ティフォエウス
短め
取り出した黄金像を渡すと、まじまじと眺めながら触れて何かを確かめている。
「……本物のようだね。どうしてコレを君が?」
当然、質問が飛んでくる。さっきまでの優しさは鳴りを潜め、少しだけ険のある眼差しでこちらを見つめている。
どうしよう、結局なんで私がこれを持っているかの言い訳を思いついてないのに。
とにかく、私が怪盗じゃないって言わなきゃ。
「あの、信じてもらえないかもしれませんが、私は怪盗じゃありません。実際に盗まれた物を持ってきた以上、疑われるのは覚悟の上ですが本当に私じゃないんです。」
するとティフォエウス様は私をじっと見つめた。
像よりも透き通った黄金の瞳に見つめられると、何も言われていないのに尋問されているかのように緊張する。しばらくして、ティフォエウス様がフッと笑った。
「元々君のことを怪盗だとは思っていなかったさ。それにきっと君がこの像を持ってきた理由は言えないんだろう?なら詮索はしないよ、大切なのはこれがちゃんと戻ってきたことだからね。」
簡単には信じてもらえないと思っていたんだけど、どうして私が犯人じゃないってわかるんだろう。
「信じてくれるんですか?」
折角信じてもらえたというのに、つい聞いてしまう。
「勿論。君が怪盗じゃないというのはいくつか理由がある。まず、怪盗に盗まれた物が返ってきたという事例自体はある。しかし、盗んだものを返すにしても犯人ならこんな馬鹿正直に正面からはこないだろう。実際に盗まれた物が返ってきた時は、何処かに隠されていたという事が多い。」
「次に詮索しない理由だけど、先程も言った通り像が戻ってきたなら私としてはそれで良い。怪盗を捕まえるのは憲兵の仕事で私がやるべきことではないからね。それに折角勇気を出して持ってきてくれたのに藪をつついて蛇を出すこともないだろう?」
なるほど、確かに言われたとおりだ。
あとたぶん、ティフォエウス様は犯人が入学式の参加者の中に居る事に気付いているんじゃないだろうか。
個人までは絞れていないだろうけど、もし私を問い詰めてとんでもないことろから犯人が出てきたら、きっと今回の騒ぎなんて洒落にならないくらいの事件になるかもしれないし。
だからこそ盗まれた物が返ってきたからこれで終わり、にしたいんだと思う。
「まあ他の者に説明するときはこんな所だね。」
「え?」
他の者に説明するときは…ってなら本当の理由は別にあるってこと?
「本当の事を言えば君がそんなことをするとは思っていないというだけだよ。理由なんて後付けさ、あまり褒められたことではないけどね。」
笑顔で告げるティフォエウス様になんだかとても嬉しい気持ちになる。今朝ほんの少ししか話しただけなのに、私のことを信じてくれるなんて。
「ありがとうございます、そう言ってもらえて嬉しいです。相談したのがティフォエウス様でよかったです。」
そろそろ先生方の手も空いて、寮の案内がくるだろうからと、お礼を言って生徒会室を後にした。
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リーゼが立ち去った後、生徒会室に座るティフォエウスの影が蠢いた。その影は床から起き上がり、人の形に変わっていく。
やがて完全に人型になると、厚みを増していき、一人の男の姿になった。
「良かったのですか?あの少女を問い詰めなくて、世間を騒がす怪盗の尻尾を掴むこれ以上ないチャンスだったのでは?」
リーゼとの会話中もティフォエウスの影に潜んでいた男は疑問を零す。
「いいさ、怪盗逮捕などに興味は無い。それに捕まえなくてはならなくなったらあの子の手を借りるまでもない、もう目星はついている。」
「それにあの子に言ったことは嘘じゃない。重要なのはこの像が無事に戻ってきたことだ。」
ティフォエウスはチラリと男に目をやると先程リーゼと話していた時とは違う冷たさを感じさせる声で答えた。
「出過ぎた真似をしました。」
主の言葉にそう言って男は頭を下げた。
「それに収穫はあったさ、像など比べ物にならない程の大きな収穫がな。」
ティフォエウスの言葉に驚きの表情を浮かべた男。
「なんと、ではあの少女が……?」
机に目線を落とし、机上にある一枚の写真を手に取る。そして大切そうに写真を撫でて呟いた。
「ようやくだ。ようやく見つけた、私の………を。」




