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パペトリ王国と魔法のクレヨン  作者: 田山照巳


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ムリムリムリムリ!

 ドシエ達を足止めするために囮になって残ったカルネと別れたアイカ、ヒマリ、ボボは集合場所となる吊り橋を目指す。


「はぁっ、はぁっ」


 ヒマリをおんぶして全力で走るアイカは十八歳の身体であっても疲労を隠せない。そんなアイカの様子を見てボボが励ますように元気に飛び回る。


「ボーッ、ボーッ!」

「あははっ。ボボ、あんた、私を応援してくれてるの? ありがとねっ!」


 ボボの応援に励まされアイカは気力で走り続ける。しかしカルネが足止めできなかった数匹のドシエが着実に近づいてくる。そしてアイカを明るく励ますボボの様子が一転して警戒する雰囲気に変わり始めると、その変化にアイカも気付く。


「ボーッ……!」


(あれっ? ボボの様子が変わった?)


 ボボは長い触手のような紐状のもので、あちらこちらをビシッ、ビシッと指し示してアイカ達に「あちらを見て!」という素振りをする。


「ママっ! 見て! お猿さんが来てる!」


「えっ? カルネがお猿さん達を足止めできなかったってこと? カルネは大丈夫かしら!? ……って、そんなことを言ってる場合じゃないわね!?」


……ササッ!


 すると三匹のドシエがアイカの前に立ち塞がりこの場所を通すまいと威嚇してくる。アイカは足を止めドシエ達と対峙する。


(……こ、こんなことになるなんて! 野生のお猿さん!? 目の前で凄まれるとさすがに怖いわね!)


 野生のドシエ達が見せる本気の威嚇ぶりにアイカは怯む。しかしアイカの中では、自身の恐怖心よりもヒマリを守ろうとする母性の方が勝った。アイカは覚悟を決めてヒマリを背中から下ろす。


「ヒマリ、いい? ママの後ろにいなさい。ボボ、お願い。お猿さんがヒマリに近づいたら、何でもいいから追い払って!」

「えっ、ママ?」

「ボーッ! ボーッ!」


 ヒマリは驚きながらもアイカの足にしがみつくように後ろに隠れ、ボボは触手を伸ばして臨戦態勢をとる。そしてアイカは深呼吸をして心を落ち着かせると……カルネに渡された護身用のナイフを鞘からゆっくり抜いた。


(……わ、私にできるかしら? 刃物でお猿さんを傷つけるなんて!)


 全身が震えるアイカ。それでも勇気を振り絞り両手で握ったナイフをドシエ達に向けて叫ぶ。


「ちょっと、あんた達! そこをどきなさい! 通してくれたら何にもしないから!」


 怯えながらナイフを向けるアイカに対し、ドシエ達も両手を上げながら威嚇を返す。


((注)以下、三匹のドシエ達(ABC)の鳴き声に日本語訳が入ります)


「キキキッ!!」(ドシエA)

(お前達、何を言ってるんだ!? そもそも、お前達が俺達の縄張りに入ってきたんだろうが!)


「キッ、キッ!」 (ドシエB)

(おい、見てみろよ、あの女……武器を持ってるけど震えてビビってるぜ?)


「キーッ、キーッ!」 (ドシエC)

(そうみたいだな。あんな弱そうな奴ら、少し痛めつけてやろうぜ!)


 ドシエ達は声を上げながら威嚇を続ける。アイカも必死にナイフを突く動作を見せて威嚇の反撃をする……しかしドシエ達も凄んで威嚇する。アイカは震えながらナイフを動かす。


(このっ! このっ! ……早くどこかへ行ってよ!)


 ナイフを動かし終えたアイカとドシエ達が見つめ合う。再びドシエ達が威嚇する。アイカは必死にナイフを動かす。


(もうっ! 刺さると痛いのは見たらわかるでしょ! お願いだから早く逃げてよっ!)


 ナイフを動かし終えたアイカとドシエ達が見つめ合う。アイカの威嚇にさほど恐れを感じないドシエ達は両手を上げて一歩ずつ近づいてくる。アイカは涙目になりながらナイフを大きく振り回す。


(ああっ! もう嫌っ! 何でちょっとずつ近づいてくるのよ!?)


 ナイフを振り回し終えたアイカとドシエ達が再び見つめ合う……微妙な駆け引きと間がしばらく続いた。そして互いの距離が数メートルまで近づいた時、一匹のドシエがアイカに飛び掛かろうとした。


「キキキッ!!」 (ドシエA)

(こいつ! 退く気がないならちょっと痛めつけてやるぜ!)


「きゃぁぁっ!」

「ママッ!?」


 アイカは反射的にナイフを足元に捨て、ヒマリを抱いて横方向に飛び込むようにしてドシエの攻撃を回避した。


(ああぁっ! ムリムリムリムリ!! お猿さんをナイフで斬るなんてっ! 私にはできないわよっ! カルネ! お願い、早く来て!)


 ヒマリは自分を抱きかかえながら地面に横たわるアイカを心配する。


「ママッ!? 大丈夫?」


「うん、ヒマリ。ママは大丈夫よ。でも、ごめんね……ママ、お猿さんを傷つけるなんてできないわ。ちょっとこれは……ピンチかもね」

「ママ……ピンチなの?」


「うん、ヒマリ。でも安心して。ヒマリに怪我はさせないからね。ヒマリは私のたった一人の大切な娘だから! ヒマリのことだけは必ず守るから!」

「ううっ、ママッ……」


 ヒマリはアイカの口から出る弱い声ではありながらも、強い意思が込められたその言葉に泣きそうになる。そんな不安げなヒマリを安心させるように、アイカもヒマリを強く抱きしめる。しかし状況は悪化してゆく。地面に横たわるアイカとヒマリをドシエ達が取り囲む。


「ボーッ! ボーッ!」


 ボボは必死に触手を振り回してドシエ達を追い払おうとするがドシエ達には効果がない。


(……ああっ、もう! この状況、どうしたらいいの!?)


 アイカはこの状況を打開する策を思いつくことができず狼狽《うろた》える。するとヒマリが急に大声を上げた。


「あっ、そうだ、ママッ! ちょっと待って!」


(……えっ? ヒマリ!?)


 ヒマリは狼狽えるアイカの腕の中から出て急いで鞄の中からお絵かき帳とクレヨンセットを取り出し、そしてあるものを描き始めた。


「キキキッ?」 (ドシエB)

(な、なんだこのチビ。一体何をしてるんだ?)


 不思議な行動を始めるヒマリに、ドシエ達は一歩下がって様子をうかがう。


「ママッ! これを使って!!」


……ピカーンッ!! ……ボンッ!!


 ヒマリが描き終えるとクレヨンセットとお絵かき帳が光り出し、それは目の前に現れた。


「……えっ? ヒマリ、これは!?」


 ヒマリが描き出したものにアイカは戸惑う。また、目の前でお絵かき帳とクレヨンセットがまばゆく光り、そこに無かったものが突然現れるという奇妙な光景にドシエ達はさらに一歩下がって警戒する。


「キキー!」 (ドシエC)

(お、おい! 何だ今のは? 一体何が起きたんだ?)


「キー、キー!」 (ドシエA)

(そんなの知るか! でも、何か変な黒いものが突然現れたぞ!?)


 一旦怯んだドシエ達の前でアイカもヒマリが突然描き出したものの理由が分からず困惑する。


「……えっと、ヒマリ? どうして今、ママがいつも家で使ってる中華鍋と鉄のお玉を出してくれたの?」


 ヒマリが描いて出したもの……それはアイカが得意の炒飯を作る時に愛用している調理器具、中華鍋と鉄のお玉だ。不思議がるアイカにヒマリは無邪気な笑顔で答える。


「だって、パパが言ってたもん! 『ママは中華鍋と鉄のお玉を持ったら気合いでパワーアップするんだよ』って! 炒飯を作ってる時のママは正義のヒーローみたいになるんだよね!?」

「なっ……」


(コウスケがっ? ……えっと、どういうこと? 確かに中華鍋と炒飯作る時は気合いを入れて叫んだりしてるけどっ! それにしてもコウスケったら! ヒマリに何て適当なことを言っちゃってるのよ!?)


 アイカは一瞬、困惑し錯乱するが、コウスケがヒマリに適当な発言でもしたのだろう……という想像に至る。そして、自分の手によく馴染んだ愛用の中華鍋とお玉を持ち上げて見つめる。


(でも、中華鍋と鉄のお玉って……よく見たら盾と鈍器として使えるかもしれないわね。お猿さんを刃物で傷つけるなんて怖くてできないけど……中華鍋で避けながら鉄のお玉で軽く叩いて追い払うくらいならできるかもっ!? ……そう、そうよっ! こうなったら何もしないよりマシだわっ! ヒマリを守るためなら……やってやるわよ!!)


 アイカは愛用の中華鍋と鉄のお玉を強く握りしめ深呼吸をする。そして、ヒマリを守る固い決意を胸にドシエ達と対峙した。

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