第49話 癒着!?
「それで、新井さん」
柘榴塚さんは指先で銀ヒョロのイラストを指し示しながら、新井さんの顔を見た」
「どこでモデルとなった小動物を見たの?」
コクリと頷いた新井さんは、記憶の糸を手繰り寄せるように語り出した。
「ええと。あの日……柘榴塚さんに取材を断られて意気消沈したあの日。私は、穴埋め記事を書くべく生徒会長に会いに行こうとして……」
「ちょっと待った。なんでそこで生徒会長が出てくるわけ?」
滔々と語り出した新井さんを、柘榴塚さんが掌を向けて制止する。
僕も同じ疑問を抱いた。あの見るからに規律に厳しそうな武闘派生徒会長が、どうしてここで登場するんだ?
「特ダネをもらうため、です」
「この学校の生徒会長って、新聞部に特ダネをくれるようなフランクな存在なの?」
「えっと……それは……」
柘榴塚さんの鋭い視線に射抜かれ、新井さんはさっと俯いた。気のせいか、その頬が朱に染まっている。
え、なにこの反応? まっ、まさか恋? 相手はあの武闘派会長だぞ。いや別に、誰が誰を好きだろうと構わないけどさ。
「まあ、いいじゃないの。持ちつ持たれつよ」
部長が新井さんの肩にポンと手を置くと、余裕たっぷりにウインクしてみせた。
「かたや全生徒の代表、かたや生徒に真実と面白ニュースをお届けする新聞部。仲良くしておいて損はないでしょ? あちらが隠したい不祥事を私たちが握りつぶす代わりに、おいしいネタをいただく……なんてこともあるかもしれないしね」
……それって。まさか。癒着……!? なんてことだ。南中の新聞部って捏造記事を書くわ生徒会とズブズブに癒着してるわ、ろくなもんじゃないぞ!?
そんな僕の内心の絶叫を知ってか知らずか、柘榴塚さんは興味なさそうに肩をすくめた。
「ふーん。まあ、政治的な事情は深く聞きませんよ。で、その後は?」
「あ、はい。……それで、家庭科室から生徒会室に向かう途中、銀ヒョロと出会って、ネタを拾ったわけです。記事を書くために、急いで部室に直帰しました」
新井さんは気を取り直したように、少し胸を張った。
「えっと、詳しくいうと、あの放課後、家庭科室から特別棟の生徒会室に向かう途中の、外に面した渡り廊下を歩いていたときのことでした。なんか、視界の隅でチョコチョコって走り去るものがあって。裏の豪邸のほうにめがけていったんです」
「豪邸?」
柘榴塚さんが不思議そうに首を傾げた。
ああ、そうか。彼女はこの4月に転入してきたばかりだから、学校周辺の地理にはまだ疎いんだった。
「学校の敷地の端に雑木林があってね、その向こうに市議会員さんの大きいお屋敷があるんだよ。高い生け垣に囲まれてて中は見えないけど、中学校と隣接してるってわけ」
僕が説明すると、柘榴塚さんの丸っこい瞳がキラリと鋭く光った。
「……なるほど。市議さんの家、か」
彼女は顎に手を当て、脳内で情報を組み立てているようだった。
「つまり、銀ヒョロを目撃したのは私が断ってからすぐということか。時間で言うと、放課後が始まって少し経ったくらい。目撃場所は雑木林の辺り……」
彼女の視線が、虚空に地図を描くように動く。
「……口だけじゃ位置関係が曖昧だね。地図があったらいいんだけど」
「ちょっと待ちなさい。描くわ」
間門部長は席を立つと、棚から新しいノートを取り出してきた。でも机の上にはまだ例の巨大な壁新聞が広げられたままだったから、新井さんが気を利かせてくるくると丸めて片してくれたんだけど。
「よいしょ、と」
筒状になった新聞紙を固定するため、彼女は手元にあったビニール紐を手に取って、ぐるぐるまとめあげた。余ってだらんと垂れた紐の端を巻いてある紐に巻き込む、綺麗な束縛だった。そんな複雑な工程を経ているのにもかかわらず、ビニール紐はピンと張っていて美しい。
「あ。新井さん、お茶とか習ってるご兄弟がいるの?」
唐突な柘榴塚さんの問いかけに、新井さんは丸めた壁新聞を壁際の段ボールに刺しながらきょとんと首を傾げる。
「え、なんでですか?」
「……違うならいいや」
柘榴塚さんは思いのほかすぐに引き下がった
思わず、僕と新井さんは顔を見合わせてしまった。
今の質問、なんだったんだ? お茶? 茶道のこと? なんでそんなことを、今……?
「さて、と。じゃあ、ちょっと待っててね……」
僕たちの不思議な空気になど気付かない部長が、空いた大机に大学ノートを広げ、シャーペンを走らせ始めている。
学校の地図を描いているのだ。
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