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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第4章】未確認神獣・銀ヒョロの解

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第55話 生徒会室に呼び出される

 真藤先輩と校長先生に遭遇したあの日から、数日が過ぎた。


 その間学校生活で起きた変化といえば、生徒会から全校生徒に向けて『銀ヒョロ捜索禁止令』という、異例の通達が出されたくらいである。


 理由は『校内の秩序維持のため』というお堅い建前だが、裏で校長先生の意向が働いているんじゃないかと僕は疑っていた。

 大人はいつだって、都合の悪いものには蓋をして終わらせようとするからね。


 けれど、僕と柘榴塚さんは止まらなかった。

 柘榴塚さんは言った――「あの庭にあった段ボールと同じものが校内にないか調べる」と。


 そう。捜しているのは銀ヒョロじゃなくて、あの箱だったんだ。それなら『銀ヒョロ捜索禁止令』には抵触しないでしょ? という、言い訳である。


 その結果。箱は見つからなかったけれど、代わりに面白いものが発見された。


 中庭の植え込みの陰、体育倉庫裏の雑草の中、校舎の壁沿いの死角……。

 人目につかない数カ所に、茶色い粒状の固形物が、一握りほど直置きされていたのだ。


 見た目はドッグフードに近い。鼻を近づけてみると、なんだか脂っぽい匂いがした。この匂いには覚えがある。あの箱の甘い匂いの中に隠れていた、微かな匂いだ。


「……食べられた形跡があるね」


 柘榴塚さんは粒をつまみ上げ、冷静に分析していた。


 誰かが、何かに餌を与えている。


 あの段ボールが真藤家の庭にあったことを考えれば、この餌も真藤先輩か、その関係者が用意したものだろう。


 その事実に気づいた瞬間、背筋がぞわりとした。

 つまり、未確認神獣・銀ヒョロは、この学校に棲み着いているのだ。


 時を同じくして、「銀ヒョロを見た」という噂も聞き込みで増えてきた。

 目撃証言を集めると、新井さんが描いたあのヘタウマなイラスト――銀色でヒョロッとした、長細い猫のような姿――は、意外にも特徴を捉えていたらしいことが分かってきた。


 柘榴塚さんのいったとおり、パズルのピースは集まりつつある。あとは、それを組み上げるだけ。


 そう思っていた矢先のことだった。


 昼休み、教室でそれぞれお弁当を広げていた僕たちの頭上に、校内放送のチャイムが鳴り響いたんだ。


『2年3組、水間直翔さん、柘榴塚くれろさん。今すぐ生徒会執行部にお越しください。繰り返します――』


 スピーカーから流れてきたのは、よく通る、凛とした男子生徒の声だった。

 この声には聞き覚えがある。生徒会長の声だ。

 教室中の視線が一斉に僕たちに突き刺さり、ざわめきが波のように広がる。


 僕は箸を止めて、教卓前の席で弁当を食べている柘榴塚さんの背に視線を送った。彼女は振り返る――リンゴの切れ端を齧っているのが可愛い。

 視線だけで会話が成立する。


『うわ……呼び出されちゃったね……』


『まあ、想定内だよ』


 柘榴塚さんの無言の言葉の通りだった。禁止令を無視して嗅ぎ回っていたのだから、遅かれ早かれこうなっていたんだろう。


 だけど、まさか生徒会長から直々のお呼び出しとはね……!


 僕たちは食べかけのお弁当をしまうと、ざわめきながら僕らを送り出す教室をあとにした。



* * * *



 特別棟の4階。


 重厚な木の扉に、『生徒会執行部』と書かれた札が掲げられている。

 気が重い。

 ただでさえここを開けるのは勇気がいるっていうのに、これからお叱りを受けるっていうんだからなおのことだ。


 僕が躊躇していると、隣の柘榴塚さんは肩をすくめ、何の迷いもなくドアをノックした。

 応答があり、ドアノブを回して中に足を踏み入れる。彼女には緊張という感情は実装されていないらしい。


 部屋に入ると、むずがゆいような張り詰めた空気が肌を刺した。

 締め切ったカーテンの前に、二人の人物がいた。

 一人は、うなだれる新聞部の新井さん。あぁ、彼女まで呼び出されていたのか。まあ捏造記事を書いた張本人ではあるもんね。


 そしてもう一人は、彼女を見下ろすように立っている、生徒会長の篠原廉(しのはら れん)先輩だった。

 整った顔立ちのイケメンだが、その瞳はカミソリのように鋭い。

 彼はただの優等生ではない。今年二月の生徒会選挙で、古武術の演舞を披露し、襲いかかる柔道部員5人を瞬く間に投げ飛ばした伝説の武闘派なんだ。

 つまり、言葉で負けなくても物理で負ける可能性があるってわけ。


「水間と、柘榴塚だな?」


 篠原会長は僕たちを一瞥すると、シャッと背後のカーテンを開け放った。


 昼下がりの強い日差しが部屋に差し込む。

 眩しさに目を細める僕たちの前で、会長は手際よくカーテンをまとめ上げると、タッセル代わりの太いロープを、キュッ、と力強く縛り上げた。これから始まる尋問のための逃げ場のない舞台作りのように、その手つきには一切の無駄も淀みもない。


「……君たち。なぜここに呼ばれたのか、分かっているな?」


 会長がゆっくりと振り返り、逆光を背負ったその姿が、黒い影となって僕たちに覆い被さってきた。


「ええと、その……」


 僕は思わず、篠原会長の鋭い視線から目を逸らした。心当たりはちゃんとある。けど、それを認めるのは怖い……。


 すると、新井さんが慌てて会長にすがりついた。


「待ってください会長! さっきも言いましたけど、水間さんたちは私たち新聞部の依頼で動いていただけなんです! 全部私の責任で――」


「新井は黙っていろ。今はこいつらと話している」


 会長は静かに、しかし絶対的な響きを持って言い放った。新井さんは黙ってビクリと身を竦める。


「……さて。申し開きを聞こうか、水間、柘榴塚」


「分かりません」


 張り詰めた空気を、平坦な声が切り裂いた。


 僕の隣で、小柄な名探偵が胸を張り、巨人を見上げるように会長を見据えていた。


「私たちは何も悪いことはしていません。あなたこそ、なんで権力を笠に着て私たちを呼び出したんですか? 納得できる理由を教えてください」


 うわぁ。

 僕は心の中で悲鳴を上げた。

 相手はあの武闘派会長だよ? よくもまあ、そんなふてぶてしい態度が取れるもんだな!



お読みいただきありがとうございます!

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作者のモチベーションがぐぐっと上がります! よろしくお願いします

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