柊弥生の初心者講座
いつも誤字・脱字を指摘して下さっている方、本当にありがとう御座います。
この場を借りて御礼申し上げます。m(_ _)m
夜が明けた。
昨夜までの暴風雨は収まり、薄暗い雲に変わって青空が広がっていた。
野営の後始末をした後、ダニエルたちは目的地のオルフェウスを目指す。ケンタロスのメンバーは馬車を取り囲むように歩き、二人の従騎士もそれに習い隊列を組む。弥生は買い取った少女・紗音に講義をしてる最中。
「人差し指を前に出して軽く腕を縦に振って」
疑問を抱きながら言われた通りの動作を行う紗音。腕の動きに合わせて長方形の仮想ウィンドが現れたことに思わず息を呑む。
「これはこの世界の基本だ。正直、俺にも理屈は分からないが……まぁそういうものだと思ってくれ。説明を求められても、その……困る」
このお嬢様にはゲームの世界だとか異世界トリップとか、そうした余計なことは話さない方がいいだろうと判断した弥生は大事な部分は適当にお茶を濁して説明を続ける。因みにお互いが日本人であることは既に暴露済み。事情を話した上で元の世界に帰れないかも知れないから覚悟だけはしておくようにと、何処か自分に言い聞かせるように伝えた時、彼女は静かに頷くだけだった。
「その画面の中にステータスっていう項目があるからそれを押してみてくれ」
言われた通り、ステータスと書かれたボタンを押す。メニュー画面の横に新しく、小さなウィンドが登場する。
名前:厳島紗音
LV:1
種族:人族
職業:見習い
アクティブスキル:0
パッシブスキル:1
ステータス
STR:1
AGI:1
VIT :1
INT:1
DEX:1
LUK:1
残りボーナス:27
「そこにある数字が今のキミの強さだ。全てが初期値だから弱いのは当然だが、数字はあくまで大まかな目安だからあまり真に受けなくていい。ここまでで質問は?」
「はい。ここに書いてある『あくてぃぶすきる』と『ぱっしぶすきる』がどういうものか想像が付きません。それと、このアルファベット……『えるゆーけい』は何となく理解できるのですが他の項目、特にこの『えるぶい』というのが何を意味しているのか理解できません。それから、この残りボーナスとは何に対するボーナスですか?」
(そこからかよッ!)
何となく、ゲームに疎そうな娘だと予想してたし覚悟もしていた。
していたが……まさかそこから説明しなければいけないとは流石の弥生も予想外と言わざるを得ない。
「あー、これは見て貰った方が早いかな……?」
視線を泳がせながらどうにか説明すべき言葉を脳内で纏めてから、腰から多目的ナイフ──魔物から素材を剥ぎ取ったり穴を掘ったりする為のサバイバルアイテム──を抜いて、スキルを頭の中で思い描く。刀身が緑色のエフェクトに包まれてから半秒後、地面に対して垂直に振り下ろすモーションが起きる。
「今、俺が使ったのは敵を攻撃する為のスキル。だが見ての通り、発動はほんの数秒。効果が継続的に続くものでもない。こうした、瞬間的に効果を発揮するスキルのことをアクティブスキルと呼ぶ」
(……と、それっぽい言葉で説明してみたけど今ので分かったか?)
長年、ゲームで遊び続けてきた人間ならばそれは感覚で理解する。しかし彼女のようにゲームに触ったことのない人間が相手となれば、自分のような拙い人間の言葉で上手く伝わるかどうか不安にかられながら説明を続ける。
「これに対してパッシブスキルは継続的な効果を与えるスキルだ。代表的なのは【飛翔】や【ダメージ軽減】だな。最初に挙げた【飛翔】は低空飛行を可能にするスキルだけど、それを実現させる為には一度発動させる必要がある。代わりに、一度発動させれば任意で解除しない限り【飛翔】の恩恵を得られる。それに対して、後者の【ダメージ軽減】を始めとする軽減・自然回復系統のスキルは発動を宣言しなくても常にその恩恵を得られる」
「なるほど……。つまり、瞬間的に効果を現すのがアクティブスキルで、継続力のあるものをパッシブスキルと申すのですね」
「正解だ。……いや本当、物覚え良い娘で助かったわ」
正直、もっと説明が必要かと思っていたが思っていた以上に聡明な娘であることに安堵する。今の説明で分からないと言われたら『実戦で理解しろ』と投げやりな説明をするより他なかった。
「次は下にあるアルファベットの意味だな。意味は上から順番に筋力、敏捷性、体力、知能、機敏、幸運を現している。筋力は高ければ高いほど物理攻撃・物理系スキルの威力が上がるだけじゃなくて重い装備を装備できるようになる。全ての装備には必ず必要筋力が設定されていて、その数値を満たしていないと装備した時に色んなペナルティが発生する」
例えば重量級武器の代名詞とも言える鈍器の場合、必要筋力が足りないまま装備をすれば攻撃速度の低下に加えて命中率も落ちる。狩り方やステータスによってはそれもアリだが大抵はデメリットの方が強いので自分の筋力に見合った武具を装備するのが普通だ。
「敏捷性と体力は防御に関係している。敏捷性を上げれば素早い身のこなしや素早い攻撃が実現できるようになる。身体が身軽になれば当然、回避力が上がる反面、非常に打たれ弱いから一人で多数の魔物と戦うには注意が必要だ。それに対して、体力を上げれば純粋な防御力が上がるだけでなく、最大HPも上昇する。但し、こっちは被弾が前提になっているから回避は絶望的と言っていい。攻撃速度も遅いから一発を大事にする必要がある」
弥生は敢えて説明を省いたが実際には敏捷性でも僅かに体力は上昇するし、体力もまた僅かに敏捷性が増加する。最も、増えると言っても雀の涙程度なので期待値はほぼゼロに等しい。
「質問してもよろしいですか?」
「いいぞ。分からないことがあればその都度質問してくれた方が俺も助かる」
「では……。私は運動があまり得意とは言えませんが、防御が重要であることは理解してます。人並み以下の運動能力しかない私はどの防御ステータスに重きを置けばよろしいですか?」
「…………正直、どっちも一長一短だからこれが絶対とは言えない。そもそもステータスの振り分けというのは自分が転職する職業に合わせて振るものだ。手数が売りの【フェザーナイト】や【アサシン】なら敏捷性を。防衛役とも呼べる【ガードマン】に【クルセイダー】なら体力に振るのが一般的だ。職業にも多種多彩な種類があるが、こっちの説明は後にしよう」
紗音が納得したのを確認して、話を続ける。
「知能は魔法系スキルの威力と最大MPの増加に関わってる。ステータス画面に緑色の長いバーの下に、青いバーがあるだろ? それがMP……この世界だと魔力と呼ばれるものの残量になる。こっちはHPと違ってゼロになっても死に直結するようなことにはならない。で、魔法っていうのは──」
右手を上空にかざしながら説明用に準備しておいた魔法をショートカット経由で発動させる。威力を最低限まで落とした火の玉は空へ吸い込まれるように飛び、途中で消えた。
「──見たまんま、ファンタジーの世界にありがちな力のことだ。魔法使いに転職する人間は大抵、この知能をカンスト──じゃなかった。最大値まで振ることが多い。ただ、このMPは一部の物理系スキルを使うのに必要だから職業によっては少しだけ振り分ける人もいる」
「一部の物理系スキル……つまり、多くの物理系スキルはMPを使わないのですか?」
「その通り。さっき、紗音さんに見せたソードスキルはMPを消費しない代わりにHPを消費することで発動する。だからこそ、物理系スキルを使うときは注意する必要がある。調子に乗って使い過ぎると自分の首を絞めかねない。スキルを使うときは良く考えて使うように」
「肝に銘じます」
事の重大さを瞬時に理解した紗音は表情を固くして頷く。因みに弥生はこれを何度も死にながら実感した。その死因の原因は強力な範囲攻撃スキルを覚え、調子に乗ってモンハウに突っ込んで連打しても殲滅しきれずにたこ殴りにされて死亡……という事故を何度も経験して漸く立ち回りを意識するようになった。
「機敏は攻撃の当たり判定、特定のスキル詠唱時間の短縮、各種製造スキルの成功率を決める。どんなに攻撃力が高くてもその攻撃が敵に当たらなければ意味がない、という意味じゃ機敏はある意味最も重要なステータスと言えるし、生産系の職業に就いている人は皆、製造スキルを安定して成功させる為に機敏を多く振る傾向が強い。……たまに機敏を落として戦闘用のステータスにする人もいるけどそっちはお勧めしない。戦うなら普通に戦闘職やった方が遙かに効率がいいからな」
「生産職とは、一体どんなものがありますか?」
紗音が食い付いたことに、弥生は食い付いた。
「代表的なものだけ挙げるなら薬品製造に長けた【アルケミスト】と武器製造が得意な【ウェポンスミス】だな。因みに【ウェポンスミス】は武器を作る、という職業なだけあってそこそこ戦える。【ウェポンスミス】が扱う武器には斧や鈍器があるから単発の攻撃力だけ見るならなかなかのものだ」
「特定のスキル詠唱時間の短縮とは一体どのようなものですか?」
「えーっと……うん、ちょっと待って」
二度三度と、何度も頷いてどうにか分かり易い説明をひねり出し、その言葉を口にする。
「絵本でもテレビでも何でもいい、お伽噺に出てくる魔法使いが不思議な呪文を唱えて魔法を使うところは見たことある?」
「あ、それなら見たことあります。灰被りと魔法使いのお話にそのような場面がありました」
自分にも分かる話題が出て来たことに、明るく答える。
紗音が思い浮かべたのは年頃の少女が意図せずして王子様に見初められて結婚する、王道とも言える逆転物語だった。毎日意地悪な母親と姉たちにこき使われる末娘が魔法使いのお婆さんと出会って、最後はお姫様になるという有名な話だ。
「そこまで具体的に想像できてるなら話は早い。……えーっと、例えば紗音さんが【ファイア】を使いたいとする。機敏が低ければ一小節の呪文を唱えてから【ファイア】と言うことで初めて魔法は使える」
「機敏が高ければ【ファイア】を使うのに必要な一小節を省くことができる、という訳ですね」
これ以上とない、完璧な模範解答に思わず笑みを浮かべて頷く。かつてデスゲームとなって初心者から廃人までを巻き込んだ直後、弥生を始め義侠心溢れるプレイヤーは無駄な犠牲を減らすべく初心者を対象にこのような講義を行ったが、そのときは彼女ほど賢しい人間はいなかったので何度も同じ説明をする羽目になった。
……説明する側にも幾ばくかの非があったのも事実だが。
「ですが、私はどうしても理解できないのです。何故そのような簡単な手順を踏むだけで魔法が使えるのですか?」
「精霊と言霊が関係している──て、言われてる。全ての生き物の言葉には言霊が宿っている。その言霊を使って精霊にお願いごとをすると精霊がそれを叶えてくれる」
咄嗟の思いつきにしてはなかなかの言い訳だと、思わず自画自賛する。そして弥生の仮説は完璧とまではいかないが的を射た推測と言ってもいい。
魔法文明と科学文明が両立するこの世界では、種族を問わず精霊を信奉する者が多い。地球、特に日本では無神論者がクリスマスや初詣といった宗教行事だけは参加するといったことがこの世界では珍しい。強いて言うなら宗教という組織に身は置いてないが精霊は信仰すべき対象と、認識している者が多いと言ったところか。
魔物が普通に魔法を使えるのもこれが関係している。精霊王ならともかく、下級精霊たちに善悪の感情はない。誰かに求められればそれに応じる。才覚ある者、魂の汚れが少ない者には自然と寄ってくる。言霊という精霊は、この世界に存在する生物全てに宿るもの。
(ゲームなら話はもっと単純なんだけどなぁ。やっぱゲーム慣れしてない人の説明って難しいな)
レベルが上がるとスキルポイント(ヴェルトの世界ではスキルポイントという概念はないが)を獲得して、そのスキルポイントを振り分けることでシステム上の制限が緩和される。そうした説明が通じない以上、ゲーマーにしか分からない専門用語の乱用は避けるべきだ。将来的にはそうした言葉を織り交ぜて話す予定なので少しずつ覚えさせるつもりでいるのはここだけの話。
「最後の幸運は機敏で説明した製造スキルの成功率とクリティ──いや、会心の一撃……確かな手応え……て、言えばいいのか? とにかくそれの発生率を僅かに上げる。機敏を限界まで上げた製造タイプの人間もこの幸運のパラメーターは必ず取ると言ってもいい」
ついに語彙の貧弱さが露呈した瞬間が訪れた。穴があれば入りたい気分だが、そんなことを言っている場合ではない。
「えーっと…………つまりアレだ。紗音さんが敵に対して一○回攻撃したとしよう。その一○回の攻撃はどれもダメージが一定のものではない。これは熟練度に関係なく、攻撃が当たったとしてもそのときの力加減や当たった場所、装備している武器、相手の防御力なんかが影響している──て、こんな説明で分かる?」
「くす、大丈夫ですよ。エルフォードさんの説明は初心者の私でも大変理解しやすいものですから」
「あー、お世辞でもそういってくれると嬉しいよ、うん」
照れ隠しで思わずそっぽを向く。そんな弥生の反応を見ながら『お世辞ではないのですが……』と、小声で呟く紗音。
余談だが二人は異世界出身という事情で人目がある場所ではエルフォード、人目がなければ弥生と呼ぶというルールを設けている。こんなことになるなら始めから本名で名乗っておけば良かったと少しだけ後悔する瞬間でもあった。
「えっと、会心の一撃の話だったな。その一○回のうち、まぐれで一度だけ、最高の一振りが出せたとする。最高の一振りだから当然、今までとは手応えが違うし、攻撃された側も想像以上の一撃を受ける、或いは偶然弱点と言える部位に攻撃が当たって怯む。こうした現象を会心の一撃、即ちクリティカルと呼ぶ。……分かった?」
「はい。……ところで、製造の成功率を上げる能力が機微と幸運だとエルフォードさんは仰ってましたが、この両者の違いは何ですか?」
当然の疑問だ。機微に振っても、幸運に振っても成功率が上がるのならどちらか一方に振り分けるだけで事足りるし、わざわざ二つの能力を底上げする理由などない。
「良い質問だ。これもさっきのクリティカルと同じことが言える。……どういう意味か、分かるかな?」
「…………同じ効果のある薬を一○本作っても、実際にはそれぞれ効果に違いがある……という意味ですか?」
「正解だ。補足するなら幸運パラメーターは下限値、つまり薬としての最低ラインを引く確率を下げる要素だ。幸運が高ければ高いほど、期待値は高くなり高品質の製品を安定して生み出すことができる」
「良い商品を安定して作りたいのであるなら機微と幸運に、強い剣士になりたければ筋力や体力、或いは敏捷性を上げながら機微にも意識を向ける……そうする為にこの残りボーナスはあるのですね」
「その通り。最後まで俺が説明する必要なかったな」
漸くパラメーターに関する講義が一段落したことにより、溜め息を吐く。周囲を見渡せば商隊は川沿いを歩き、南にある石橋を目指している。説明に集中するあまり、周りの景色が変わっていることに全く気付かなかったようだ。それは紗音も同じらしく、弥生が一息ついたことで初めて周りの景色に目を向ける余裕が生まれる。このまま職業の説明をするよりはしばらくは休憩を兼ねて景色を楽しむのもいいかも知れない。
ふと一瞬、そんな考えが過ぎったが現実はそれを許してくれない。
「御主人様、事後報告ですが前方四○○メートル先のローテル橋で盗賊が待ち伏せしてます」
「んん? 四○○メートル? お前の索敵スキルならもっと距離があっても気付けたんじゃないか?」
「紗音様への説明が熱心だったようなので黙っていました」
「別に言ってくれても良かったんだけどね……」
「御主人様はダニエル様にとっても切り札です。基本は商隊から付かず離れずの位置をキープするようにとのお達しです。なので黙っていても問題ないと勝手ながら判断させて頂きました」
「そうか。それで、ローテル橋を占拠してる盗賊はケンタロスの誰かが行ったのか?」
「いえ、紫が嬉々として飛んでいきました。恐らくもう終わる頃かと──」
『もしもしエル君? 聞こえますか、どうぞ』
二人の会話に割り込むように【チャット】を介して紫の声がメッセージウィンドに文字として表示されつつ脳内に響く。
『どうしました先輩? 暴れたりないとか駄々捏ねても駄目ですよ』
『あー、うん。そういうのじゃなくて真面目な話なんだけど』
『あなた程の人形でも手に余るような魔物がハイドして待ち伏せてたとでも言うのですか?』
『違う違う。ローテル橋占拠してた盗賊片付けてから【イーグルアイ】で周りを確認してみたんだけどなんか人の集団がオルフェウス方面に向かってるみたいなんだけど』
『集団? 騎士団とかじゃないのか?』
『ううん、女子供と年寄りが多い。服も結構ボロボロだし、紗音ちゃん達みたいな奴隷っていうよりは難民って感じ? 三○人ぐらいの』
『分かりました。ダニエルさんに話しておきます。先輩はそのまま露払いお願いします。有事の際は【強制招集】使うのでそのつもりで』
『りょーかい』
紫の報告を受けて、事情をダニエルたちに説明する。その上で何処かの国が戦争をしているのではないかと質問してみたが、ダニエルを始め、ケンタロス一同は首を横に振って答える。
「エルフォードさんの言う通りでしたらギルドを介して報告が入ります。シューレから出立する前にギルドに問い合わせましたが何処かの国がそれらしき動きをしている、という報告はありませんでした」
「俺もダニエルの旦那と同じ意見だ。それにオルフェウスを本気で落とすなら相応の戦力が必要になる。何処かの村が魔物の襲撃にあってそこから逃げ延びた難民って考えるのが自然だな」
「そうですか……」
今一つ納得しきれないが、わざわざ掘り下げるような話題でもないと思い頷いておく。
(面倒なことにならなきゃいいが)
憂鬱な気持ちを振り払うように軽く頭を振って、意識を周りに向ける。対岸より遙か彼方にうっすらと一際高い山のような物が見える。
「あれが商業都市・オルフェウスです」
弥生の視線に気付いたアマリリスがそっと教える。【イーグルアイ】で見てみると山を開拓して作られた都市だと分かった。流石に距離がありすぎて人の出入りまでは把握できなかったが。
「オルフェウスはどんなところなんだ?」
「職人気質のドワーフが山を開拓したのが始まりだと聞いてます。私達のような人族も居ないことはありませんが、オルフェウスは他種族の力が強いので冒険者の方々はともかく、平民は少々、窮屈な暮らしを強いられてます。私達はベネット様の従騎士ということで下級地区にある寄宿舎で生活してますが」
「下級地区?」
聞き慣れない単語に思わず聞き返す。ニュアンスからあまり色好い返事が返ってくるとは思えないが聞かずにはいられない。
「下級地区は町の防衛に携わる種族が住む地区です。人族の商隊も下級地区までなら通行証を発行して貰えます。と言っても、通行証を持っている人族の殆どがダニエルさんのような商人か、実績を積んだ冒険者に限られるのですが」
「じゃあ、他の人族は何処に住んでいるんだ?」
「外壁にある郊外町です。オルフェウスのすぐ近くにダンジョンが登場したということでそのダンジョンを攻略する為に作られた町でもあるんです。オルフェウスに住む人族の大半はこの郊外町に住んでいますが地元住民よりも外から出入りする冒険者の方が多いんですけどね」
「そ、そうか……」
てっきり人族が奴隷のような扱いを受けているような都市かと思っていただけに、少々拍子抜けな気持ちになった。
そんな調子で雑談を交えながらローテル橋を渡り、真っ直ぐオルフェウスへ向かう一同。目的地まではもう二○キロを切っていた。
ただの説明回でした。ブラッティ・ファングの話を期待されてた方、ごめんなさい。ちゃんとその話も出すのでもうしばらくお待ち下さい。