第66話 親友宣言
彼女の言葉に、僕は目を見開いた。
「僕のこと、親友っていってくれるの?」
だって、彼女にとって親友というのは裏切られた象徴のはずなのに……。
すると、柘榴塚さんは悪戯っぽい笑顔で僕を見上げたんだ。
「助手の方がよければ助手にするけど。どっちがいい?」
クラスメイトたちの視線を感じる。呆気にとられて――あるいは息を呑んで、僕たちを見つめている感覚。そんな教室のど真ん中で、僕たちは至近距離で見つめ合っていた。
「助手にも戻してくれるの!?」
「もちろん、クビは反故だ。さあ、どっちがいい。親友か、助手か」
信じられない。あんなふうに助手をクビにされたのに、元に戻してくれるなんて。
でも反故かぁ……! 名探偵の特権……なのか!?
でもさ、助手は名探偵の相棒だし、親友は人間としての柘榴塚さんの相棒だし。どっちがいいかなんて選べないよ!
「えっと、じゃあ、両方。助手で親友がいいな。欲張りでごめん!」
僕の答えに、彼女は丸っこい眼をさらに丸くして、そしてにっこり笑った。
「いいだろう。あなたはこれから、私の助手兼親友だ」
明かりが灯りそうなくらい真っ赤で、でも今まで見た中で、一番安心したような笑顔でいう彼女。
「柘榴塚さん……! ありがとう、柘榴塚さん!」
感極まってもう一度思い切り抱きしめると、彼女は僕の腕の中でビクリと身体を身もだえさせて、上ずった声をあげた。
「は、ははは、どういたしまして。しかし距離が近いね水間くんは。そういうとこほんと……うん、水間くんらしいよ」
言いながら、彼女の手がおずおずと僕の背中に回される。
そして、遠慮がちな力が、僕の腰にふわりと触れた。
「まぁせっかくだし。堪能しとくか」
そんな僕たちの様子を、数席離れた場所から見ていた二人――奥野くんの、大きなため息が聞こえてきた。
「……そこまでしといて親友でいいのか。水間らしいっちゃらしいが」
「今まで鈍感系主人公だけが問題なのかと思ってたけど、ヒロインの方も問題があるんだなって……」
なんて相沢くんの呆れ声まで聞こえてくる。
……なにをいっているのか正直ピンとこないけど。でも彼らが茶化してくれたおかげで、息を呑む教室中の空気が和らいだのを感じた。
彼女の体温が名残惜しいけど、いつまでも抱きしめてはいられない。
僕は彼女の肩甲骨から腕を解くと、ぐるりと教室を見渡した。
「僕、これからみんなに、君のウサギ解体は冤罪だって説明して回るよ。こういうのは抱え込んじゃだめだ。ちゃんと説明すれば、みんな分かってくれるから」
だって本当にウサギ解体なんかしてないんだから。そんな濡れ衣をいつまでも着てちゃだめだよ。
って、なんだか頬が冷たいと思ったら。僕、いつの間にか泣いてた。恥ずかしいな……。
慌てて袖で頬の涙を拭いていたら、柘榴塚さんがふふっと小さく笑った。
「やっぱり水間くんは水間くんだね。人を信じすぎてる」
「……そうかな。僕、甘い?」
「それでいいよ。あなたは光だから」
そういう彼女は、なんだか吸い込まれそうな笑顔をしていた。
僕は急に恥ずかしくなってきて、袖でゴシゴシと涙をぬぐいながら顔を隠す。
そうしていたら、急に現実に引き戻されていった。
あ……えぇと。
……僕、なにをしたんだ?
感極まって……柘榴塚さんに抱きついた……!?
認識した途端、身体がボッと火のように熱くなった。
柘榴塚さんに、抱きついた!?
女の子相手になにやってるんだ、僕!
「……ごっ、ごめん、僕……そのっ、これはセクハラとかそういうんじゃなくて、その……ごめんなさい……訴えないで……!」
ゴシゴシ顔を拭いながら必死に謝る僕に、彼女は呆れたように笑うんだ。
「今さら? まあ、いいよ。水間くんだし、許す。それより――」
まだ赤い頬ではにかみながら言って、彼女は丸っこい眼をキラリと光らせた。
それは、傷ついた女の子から名探偵へと変わるスイッチみたいなもので、僕も思わず息を呑んで、腕を降ろして居住まいを正した。
「実は昨日からこっち、裏で捜査を進めてたんだけど……」
「え、そうなの? サイコパス扱いされて落ち込んでるものとばかり」
「それは一回通った道だから。慣れがあるから捜査くらいは続行できるよ」
……やっぱり柘榴塚さんは、なにがあっても名探偵だよ。そして、転んでもタダじゃ起きない僕の自慢の親友だ。
「ハッキリ言って、今回の犯人はかなり悪質だ。私の過去の都合の悪いところだけを切り取って、まるで私がウサギ解体の犯人みたいなビラを掲示板に貼り付けるくらい、頭が回る」
「そうだよね。すごい悪意……。でもなんで黙ってたの。なんで僕をクビにまでしたの」
「……捏造ビラに気になる文言があったんでね」
と、彼女はちょっと得意げに鼻頭を擦った。
「あれに気付いてない犯人を油断させておくために、私は負けたフリをしなくちゃならなかった。水間くんをクビにしたのは、余計なことに巻き込みたくなかったから。あなたまで私に関わって学校に来れなくなったら可哀想だからね」
ああ、やっぱり。そんなこと気にしてくれたのか……。
なんかもう一回抱きしめたくなってくるけど、さすがにそれは恥ずかしくてできない。でも彼女の感触が今も腕の中に残ってて、それがなんか凄く……心が溶けそうなくらい、今さらドキドキしてしまう。
「でもあなたはもう私の親友兼助手だから、そんな遠慮はしないよ。死なば諸共って気持ちでいてほしい」
……そうだ、僕は彼女の助手兼親友だ。だから僕は、彼女の推理に最後まで付き合うんだ。
「もちろんだよ柘榴塚さん、僕たちは運命共同体だ。でもちょっと待って。柘榴塚さん、脅迫犯が誰か分かったの? その、脅迫状の差出人と、今回柘榴塚さんを脅した犯人って意味だけど」
「もちろん。その二つの事件の犯人は同一人物だよ。私たちも知ってる人だ」
「え、誰!?」
「それはまだ秘密。……と言いたいところだけど、あなたは私の助手兼親友だから、ちゃんと言う。それで一緒に犯人を絡め取る作戦を練ろうじゃないか」
教室中の生徒が聞き耳を立てる気配の中、彼女は堂々と言ってのけた。
「真犯人のこと、思いっきり、ぐうの音も出ないくらい徹底的に叩きのめしてやろう。それが私たちのケジメの付け方だ」
彼女はにたりと微笑んだ。それは獲物を見つけた子供の狼を思わせる最高に可愛い笑顔で……草食獣な僕はそれだけで、心の底まで食べられたような気分になったのだった。
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