第47話 名探偵を餌で釣る
柘榴塚さんが食い入るように見つめるなか、間門部長が愛おしげに白い箱を撫でた。
「これがなんだか分かるみたいね、名探偵さん?」
「ワードプロセッサー専用機……通称ワープロ!」
抑えているのに感極まったような、震える声が応じる。まるで宝石でも見るかのようにその白いの箱を見つめている柘榴塚さん。……煌めく丸っこい君の瞳の方が、キラキラの宝石みたいだけどね。
って、ワープロ? それって、PCが出回る前にあった、日本語専用の入力と印刷を一緒にやる機会……だよね?
「ご名答。しかもこれ、名機『CARAVAN28DFXI』よ」
部長の細い指先が、色あせた白い箱の側面を愛おしげにカチャリと開けた。それはなんと、側面蓋になっていたキーボードだった。なかには液晶画面らしき板が、起動を待つ眠り姫のように鎮座している。
「へー、面白い形状ですね」
僕の間の抜けた感想をよそに、部長はまるで手品師のように両手を広げた。
「ロッカーの奥で眠っていたのを発見したのよ。通電確認済み、モノクロ液晶モニターにドット欠けなし。バブル期の技術の粋を集めた、徒花のようなオーパーツがいまここに蘇ったわ」
「完品……!」
うわ言のように呟く彼女の熱視線が、キーボードの配列を、画面の縁を、そして背面の排気口をねめ回す。
「現在に続くノートPCとはまったく異なる機構。独自の進化を遂げたガラパゴスの極致! 独自のキー配列、プリンター一体型のギミック、しかも熱転写プリンター……進化の枝の終着点!」
まるでお祭りの屋台で素敵なリンゴ飴でも見つけた小学生みたいに可愛いんだけどもさ。
でも水を差すようで悪いんだけど、それってただの古いガラクタだよね?
「これが報酬ってわけよ。脅迫状の差出人を見つけてくれたら、これを思う存分解体できるわよ? 失われたロストテクノロジーの内部構造、そのネジの一本一本まで、あなたのお気に召すままに」
「そっ、そんなものでつられる私では……っ」
ああ、もう。柘榴塚さんたら、未練たらしく胸を押さえてよろめいちゃって。
そこへ、間門部長がトドメの一撃を放った。
どこから取り出したのか、シャキン! と効果音がしそうな勢いで、扇状にカードらしきものを広げたのだ。それは、青や黒の、10センチ四方の薄いプラスチック板で――。
「なんと今なら使用済み3.5インチフロッピーディスク、一箱分をお付けしましょう! もちろん読み取り確認済みよ」
「――ッ!!」
ガタン。
僕の耳に、明確な幻聴が聞こえた。柘榴塚さんの理性のブレーカーが、盛大に落ちた音だ。
「磁気ディスクに書き込みするやつだ……! シャッターのバネの感触……書き込み禁止ノッチ……!」
彼女の瞳から理性の光が消え、代わりに欲望という名の予備電源が赤々と灯る。
……落ちたな。完全に。
呆れる僕の横で、柘榴塚さんはキリリと表情を引き締めた。口元がだらしなく緩みそうになるのを、鋼の意思で無理やり一直線に結んでいるのが見て取れる。
「ふぅ。……そこまで言うのなら、仕方がありません。困っている人を助けるのも、探偵の務めです」
「交渉成立ね」
「はい、致し方なく」
ああもう、柘榴塚さん、チョロすぎるよ!
僕が薄目で見守る中、柘榴塚さんと間門部長は、まるで歴史的な条約でも結ぶかのように大机の上でガッチリと、そして熱く握手を交わしていた。
「……まあ、そういうことだから。いいよね、水間くん?」
思い出したように柘榴塚さんが僕に同意を求めてくる。
その顔は、「NO」と言ったら助手の契約を解除しかねない必死さと、新しいオモチャを目の前にした無垢な焦りで輝いていた。
こんな顔をされたら、僕が断れるわけがないじゃないか。
「柘榴塚さんがいいんなら、それでいいよ」
僕は苦笑交じりに頷いた。
そのチョロさに少しは危機感を覚えてほしいけれど、まあ、楽しそうだからいいか。
それに、なんだかんだいって、欲望に忠実な僕の名探偵さんは、とっても可愛いんだよな。
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