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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第4章】未確認神獣・銀ヒョロの解

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第70話 大切な人

「陽鞠、怪我はないか?」


「うん、大丈夫。ありがと……」


 新井さんが涙目で頷くと、会長はようやく安堵したように息を吐いた。それでも真藤先輩を制圧する力を緩めないのがさすがである。


「くそっ、なんなのよこれ。そんなおもちゃで……!」


 篠原会長に地面に押さえつけられて泥だらけになった真藤先輩が、柘榴塚さんの持つラジコンを見上げてわめいていた。

 柘榴塚さんはそんな彼女を見下ろすと、ニヤリと不敵に笑った。


「一度は私を追い詰めた人間に、なんの対策もなしに挑むわけないでしょう? ちゃんと準備はしてありますよ」


 まあ、肝心の武力制圧は篠原会長頼みだったけどね。しかも事前に話もしていないぶっつけ本番っていう。まさか真藤先輩が新井さんを人質にとるなんて思いもしなかったし……。会長のスペックが高すぎて助かったよ、本当に。ああ、ヒヤヒヤした。

 僕が古武術を使えたらよかったんだけど、そんな都合よくはいかないしね。腕っ節には自信がないんだ。ほら、なにせ僕はお喋り部門のエースだからさ。


「気味の悪い女ね! あんたみたいな変人に、私の何が分かるっていうのよ!」


 真藤先輩が慟哭する。


「私はただ、逃げたフェレットを捕まえたかっただけなの! 私が餌をあげなかったらとっくに死んでるわよ。必死だったのよ!」


「あなたのしたことに対しての同情はありませんが、理解できる部分は多いですよ。今回の事件は構造が単純ですからね」


「なっ……! 馬鹿にしないでよ!」


 彼女は憎悪で顔をどす黒くして、柘榴塚さんに罵声を浴びせかけた。


「面白くないのよ、あんたみたいな奴! 大っ嫌い! 変人のくせに! 解体癖なんて危ない趣向を持ってるくせに、のうのうと世間に混じりやがって!」


「おっと、勘違いしないでください。構造は単純な方が美しいんです。あなたの動機や犯行は美しかったってことです」


 真藤先輩の目から涙が溢れ出し、泥と混じり合った。


「うるさい! 私はこんなに苦労して、真面目な優等生の皮を被って、必死に生きてるっていうのに! あんたは素の顔で、変人のままで、どうして受け入れられるのよ! 不公平よ! こんなのおかしいわ!」


 それは、市議の娘として、優等生として縛られ続けてきた彼女の、ドロドロとした本音なのだろう。

 誰にも相談できず、たった一人で奔走し、嘘を重ねて追い詰められていったんだ。

 彼女もまた被害者だったのかもしれない。フェレットさえ逃げなければ、こんなことにはならなかったんだ。


 だけど。

 だからといって、柘榴塚さんを傷つけていい理由にはならない。


「違います」


 気がつけば、僕は声を上げていた。

 一歩前に出て、柘榴塚さんの隣に並び立つ。


「不公平なんかじゃありません。柘榴塚さんは、今までいっぱい頑張ってきたんです」


 彼女がどれだけの悪意に晒され、どれだけの孤独を抱えてきたか。僕はそれを知っている。人間不信になって、友達は敵だとまで言い切った彼女の悲しみを、僕は知っている。


「傷ついて、叩きのめされて、殻にこもって……。それでも柘榴塚さんは事件に関わってくれた。僕に真相を教え続けてくれました」


 柘榴塚さんが驚いたように目を丸くして僕を見上げる。

 僕は彼女の瞳を見つめ返し、不器用に口角を上げてみせた。

 大丈夫。君の隣には、僕がいるよ。


 僕は真藤先輩に向き直り、はっきりと告げた。


「変人でも、気味悪くても関係ない。柘榴塚さんは僕の……」


 僕の、なんだろう?

 助手兼親友……。そのどちらもを一度にうまく言い現す言葉って、なにかないだろうか。


 いろいろ考えて……。

 ……そうだ。あるよ、ピッタリの言葉が。


「僕の、大切な人です」


 一陣の風が吹き抜け、さらさらと梢と僕らの髪を揺らし、木漏れ日が僕たちを照らした。

 真藤先輩は呆気にとられたように口を開け、やがてガクリと力を抜いた。


「なんなのよ。……あんたたちは、なんなのよ……」


 戦意を喪失した彼女は、地面に突っ伏してしくしくと泣き始めた。篠原会長に拘束された腕では涙を拭うこともできず、ただ無様に、子供のように泣きじゃくっている。


 張り詰めていた空気が緩んでいく。

 全てが終わったんだと、僕は悟った。


 ツン、と袖を引かれた。

 見下ろすと、柘榴塚さんが僕の袖を摘んでいる。


「……さすがお喋りのエースだね。よくもまあそんな恥ずかしい台詞、真顔で言えるもんだ」


 そんなことを囁く彼女の耳は、これから来る夕焼けよりも赤く染まっていた。


 ……あれ?

 僕、恥ずかしいこと言ったのかな?

 まあいいか。だって、本当のことなんだから。




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