大切な人 発見したよ
【コントロールは難しい】
焼き鳥の匂いが ぷーん この道きついな〜 腹が減る。
小学4年の学校の帰りの土曜日。この頃は給食もない半日で下校だった。
家に帰る道のりは2km、学校の道徳では教えてくれない具体的な課題がそこら中に転がっていた。
良一のお腹がグーと鳴る
「良一あんた先生に怒られたばっかでしょ!やめなよ」
とTシャツをひっぱる彩
「今の僕の病んだ心を癒してくれるのは、ここの野口みかん園のみかんだけなんだよ」
とみかんに手を伸ばす良一
「駄目っていったら駄目」
少し気の強さが感じとれる口調で彩
残念がる良一
次に通るのは、坂倉農園
「ここの親父怖いんだよな〜」
といいながら、姿を消す良一
「もしかして・・」
大きな親父の声で
「誰だ〜」
その声がスタートのように走ってくる良一
それを追いかける彩
追ってこないことを確認して良一が止まるとようやく彩が追いつく
「あんた足だけは速いんだからね」
「お陰様で、これで何度も助かりました」
足が遅ければやらないのかな〜とふと彩は思った。
【消しゴム】
そして、待ちに待った夏休み間じかの学校
先生が、夏休みに宮沢賢治を読んでくるように伝えていた。
良一は本を読むのが大の苦手
「宮沢賢治って、雨ニモ負ケズでもいいんかな?」
と隣の席の彩に聞く。
「やっぱり銀河鉄道の夜ぐらい読まなきゃね!」
良一はこの時すでに雨ニモ負ケズに決めていた。
次に夏休み期間中での鶏の飼育当番について説明に移っていた。
先生の話す内容は
各班長は職員室で小屋の鍵を預かり、餌やり掃除をきちんと行い飼育日誌に記録する様に
当番の日時は間違えない様に黒板を記録して下さいとのことだった。
班長の彩は、細かく図入りでノートに書いていた。
その後、なにやら探しものをしている様で、消しゴムがなく困っていたようだった。
自分が忘れることは良くあるが、彩が忘れるなんて珍しいなと思っていると
「間違えがいつでも消せるなんていい道具よね!借りるわよ」
とんがった口調で良一の消しゴムをさらっていった。
いつも彩から借りる時に小言を言われることを思い出し、この時とばかりについ
「その気の強い性格も少し消せるといいのにね!」
少々弱気だが口に出してしまった。
「このノートが書き終わったら、あんたのやる気のノートにもくもくと私が書いてあゲルから、待っておいて下さい」
語尾が敬語で、またそれが不気味に感じ、すぐに言ったことに後悔をした。
【小さな出会い】
夏休みに入り始めての鶏当番の当日
彩に家から無理やり連れ出された。
道々見たいテレビがあるから、なんとか彩さんの力で飼育日誌に俺の名前だけ書き込んでくれないか
と彩に頼んでみたのだが
あんたのやる気のノートには、もうすでに小屋の掃除は、書き込んであるから
と聞き入れてもらえなかった。
この時ばかりは、素直に消しゴムを貸して置けば良かったと本当に後悔した。
鶏小屋に近づくとすでにあのうんこさんの臭いが待ち構えていた。
むせ返る良一のしりをたたく彩。
みんなが掃除をしていると良一の手が止まっていた。
すかさず彩が近寄り声を掛けると良一に静かにするように注意された。
見ると1匹のひよこがぶるぶる振るえ元気なひよこに突っつかれていた。
みんなも近寄ってくるが、こいつはもうだめだなと口々に言っていた。
かわいそうに思った彩が手を出そうとすると良一が
「お前、今手を出すのは簡単にできると思うが元気になるまで面倒が見れるのか?
お前ん家の弟、喘息で生き物、駄目だろ」
彩はそんな先のことは考えていなかった。
良一自身も喘息で、鳥のアレルギーを持っていた。
「でも、このままじゃ死んじゃうよ!」
彩が良一を見つめる。
「だから、考えているんだ!必ず何かヒントがあるはずだ!」
と良一はオロオロと歩き出す。
2人は近所の小鳥屋に相談し行く
ひよこの症状を店員に伝えるともしかすると病気ではないかと言われた。
小遣いを持ち寄りこれで見てもらえないかと犬猫病院にひよこを連れて行く。
すぐに診察してくれた。
薬を日に5回、そして、体を温めるようにと聞かされる。
お金は受け取ってくれなかった。
湯たんぽでひよこの体を温め看病する良一、喘息が出て苦しそうだった。
彩が看病するといっても
「明らかに弟さんが苦しむのですよ、それを承知のうえで姉である彩さんはひよこを連れて帰ると言うのですか?」
こう言う場面で、良一からはじめて敬語きかされ、なにも言い返す事ができなかった。
しばらくするとひよこは元気になっていった。
「俺ができるのはここまでだ。後は自分の力で歩むんだぞ!」
となにやらひよこに説明が長いようだった。
その後、ひよこは、開放・・いや、元の鶏小屋に戻されていった。
その帰り道
「最初は臭いも嫌がっていたのに、何で助けたの?」
と彩が良一に何気なく尋ねた。
するとすかさず
「弱い者は助けるんだろ!やけに、当たり前の事を聞く奴だな?」
彩は思わず納得した。
そして、長い夏休みが終えて、学校が始まった。
そんなある日、彩が学校の行き帰り、行間休みにも良一を探すもののいつも姿が見つからないことい気付く。
また、休みの日に家を尋ねると学校に行くと言って出掛けたとのことで、
母親には逆に何かあるのかと尋ねられた。
不思議に思い学校に行って見ると鶏小屋の前で良一がしゃがみこんでいた。
まだ、病気の後遺症からか体の線が細いそのひよこは、強いひよこに時々いじめられていた。
良一は、手は出さないものの何とかしようと、ひよこに身振り手振りで声援を送っていた。
「仲良くしないと、若くして焼き鳥にしてしまうぞ!」とか
「寝てる間に黒くしてからすの巣に入れちまうぞ!」とかである。
彩はそのこっけいな様子を見て思わず吹き出してしまった。
すると、良一に気づかれた。
「この頃いないと思ったらここだったんだね!もう、俺の出来ることはここまでじゃなかったんですか?」
また敬語だ、やな予感!と良一は思った。
「朝起きて水のもうと思ったら、自分黒だよ、そりゃビビるよ」
と言いながら彩が笑い出す。
「でも、夜になったら落ち着くね、鳥目だから」
良一は悪い予感がはずれて一安心した。
【死なないで 良一】
そして、落ち葉が目立つ季節になり良一が学校を休んだ。
はしかだと言う。
そして1週間が過ぎ、彩が良一の家に見舞いに行くが、はしかは感染するからと会わしてはもらえなかった。
そして、10日が過ぎ良一が入院したと聞かされる。
なんでも、飲んだ薬が体に合わなかったらしい。
病院に行っても両親以外は会えないと先生より
彩の母より良一が危険な状態であることを知らされる。
「えっ、良一、死んじゃうの!」
この問いに母は
「まだ、10歳よ、死ぬわけがないじゃないの」
と答えてくれたが
「その根拠は いったい何!」
彩は母親の困る表情が次起こるであろうことを知りながら、つい叫んでしまった。
自分の部屋に閉じこもり良一のことを思い出す。
すると消しゴムを借りたままだったことに気がつき取り出すと
手で強く握り閉め、病気が回復し学校に来る姿を想像し祈った。
時間があるといつも消しゴムを取り出し祈った。
【お帰り 良一!】
そして、3ヶ月が過ぎ良一がお母さんと共に学校に来た。
みんなは、少々寒くても半袖半ズボンの体育着という学校の方針なのに対して
良一は、長袖、長ズボンの防寒着。
半袖になったときに見せてもらったが
皮膚はまるで長い間風呂に入ってなく垢だらけの様に病気の跡が残っていた。
休む前と明らかに変化した良一のその姿に、みんなは腫れ物を触るようだった。
彩は色々と良一が困りそうなことを先回りし手助けするのであった。
そんなある日、良一が教室に行こうと階段を上っている所だった。
声を掛けようとしたがつい立ち止まりその光景を見つめてしまったのであった。
苦しいのか階段の途中で休みながらゆっくりと手摺りをつたいながら登る良一。
彩は、その姿に元気だった頃の良一の面影を感じることが出来なかった。
「大丈夫なの良一?」
「ああ、大丈夫」
その姿は息があがり、しゃべると余計に苦しそうだった。
黙って尻を押そうとすると大丈夫だからと断られた。
すると上階から上級生3人組みの男子が降りてきて良一に話しかける。
「おまえ、風呂に入ってんのか!垢だらけ、長ズボン先生に許可もらってんのかよ!今日も母ちゃん来るんだろ」
良一は無言で一段一段階段を上る。
たまらず彩が上級生に
「あんたたち5年生ね!何組なの先生に言いつけるからね!!」
良一が彩に相手にするな先に行けと手で合図をする。
遅れて良一が教室に入ってくるとすかさず彩が駆け寄り
「良一、どこに行くときも私がついて行く、トイレに行くときもよ!」
良一は彩の気持ちがうれしかった。
うれしくて泣いてしまいそうだった。
しかし、その言葉を振り切るように良一は話しだした。
「ひとりで出来なきゃ意味がないんだ!」
「家でも、家族みんな体の事を気遣ってくれる」
それが返ってこんな自分は、生まれて来なければ良かったんだと自分を追い詰めることになるのだと話してくれた。
そんな家の人に自分からは何も言えない。
できることなら彩だけでも、以前の様に言いたいことも言って自分に接して欲しいと頼まれる。
彩はその気持ちを受け入れることにした。
【ワンタッチ事件】
ある雨の日、良一が新しい傘を手にしていた。
見るとワンタッチで開く傘をとてもうれしそうに彩に開いて見せてくれた。
何度も何度も開いて閉じて、壊れるからその辺にするようにと彩が伝えると壊れたら大変だと思ったのかすぐに閉じていた。
4の2、名前もフルネーム
久しぶりに良一のうれしそうな表情が見れたら彩のほうがうれしくなってしまった。
数日が過ぎた雨の日、良一の傘がワンタッチでなく古い傘になっていることに気が付いた。
理由を聞くと壊れたから捨てたとの事。
「また、遊びすぎたんでしょう、大事に使わないと、もう買って貰えないぞ」
と諭すように良一に話す彩であった。
するとクラスの男子が壊れたワンタッチ傘を持って良一の元へやって来た。
傘を見ると骨は折れ布は切れボロボロ状態で川に投げてあったという。
名前もちゃんと書いてある。
彩は、絶対にあいつらだ!と直感した。
今にも乗り込んで行こうとする彩に向かって良一が
「いいんだ、俺が投げたんだ!俺が・・・あぁ・・」
と言いながら急に走り出す。
しかし、直ぐに苦しそうに咳き込みうずくまり彩達に追いつかれてしまった。
「畜生、畜生、なんで逃げる事もできないのかー」
と目には涙をため、泣くことを我慢している良一
その光景を見て彩は大泣き
皆んなの目も潤んでいた。
【彩からの巣立ち】
中学校に上がると良一とクラスは別となった。
それなりにハンディキャップはあったものの何とか卒業。
良一とは、別々の高校へと通う事となり連絡もとらなくなっていった。
高校2年、彩は今後の進路を決める時、良一のことを思い出していた。
弱いものは助けるんだ、当たり前だろ。
なぜかその言葉が頭から離れず病気の人を助けたいと言う思いが込み上げてきた。
そして、看護師の道へと進むことにしたのであった。
そして、念願の看護師に、人を助けているという感情は、すでに学生時代に消えていた。
奨学金をもらいお礼奉公(ある一定期間その病院に働くと奨学金免除)するまでは続けよう。
毎日、厳しい先輩や婦長に新人達はびくびく、それ以上に過酷な勤務体制(看護婦不足、日勤、夜勤、希望休みは先輩達優先)が若い乙女の精神を苦痛なものにしていた。
奉公が終わると大半が次の職場へと移っていった。
同僚が次々と辞めていき仕事は厳しくなるばかり。
自分が辞めたらその子も辞めるという言葉の行き追いで辞めてしまった。
次の職場は直ぐに決まったが、また、同じような事が悩みの元となっていった。
求人誌を見ていると。夜勤なし、老人ホームと言う活字が目に止まった。
ここなら、今より楽そ〜と言うのが再就職の動機だった。
【偶然 必然?】
就職して数週間、仕事は直ぐに覚えることができた。
しかし、病院にはない苦労がつきまとった。
ドクターのいない中での自らが対応の判断、特に夜勤時の職員からの電話には参ってしまった。
今日は、あの職員同士の夜勤だから電話が有りそうね。
「この前の連絡当番の時の電話は、利用者がかゆいと言ってます・・・だよ!」
「夜勤がない所選んだのに、また次考えようかしら?」
そんなことを看護士仲間と話していた。
そんなある日、どこかで聞いた声が近づき、見た顔が立ち止まった。
「彩、何でこんな所でそんなカッコウしてるの?もしかして、新しいナースって彩だったの?」
大笑いする良一
彩が発した言葉は
「良一、ここ夜勤も有るんでしょ、体大丈夫なの?」
良一はコクリとうなづいた。
「今晩空いてる?駅前の鳥八に7時ね!」
【やすらぎ】
良一が少し遅れて店に入ると彩が何も飲まずに待っていた。
「ごめん、遅くなって飲んでいても良かったのに!」
「こんな偶然の出会いに乾杯せずに飲むと言う事ができますか?」
良一、敬語に少々緊張
「ここの焼き鳥美味しいんだよ。でも俺、銀杏としし唐お願い」
「もしかして良一、あのひよこ以来大好きな鳥食べてないの?」
「うん」
「でも、あんたらしいね!私も同じ物頼むわ!」
付き合わなくていいのにと言われたが、なぜか良一といると付き合いたくなってしまう彩だった。
そして良一は、これまでの彩の悩みを聞いていた。
今までの仕事を辞めた経緯。
そして、乙女心。
今は介護スタッフの夜間連絡のことが嫌なこと
良一は、すべての話を聞いてくれた。
一通り話を聞いてくれた後に良一から出た言葉はこうだった。
【ものは とり様】
「彩の話しは自分としたら夢の様な悩みだよ
職場を次々に変えられて
自分はハンディキャップがあったから健常者の人と一緒に働けるだけでもうれしかったよ。
しかも、世話をされるのではなくてこの自分が人の世話するんだよ!
それだけでもすごくない!
自分は決めたんだよ、体が思うように動ける様になったら人のために役に立つ仕事につくんだって!
でも、なかなか体は言う事を聞いてくれない、動かないこともあった。
でもね、圧倒的に今は、体が動くことが多いんだよ。
とにかく自分には、みんなの様にいくつもの選択支はなく
たとえ立ち止まったり遠回りをしても、一本の前に進む選択支しかなかったんだよ。」
彩は、黙ってきいていた。
「彩は、愚痴を言いたいの?
それとも、その内容を解決したいの?
俺なら愚痴を言うエネルギーがあったら解決する方にエネルギーを使うよ!
結局、物事が解決しない限り愚痴は続くだろ!
すべきことは問題に対して自分が、今、何をしているかなんだよ。
大きな目標を立てるのではなく、今にでもできることをすればいいんだよ。
するとね、自分は解決に向けて少しでも前に進んでいるんだと思い安心できるんだ。
そうするとね、また次にできることが思いつくんだ。
そんなことばかり考えていたら、こんな僕でも就職できたんだよ!
同じ物事でも感じ方によって悩みになるのだという。
具体的に策を考えるのであればいつでも相談に乗る」
と最後にその話は終わった。」
あのときのひよこにもおんなじことを言ったらしい。
彩は、自分の悩みを、もし良一が味わったとしたらきっと喜んで受け入れるに違いない。
悩みにすらならないと感じた。
なんて自分はちっぽけなことで悩んでいたんだ!
いつも苦しそうに歩いていた良一が、彩のずっと前を歩いていることを感じた瞬間だった。
【デクノボウ】
夏休みの宿題覚えている?宮沢賢治?
あの雨ニモ負ケズの サムサノナツハ オロオロアルキ と言う所好きなんだ。
あと、もうひとつ、
「あっ分かった?」
と彩
「みんなからデクノボウと呼ばれでしょ?」
「何で分かったの?」
と良一
「だって昔の自分だと思ってたんでしょ?」
と彩
「うん。もしかして、彩、そんな風に思っていたのかコイツ!」
じゃれあう2人
その後2人は、定期的に積もる彩の話が愚痴に終わらぬように夜のミーティングを続ける事となった。
自分の体験を元に書いてみました。子供の頃の記憶がよみがえり思わず涙が出しまいました(はずかしいです)感情が抑えられずに汚い文章になりましたが読んで頂きありがとうございました。




