第71話 銀ヒョロ事件の終わり
事件は、あっけないほど急速に収束した。
間門部長の通報を受けて駆けつけた警察官によって、真藤先輩が保護されたんだ。
蒼白な顔で震える校長先生も事情聴取のために同行し、僕たちも話を聞かれたが、その場ですぐに解放された。
……それから数日が経ったけど、警察で真藤先輩に対してどのような取り調べが行われたのか、僕は知らない。
ただ一つ確かなことは、あれ以来、真藤清花という生徒の姿を学校で見かけることはなくなったということだけだった。
「私はあなたほど優しくはないんだ、水間くん」
事後処理の最中、柘榴塚さんがぽつりと呟いた言葉が耳に残っている。
「私を傷つけようとした罪は、しっかりと償ってもらうよ」
その声に慈悲はなかった。彼女は、自分を陥れようとした悪意を許しはしない。まあ、それに対して僕があれこれいうこともな交った。それが彼女の流儀であり、誇りなのだろうから。
市議であるお母さんにどんな評判が立ったのか、目前に迫った選挙にどう影響したのか……それも、僕の知るところではなかった。
ただ、僕が知っていることといえば――新聞部の底力だ。
あの犯人当ての直後、新井さんは泥まみれのICレコーダーを宝物のように抱きしめると、間門部長と共に猛ダッシュで部室へ戻っていったのだ。
心配した篠原会長も付き添っていったけど、彼女たちの熱量は凄まじかった。
翌日には僕への取材が行われた。今回の事件のことではなくて、柘榴塚さんの過去、『ウサギ解体事件』の取材である。僕は、木谷先輩から聞いた真実を包み隠さず話した。
そうして翌々日。
登校すると、校門付近で新聞部員が総出で号外を手配りしていた。その行動の早さと力強さは、本当に凄いと思う。
『号外! 銀ヒョロの真相! そして名探偵の冤罪を晴らす!』
一面トップを飾る大見出し。
記事には、銀ヒョロ騒動の顛末(犯人は生徒Aとぼかされていたけど)と、2年3組の柘榴塚くれろがその名推理で全てを解決したことが詳細に記されていた。
さらに特集記事として、彼女の過去の悪評が真っ赤な嘘であり、彼女こそが被害者であったことが、新井さん特有の扇情的ながらも胸を打つ筆致で書き立てられていた。
フェイクニュースの才能が、真実を伝えるために使われた希有な瞬間だった。読み物として純粋に面白いのはやっぱり強くて、多くの生徒が足を止めて読みふけっていた。
生徒会はこの号外を止めなかったのか、って?
それどころか生徒会長のコメントも載っていたよ。
『彼女は本物の名探偵だ、その鋭い推理は賞賛に値する』ってね!
そういえば、木谷先輩にもLINEで「解決しました」と報告したんだ。
返信は、ただ親指をサムズアップした柴犬のスタンプが返ってきただけ。
文章はなかったけれど、そのシンプルさが木谷先輩らしくて、なんだか嬉しかった。
ありがとうございました、木谷先輩。あなたのおかげで、僕は彼女の親友になれました。
* * * *
そんな慌ただしい数日が過ぎ、柘榴塚さんの名誉も回復されて、すっかり日常が戻ってきた放課後の家庭科室。
西日が差し込む穏やかな空間で、僕たちはいつも通りクラブ活動をしていた。
僕は編み物で帽子を作っているし、角を挟んだ隣の席では、柘榴塚さんがフランス人形みたいなアンティーク調のぬいぐるみを黙々と解体していた。……この……おばあちゃんが手作りしたようなお人形さんを、彼女はいったいどこで手に入れたのか……。まあ、いいけどさ。
「校長先生、もう新しい人が来たね」
編み棒を動かしながら、僕は世間話のように切り出した。
校長先生が真藤先輩の言いなりになっていた理由――真藤先輩が握っていた校長先生の弱味。それは、窃盗だった。校長先生って実はギャンブルで借金があったらしくて、それを返すために、校長室の高価な壺を勝手にネットオークションで売っていたんだって。それを真藤先輩に知られて、脅されていたというわけ。
だから、校長先生は真藤先輩に命令されるがまま、新聞部や僕たちに圧力をかけて、銀ヒョロ探しをやめさせようとしてたんだ。
校長先生も相当な悪人だった、ということだ。
盗品ということが明らかになった壺は返却手続きに入り、校長は懲戒免職。
そしてすぐ、新しい校長先生が我らが南ヶ丘中学校にやって来た――。
「王様は死んだ! 新しい王様万歳!」
人形の腹にリッパーを突き立てながら、柘榴塚さんがそんな呪文みたいなことを口走る。
「なにそれ?」
「中世ヨーロッパの格言だよ。支配者が代わっても権力構造は続く、みたいな意味。校長先生が去ってもすぐ新しい校長先生が来るんだから、やっぱり校長っていうのは学校には必要不可欠ってことでしょ。権力に空白を作らないためのシステムが健全に働いてるってことだ」
「ふーん。柘榴塚さんって、そういうのよく知ってるよねぇ……」
カチ、カチ、と編み棒が触れ合う音が家庭科室に響く。この静けさが心地いい。もちろん周囲の家庭科クラブ員たちのお喋りは賑やかである。
そうやって、放課後の時は穏やかに過ぎていく。ああ、やっぱり僕はこの空間が好きだなあ。
「あとは銀ヒョロ……じゃなくてフェレットが見つかれば万々歳なんだけどね」
「ああ、あれ。見つかったよ」
僕の独り言に、彼女はさも当然のように返してきた。
え? そうなの?
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