ている。


 理由は様々だが、一番の理由はローウェンのように五○○年前の落とし子事件の当事者たちの働きかけが多い。この災禍に立ち向かい、徹底抗戦を決意したのが人族──勿論プレイヤー達のことだ──と当時の人族と親しかった少数の他種族。強大過ぎる力を前に身の保身に走ったのが大多数の他種族とその幹部・長老たちだった。それだけならまだしも、災禍が過ぎた直後、今こそ人族を根絶やしにするチャンスだと言い出した者が現れる始末。


 結果、多くの人族が他種族に狩られて、その過程で数多くのスキルが失伝した。公式記録では人族がその数を減らしたのは落とし子事件の影響とあるが、実際には人族狩りによって死んだ人族の方が多い。当然、このことを知るのはごく一部の転生者のみ。


 狩られた側の人族でも問題は起きた。多くの血を流して災厄を取り除いた我々に対するこの仕打ちは絶対に許してはならないと報復を訴える者と、そんなことをしては連中と同じになるから耐えるべきだと主張する者。内部争いと外敵からの攻撃を受けたことで多くの人族国家は滅び、主だった組織は自然消滅。統率の取れなくなった人族たちはそれぞれ自分の人生を好きに生きる道を選び、今日に至る。領主のドワーフの両親を殺したのも、そうした深い恨みを持つ人族によるものだが当然、転生者でも何でもないそのドワーフが闇に葬られた歴史を知る筈もなく、人族への恨みをひっそりと募らせるの。


「シャルちゃん、どうする?」

「どうするもこうするも、ボク達には関係ない」

「……っ」

「──て、言いたいのが本音だけど、五○○年経った今でもボクはあのお人好しのマスターの人形みたいだ。それに上級区には人族講和派筆頭・ローウェンの息子が居るそうじゃないか」

「それじゃあ……っ!」

「勘違いしないで歌音。逃げないとは言ったけどボク達が供給源を絶たれている事実に変わりはない。ボクは町の為に戦うんじゃない。恩を売る為にできることから模索していく。それでいいね?」

「うん! 私頑張るよシャルちゃん!」


 花が咲いたような笑顔を浮かべながら彼女の手をしっかり掴み、感激しながら感謝の言葉を述べる。


(ハァ……せめて【魔力操作】が使える人形遣いが居れば多少なりともボク達の負担も減るんだけど)


 今も昔も、地雷と名高い職業を本職と定めている冒険者など居るべくもないが、どうしても切望してしまうが、ない物は仕方ないと早々に割り切り、今後の行動を頭の中で組み立てていく。


「歌音、まずは資金調達がてらの情報収集だ。もしかしたらボク達の思い過ごしってこともあるからね」


 アデルフィアシリーズ六女、和泉歌音。

 同じく七女、シャルロット。

 この二人がオルフェウスで弥生と再会する日は近い。

今更ですが偶数番号は日本、奇数番号は西洋っぽい名前にしてます。

流石に奇数組の名字まで考える余裕はありません。

しかしこの七女、某ISのボクっ娘フランス人に似てるとか言われそうだけど原作もアニメも知らない私はセーフだと信じたい。というかセーフにして下さいお願いします。

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