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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第4章】未確認神獣・銀ヒョロの解

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第63話 ウサギ解体の真相

 店内の喧噪が、ふいに遠のいた気がした。

 アイス烏龍茶の氷が溶けて、カランと音を立てる。その些細な音さえもが、僕の鼓動のように大きく響いた。


 木谷先輩は、湯気の立つコーヒーカップをソーサーに置くと、確信に満ちた瞳で僕を見据えた。


「結論から言おう。柘榴塚さんはなにもしていない。むしろ被害者だよ」


 その言葉は、僕の乾いた喉に冷たい水のように染み渡った。

 被害者。ということは、彼女はウサギを解体していないんだ。そうか……よかった! いや彼女がもしウサギを解体していたとしても、僕は柘榴塚さんから離れたりはしない覚悟はしていたけども……。

 でもなんだ、『むしろ被害者』って。


「被害者って、いったい……?」


 僕は身を乗り出した。

 その解体されたウサギを飼っていたのが柘榴塚さんだとか、そういうことだろうか?


 木谷先輩は静かにカップの縁を指でなぞると、重い口を開いた。


「今年の2月のことだ。まだ寒さが厳しい時期だったよ。中等部の飼育小屋で、ウサギの死体が見つかった。……文字通り、解体されてね」


 先輩の声が、一段低くなる。


「耳も、手足も、尻尾も、首も。全てが刃物のようなもので切断され、バラバラにされていた。――一目で分かる、絶対に自然死じゃない。動物の仕業でもない。誰かが、明確な悪意を持って、解体したんだ」


 想像するだけで吐き気がこみ上げてくるような惨状だ。僕は思わずアイス烏龍茶のグラスを強く握りしめた。冷たい結露が掌を濡らして、ほんの少し心を平常にしてくれる。


「その残忍な手口に学校中がおののいたものだよ。気分を悪くして早退する生徒や、学校に来られなくなる生徒が出たほどだ」


 木谷先輩はそこで一度言葉を切り、ファミレスの照明に目を細めた。


「すぐに犯人捜しの噂が立ったよ。『1年に、怪しい女子がいる』とな」


 あぁ、それは。なんか予想がつく……。


「柘榴塚さん……ですね」


「ああ。物という物をなんでも解体する奇癖を持つ解体魔。あいつならやりかねない。きっと生きたウサギを笑いながら解体したに違いない……。そんな毒々しい噂が、尾ひれをつけながら瞬く間に学園中を侵食していった」


 それはまるで、黒いインクがぽたぽたとティッシュに落ちて染みを広げていくような光景だっただろう。

 彼女の特異性が、こんな形で牙を剥くだなんて……。


「警察も動いた。そして当然のように、普段からの素行が問題視されて、彼女は目をつけられた」


「警察に……」


 小柄な女の子が警察に取り囲まれて取り調べを受ける姿を想像すると、胸が締め付けられる。


「だが、警察がいくら調べても、柘榴塚さんがウサギを殺してバラバラにした証拠なんて出てこなかった。当たり前だ、彼女はやっていないんだからな」


 木谷先輩はコーヒーを一口すする。その苦みが、彼の表情にも微かに滲んだ。


「だが、それで柘榴塚さんは危機感を覚えたんだろう。このままでは、証拠なんかなくても犯人に仕立て上げられてしまう、と。だから彼女は動いた。自分で捜査を始めたんだ」


 ああ、と僕は息を吐いた。

 その光景が目に浮かぶようだったから。孤立無援の中で、それでも真実を求めて立ち上がる小柄な名探偵の姿。それは、この4月から僕たちがやってきたことと同じだった。


「彼女は親友を助手にして、関係者の洗い出しを行ったそうだ」


 木谷先輩のいう助手という単語に、僕の心臓が跳ねた。彼女には、前の学校にも助手がいたんだ。というか親友なんて存在が、あの人間不審な彼女にもいたのか。


「ウサギ小屋の鍵を持っている者、犯行時間に出歩いていた者、ウサギを最後に見た者……。まさに探偵のように徹底的に調べて、調べて、調べて。推理して。そして、ついに彼女は真犯人を突き止めた」


 木谷先輩の瞳に、鋭い光が宿る。


「……いったい誰だったんですか、犯人は」


 僕の問いに、先輩は残酷な真実を告げた。


「彼女の助手役を務めていた、親友だよ」


「……っ!」


 まさか。

 言葉が出なかった。親友が、犯人!? そんなのって、ありなのか。

 信じて背中を預けていたはずの助手が。唯一の味方だと思っていた親友が。


「親友がウサギを死なせてしまったのは、どうやら偶然だったらしい。だが、その親友はパニックの中で柘榴塚さんの奇癖を思い出したんだ。そしてこう思ったそうだ……『あの子がしたことにできる(・・・)』と」


 あまりの身勝手さ、あまりの自己保身。友情を利用した、最悪の裏切り。柘榴塚さんは背中から刺されたんだ。


「そんな……そんなの! 柘榴塚さんはなにも悪くないじゃないですか!」


 親友を信じ、最悪の形で裏切られた。それがウサギ解体事件の真相だった。


 僕は思わずテーブルを叩きそうになって、寸前で堪えた。

 許せない。そんな過去、許せるか……ッ!


「そうだ。彼女は悪くない。だが……彼女にとっての地獄は、ここからだった」


 地獄……?


 気になる言葉で、木谷先輩は声を落として続ける。



お読みいただきありがとうございます!

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