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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第4章】未確認神獣・銀ヒョロの解

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第72話 指でキス!

 彼女の言葉に手を止めて顔を上げると、柘榴塚さんは真剣な眼差しで、綿の詰まった人形の腹をメス……じゃなくてリッパーで切り開いているところだった。


 うーん。慣れたとはいえ、やっぱりちょっと怖いところはある……なんて思っちゃう薄情な僕を許してね、柘榴塚さん……。


「父の知り合いにペット探しが得意な私立探偵がいてね。その人に頼んだらすぐ捕まったんだってさ」


「え、本物の私立探偵と知り合いなの!? さすがミステリー作家……」


 僕が感嘆すると、彼女はくすりと笑った。


「私は『猫のおじさん』って呼んでるよ。いつも猫を肩に乗せてて、二言目には『女房に逃げられた』ってぼやく面白いおじさんなんだ」


「うわぁ、これ以上ないくらい私立探偵っぽい!」


 絵に描いたようなハードボイルド。いつか会ってみたいと思う。僕の名探偵さんが一目置くような人なんだから、きっと素敵な人に違いない。


「本人は『僕は猫の言葉が分かるんだ』とか言ってる。フェレットも、その猫ネットワークで見つけたらしい。でも奥さんの言葉は分からなかったみたいだけどね」


「あはは、深い」


 僕たちは顔を見合わせて笑った。

 こんな風に軽口を叩き合える日常が、なんだかとても尊く感じる。


 幸せを噛みしめながら、もういちど、僕は編み針を持ち直して手元に集中した。

 柘榴塚さんも解体を再開する。

 ……平和だ。でも、もう一つだけ確認しておくことがあるかな。


「ところでさぁ」


「ん?」


「新聞部から報酬はもらった? あの古いワープロ専用機」


 僕の質問に、柘榴塚さんは人形の腕の綿を掻き出しながら、満足げに頷いた。


「もちろん。きちんともらったよ。ただもう感熱紙もインクリボンも売ってないから、完全に分解用になるな」


「今度はどんな改造をするの? 足が生えてお喋りするとか?」


 柘榴塚さんは解体するだけじゃないってことが、今回の事件で明らかになったからね。彼女はこれまでの報酬を分解して、それを改造して事件解決の道具にしたんだ。

 きっとあのワープロ専用機も、彼女の手にかかれば何か面白いものに生まれ変わるに違いない。


「そんなスーパー技術、私にはないよ」


「でもラジコンとか目覚まし時計とか、凄かったじゃない」


「あれはそういうキットがあったから。私はそれを組み合わせただけ」


「キットを使いこなす力があるのは、技術があるって事だと思うんだけどなぁ……」


 キットがあるからって、僕があんな改造ができるかっていうと無理だから。情けないけど、まぁ……人には得意分野とかそういうものがあるからね。でもお喋りなら、そこそこいい勝負ができるとは思うんだけどな……。


 カチ、カチ、カチ。編み棒をリズミカルに動かしていたら、ふと、以前彼女が言っていた言葉を思い出した。


『好きなんだ、リッパーが』


 その言葉通り、彼女の手にはいつもリッパーがある。なにかを切り開き、中身を暴き、本質を知ろうとする彼女の象徴。

 それが今回、犯人を追い詰める切っ掛けになるだなんて……。世の中って分からないものだ。


 と。

 不意に、柘榴塚さんが手を止めた。

 リッパーをテーブルに置くと、じっと僕を見つめてきたんだ。


 その丸っこい瞳が、悪戯っぽく、そしてどこか照れくさそうに輝いている。


「……今回は、水間くんにはお世話になった」


 彼女はもじもじと言葉を紡ぐ。


「私ばかりが報酬を受け取るのも悪いから、私からあなたにプレゼントを贈ろうかと思う。受け取って欲しい」


「え、プレゼント?」


 なんだろう。人形の綿とかかな?


 身構える僕に、彼女の手が伸びてきた。

 細い人差し指が、僕の右頬をツンと突く。


「こっち? それとも、こっち?」


 今度は左頬をツン。


「なにしてるの、柘榴塚さん?」


「えーい、両方だ」


 両手が伸びてきて、ぶすっと両頬に人差し指を突き立てられた。

 爪が食い込んできて、ちょっと痛い。


「え? なに? え?」


 戸惑う僕に、柘榴塚さんは満面の、とびっきりの笑顔を向けた。


「消毒完了!」


 その顔は、トマトみたいに赤く染まっていて。


「これからも頼むよ、私の……親友兼助手さん」


 ――あ。


 鈍い僕の頭に、ようやく理解の光が差し込んだ。

 消毒。


 小6の時に元カノにキスされて鼻血を吹き出したトラウマ。それを、彼女は今、指で上書きしてくれたんだ。つまりこれは……指の、キ、キス!?


「ちょ、えええええええ!?」


 理解した次の瞬間、一気に血液が頭に昇った。目の前が真っ赤になったような気配がする。

 慌てて編み物を放り出して、両手で鼻を押さえた。


 鼻の奥がツンとする。これはヤバい。


「は、鼻血出さないように頑張る……」


「うん、あなたならできるよ」


 真っ赤な顔のまま、それでも満足そうに胸を張る彼女。


 窓の外は、茜色になろうとしていた。


 柘榴塚さんは鼻歌交じりにリッパーを手に取り、再び人形に向き合い始めた。

 その横顔を眺めながら、僕はしばらく鼻を押さえていた。


 僕たちの日常は、きっと解体と構築の途中なんだと思う。

 そうだ。僕たちの先には、まだまだ解体しなきゃいけないものが道のように続いている……。


 とりあえず今は、鼻血を出さないようにしないとね!



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


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