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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第3章】図書室の王子様

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第41話 消毒キス!?

 あれは、小学6年生の放課後のことだった。


 教室はすでに夕陽で真っ赤になっていた。僕の班がクラスで発表をすることになって、その資料用に壁新聞みたいなものを作っていたんだと記憶している。クラスメイトたちはすでに帰ってしまっていて、残っているのは僕と菜月の二人だけだった。

 その当時僕と菜月は付き合っていて、いつも一緒に帰っていた。だから片方が教室に残るときにはもう片方も残って待っている、というのが日常だったんだ。


 夢中で作業していたら、下校のチャイムが鳴った。それで『ごめんね、もうこんな時間になっちゃった。帰ろうか』と僕が顔をあげたら……。


 菜月の顔が、急に接近して。次の瞬間、柔らかなものが僕の頬に触れて……。

 一瞬、なにをされたのか分からなかった。でも、これって女の子にキスされたんだ! と理解したとき。


 頭に一気に血液が登って、僕は鼻血を吹き出して倒れてしまった。そして次に気がついたら、保健室で寝ていた。

 それからしばらくは、菜月に滅茶苦茶からかわれたんだよね。


『保健室で寝てる直翔は顔が真っ赤ですっごく可愛かったよー!』と……。


「……漫画か。いや今時漫画でもやるかってくらいの反応だな」


 呆れたような柘榴塚さんの声を聞きながら、僕は指先で鼻を押さえつつ自分の頬を包み込んだ。

 もう、ほんと、お湯が沸かせるくらい熱くなってる。


「ぼ……僕の鼻粘膜は薄いんだよ、きっと……」


「モテる男は辛いね」


 感情をあまり乗せない彼女の声が、鋭い槍になってグサっと胸に突き刺さる。


「うぅ……」


 うめき声を上げながら、僕はただひたすら頭から湯気を出していた。

 だから言いたくなかったんだよー!


 付き合ってた女の子からキスされて鼻血出して倒れるってなんだよ。ていうか保健室まで僕のこと担いでいってくれた菜月も菜月だよね……火事場の馬鹿力ってやつだよねぇ!

 小6だから仕方なかったのか? そうだよ、きっと仕方ないんだよ。すべては小6だったからなんだよ!


「……ほっぺにキス、してあげようか?」


 なんて目の前の柘榴塚さんまで顔を真っ赤にしていってくるのだから、小六のときの失態は中二の今に至るまで呪いとして僕を縛り……って、え!?


 僕の聞き違いかな?


「なんて?」


「いや、ほら。消毒っていうか、なんていうか……」


 彼女の顔が、下から上に向かってぼっぼっと真っ赤になっていって、それで視線を逸らして……。


 柘榴塚さんは白い手袋の左手部分を、リッパーを使って綺麗に解体しはじめた。縫製のラインに沿って縫い目の線をプツリプツリと切っていく。その手捌きはまさに職人のようで、それを見ていた僕はちょっと落ち着いてき……はしなかった。落ち着けるかッ!


 柘榴塚さんがキスしてくれるって!? そ、それは。どうなの。……うん、でもこのチャンスを逃す手はないんじゃないでしょうか。


 顔を覆っていた手を下ろし、僕はできるだけ顔を真面目に引き締めた。……とはいえ、柘榴塚さんを見る勇気はなかったから、手元をじっと見下ろしていたけど。


「お、お願い、しようかな。こんどは鼻血出さないようにするから……」


「冗談だよ、冗談」


 どこか上滑りするような高い声で否定しながら、彼女はリッパーで白綿手袋の親指の布を切り離した。


「あ……あはは、そ、そうだよね!」


 なんだ、冗談か。

 なんか……僕、本気にしちゃったよ。なにやってんだ僕!

 あー、もう。柘榴塚さんもこういう冗談いうんだね。くそう。あはははは。って、もう笑って誤魔化すしかないや。


 彼女の指先が、次の縫い目を探し出して糸をプツンと断ち切った。


 僕も早く作業にとりかかろっと!


 ……なんて、気を取り直して編み物セットをトートバッグから取り出す僕だけど、しばらくドキドキが収まらなかった。


 いろいろと、気になることはあるけれど。

 僕と柘榴塚さんの距離は、確実に近づいていたんだ。



お読みいただきありがとうございます!

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