第56話 探偵ごっこ!?
柘榴塚さんのあからさまな抵抗に、篠原会長は、深く重いため息をついた。
「……君たち、銀ヒョロとかいうふざけた妖怪変化を捜し回っているらしいな」
よく通る低い声が腹の底に響いて、思わず身がすくみ上がる。
だが僕の隣に立つ小柄な名探偵はその圧力に眉一つ動かさなかった。
「銀ヒョロなんか捜してません。学校内に設置された、不審な餌を探しているだけです」
「それが言い訳になるとでも思っているのか?」
ダンッ、と会長が一歩踏み出した。
それだけの動作なのに、まるで柔道の乱取りで間合いを詰められたような威圧感があった。僕は反射的に「すみませんでした!」と心の中で降参したが、柘榴塚さんは涼しい顔で受け流していた。
「言い訳じゃなくて事実ですからね。どこの誰が仕掛けたか分からない餌ですよ? もし毒でも入っていたら、生徒に被害が出るかもしれないじゃないですか」
おお、さすが名探偵。筋が通ってる!
安全管理上の問題点という切り口なら、生徒会としても無視できないはず――。
しかし、会長の眼光は揺るがなかった。
「それは生徒会が調べることだ。君たちが首を突っ込む領分じゃない」
彼は冷たく切り捨てると、僕たちを射るように見据えた。
「君たちは家庭科クラブだそうだな。それなら大人しく、編み物や料理に勤しみなさい。捏造記事に踊らされる暇があるのなら、学生の本分を全うしろ」
ぐうの音も出ない正論を口にした会長の視線が、横で縮こまっている新井さんへとスライドする。
「そもそも、あんな壁新聞を承認するんじゃなかった。まさかこんな騒動を巻き起こすとは……。なにが幸運を呼ぶ神獣だ。脅迫状まで呼び込んで、学校の治安を乱しているだけじゃないか」
「うぅ、すみません……」
新井さんはすっかり小さくなって、頭を垂れている。
「そうだ、反省しろ新井。だいたいな、困ったことがあるなら何故俺に報告しない?」
会長は、僕たちを手で示しながら新井さんに説教を開始した。
「なぜ、こんな何の関係もない一般生徒に頼った? 俺の、いや生徒会執行部が信じられないのか」
「そ、それは……柘榴塚さんは、探偵だから……」
「……探偵?」
会長の眉間が、理解不能な言語を聞いたように、怪訝そうに寄った。
「……まあ、そういうことになってます」
柘榴塚さんがやれやれと肩をすくめると、会長は呆れ果てたように天を仰ぐ。
「なんだ君たち、中学生にもなって探偵ごっこをしていたのか。南中の生徒代表として、情けない限りだ……!」
……痛い。心が痛い。
でも同時に、僕は妙な感動を覚えていた。
そうだよ、これこれ! これが普通の反応だよ!
今まで僕の周りの人間――新井さんや菜月、それに木谷先輩たちは、あまりにもナチュラルに柘榴塚さんを名探偵として受け入れていた。
探偵ごっこ。その真っ当すぎる指摘に、僕は思わず赤べこのように頷きそうになった。
そうだよ、僕たちがしているのは探偵ごっこなんだよ! いややってることは立派な探偵だけどさ!
「真藤さんのお宅に不法侵入したのも、その探偵ごっこの延長か?」
ビクリ、と僕の体が跳ねた。
「そ、それは……」
「真藤清花さんが穏便に済ませてくれたから良かったものの、いつ正式なクレームが入ってもおかしくない状況なんだぞ。事の重大さが分かっているのか、水間、柘榴塚!」
ば、バレてる。校長先生経由か、それとも真藤先輩から生徒会に直接報告があったのか。
逃げ場のない叱責。完全なる詰み。
僕が縮み上がる横で、しかし柘榴塚さんは、全く別の場所を見ていた。
彼女の視線は、会長の手元――先ほど彼が几帳面に結んだ、カーテンを留めたロープに注がれていたんだ。タッセル掛けが壊れているらしく直接何重にもぐるぐると巻かれた、そのロープを。
「そんなことより」
柘榴塚さんの声は、場違いなほど静かで、よく通っていた。
「篠原会長。あなた、お茶か何かを習っているんですか?」
……は?
僕は呆気にとられて隣を見た。
叱られている最中に、いきなりなんの話を始めたんだ? 茶道?
しかし、柘榴塚さんの小学生みたいな横顔は至って真面目だ。ふざけているわけでも、話題を逸らそうとしているわけでもない。確信を持って、解体のためのメスを入れはじめた顔をしている。
――待てよ。
デジャヴだ。前にもこんなことを、彼女は誰かに聞いていなかったっけ?
記憶の糸を手繰り寄せる。
そうだ、新聞部の部室だ。
丸めた壁新聞を新井さんがビニール紐で縛った瞬間、柘榴塚さんは同じ質問をしたんだ。
『新井さん、お茶とか習ってるご兄弟がいるの?』
新井さんと、生徒会長。二人の共通点は何だ? 壁新聞を丸める手つきと、カーテンの紐を結ぶ手つき。
そこにどうやって茶道が繋がるっていうんだ?
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