銀河美術館
地球は一瞬にして、粉々に砕け、消えた。
僕は宇宙船の中でそれを見て、言葉を失った。
宇宙旅行が日常になってから、地球は少しずつ遠くなった。
初めて無重力で身体が宙に浮いたとき、僕は笑った。怖さよりも、身体が世界から切り離されたような軽さが楽しかったのだ。
その頃から、地球に「帰る」という感覚は薄れていった。
どこまで広いのか。
その果てに何があるのか。
そして、僕らは何のために生きているのか。
答えのない問いを抱えたまま、僕は個人用宇宙船で宇宙を漂っていた。
その途中で、地球は消えた。
レーダーは沈黙し、星図にあったはずの帰還先は空白になった。
通信は届かず、救助もない。
酸素も食料も、数日で尽きる。
不思議と叫びは出なかった。
僕だけが、生き残ってしまったのだと理解した瞬間から、時間は罰のように流れ始めた。
いっそのこと、みんなと一緒に消えたかった。
僕には、考える時間だけが与えられてしまった。
絶望する時間を。
死を選ぶかどうかを、何度も反芻する時間を。
徐々に酸素が薄くなり、視界が白く滲んでいく。
ここで終わるのだと思った、そのとき。
「……聞いているんだろ。最後の人間」
無線が、唐突にそう囁いた。
「ハビタブルゾーンはこの辺りでいいかな。水は全体の八割。窒素、酸素、二酸化炭素……うん、問題ない」
独り言のような声だった。
僕の存在を確認するでもなく、ただ作業を進めている。
「バックアップを取っておいて正解だった。せっかくみんなで作った作品が全部消えたら、お客様が怒るからね」
心臓が、まだ動いていることを思い出した。
僕は必死に目を凝らす。
「次は壊れないでくれよ。……まあ、多少の誤差は仕方ないか」
宇宙船の丸い窓の向こうに、青があった。
かつて見慣れていた色と、少しだけ違う青。
僕は、その光から目を逸らせずに、溜まった水分をそっと拭った。




