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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第1章】パンクババアの解

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第4話 怪異の調査

 ということで、柘榴塚さんはそれから一週間をかけて準備をした。


 そのあいだ、僕は彼女にいわれて何か余計なことをするのを禁じられていた。夏高くんを刺激しないために接触を禁じられたってことだ。


 でもお兄さんの陽大くんに聞いたんだけど、その間にも夏高くんは塾に行こうとして自転車で出発し、タイヤをパンクさせて泣きながら帰ってきたということだった。


 パンクババアが本当にいるにせよ、これがまったくの嘘にせよ……一連の事件は、明らかに問題だ。


 ちゃんと守ってあげないといけないって柘榴塚さんにはいったんだけど、彼女はなかなか行動を起こそうとしなかった。それどころか丸っこい瞳で僕を睨んで「邪魔になることはしないで」っていうんだ。


 だから仕方なく、僕は僕でパンクババアについて調べを進めた。これなら夏高くんと接触するわけじゃないからね。

 といってもYouTubeで動画を見まくっただけだけど。それで分かったんだけど、パンクババアには悲しい過去があったんだ。


 なんでも、パンクババアは生前はカートを押してお散歩するのが好きな、普通のお婆さんだったということだ。

 ところが孫の誕生日にケーキを買った帰りにいつも通りにカートを押して歩いていたら、よそ見した自転車にぶつかられて吹っ飛ばされて、そのときちょうど来た自動車にカートごと轢かれてグチャグチャになっちゃったんだって……。

 それ以来お婆さんはパンクババアとなって、そのときに着ていたワンピースのまま、その時間帯に……つまり宵の口~深夜にかけて現れるようになったそうだ。


 自分を跳ね飛ばした自転車を、滅茶苦茶恨んでいるんだ。

 どうせ恨むなら自分を直接殺した自動車を恨むべきだ――なんて理屈は怪異には通用しないだろう。なにせパンクババアは人間じゃないからね。人間の理屈は人間にのみ通用するんだ。


 あと、パンクババアが押しているカートは正式名称を『高齢者用手押し車』とか『シルバーカー』とかいうらしい。


 そんなこんなである程度調べがまとまって、それを柘榴塚さんに家庭科クラブのときに報告したら、丸っこい目をぱちくりさせて僕を感心したように見てきた。


「よくそんなこと調べられたね」


「簡単だよ。YouTubeに解説動画がいっぱい上がってるからね」


 胸を張って答える僕。

 とはいえ、これはいうほど簡単じゃなかった。見たのは動画だけじゃないんだ。コメントだって100や200じゃきかないくらいチェックした。ちなみに、実際に白髪のお婆さんがカートを押しているのを見かけたという報告もちらほらあった。でも『タイヤを交換して』と取り引きされたという報告はなかったから、それは単に本当に、ただただ道を歩いていた普通のお婆さんだったんだろうけどね。


「いや、そうじゃなくて。ちゃんと調べてるんだなぁって……」


「へへん。僕は友達を助けるためには頑張るんだよ。だから柘榴塚さんもなにかあったら僕に相談して――」


「パンクババアについて、もっと詳しく聞かせてくれる?」


「うん!」


 

 明らかに彼女は僕の話を遮ったんだけど、僕はウキウキして頷いていた。柘榴塚さんの役に立てることが嬉しかったんだ。


「お勧めは『怪異解説・うちそとチャンネル』っていうところのパンクババア解説だよ。二人組で掛け合いながら解説してくれるから分かりやすいんだ」


「なるほど、『うちそとチャンネル』ね……」


 そのとき彼女の丸っこい瞳に鋭い光が宿ったんだけど、僕は気付けなかった。


 そしてその数日後、ついに僕はその言葉を告げられた。


「明日の夜、弟さんと一緒に塾に行ってくれる?」


 って。

 柘榴塚さんの準備が整ったんだ。


「パンクババアを解体して、事件を終わらせる。あなたと私の仲もここまでだ」


 自信たっぷりに力強く宣言した、丸っこい目を精一杯鋭くさせた小柄な女の子。ぼさぼさのショートヘアが、ものすごく頼もしくみえたけど、その言葉は寂しいものだった。



* * * *



 翌日の宵の口――。


 僕は奥野家の前で夏高(なつたか)くんと落ち合った。

 辺りははもうすぐにでも暗さに飲まれようとしていた。薄い夜空に空に浮かんだ満月が見事に冴え冴えと白く輝いて、アスファルトに引かれた白い線を銀色に浮かび上がらせている。


「……なにを考えてるんですか?」


 自転車用ヘルメットを被った小学六年生の夏高くんが、自転車のハンドルを握りながら怯えた顔で僕を見上げている。


「いつもと違う道で行くって……」


 僕はといえば、薄手のパーカーを着込んで自転車のヘルメットに手を掛けていた。


『パンクババアを解体して、事件を終わらせる。あなたと私の仲もここまでだ』


 なんていってたくせに、柘榴塚さんは別行動である。


 作戦があるんだろう。でも、僕が一緒だとパンクババアは出ないんだけどな……?


 夏高くんは不安そうだったけど、僕は怖いというよりワクワクしていた。なんだか武者震いしてしまう。柘榴塚さんは何をするつもりなんだろう。


 ぎゅっと自転車のハンドルを握りしめると、僕は夏高くんの肩を軽くポンと叩いた。


「事件を終わらせるんだ」


 すると彼はビクッと肩を跳ねさせた。あれ、強く叩きすぎたかな?


「じっ、事件を終わらせる? でも水間先輩と一緒に行くとパンクババアは出ないじゃないですか。それじゃ、事件を終わらせるもなにもないんじゃ……」


「まぁ、それはそれってことで」


 あまり詳しくはいえない……というか、そもそも僕、今夜のことあんまり知らされてないんだよね。

 それに『私のことは夏高くんには秘密にしておいて』って柘榴塚さん本人から念を押されてるから、彼女のことも言えないし。


「ほら、あんまり塾を休みすぎると授業についていけなくなるよ? ここらで決着つけないといけないのは間違いない」


「授業にはついていけてます。家で塾の分も勉強してるから」


「夏高くん、青蘭常磐に行くんでしょ?」


 隣の市にある名門中学校の名を出すと、彼は視線をすっと下げた。


「……そう、です、けど」


 青蘭常磐(せいらんときわ)学園中等部――それは奇しくも柘榴塚さんの前の学校だ――に行くために塾に行って勉強していると、夏高くんのお母さんから聞かされていた。

 夏高くんは小学6年生だ。その四月といえば、もうラストスパートは始まっている。だからそんなに休み続けるわけにもいかないんだって。


「夏高くん、勉強できそうだら大丈夫だとは思うけど。でも塾には行っといたほうがいいよ。ほら、やっぱり塾って受験の専門的なノウハウとかあるからさ。餅は餅屋ってね」


 中学受験かぁ、なんて思いながら言う。僕はしたことないけど大変なんだろうな。

 でもちょっと気になるところもあった。夏高くん、あんまり受験に乗り気に見えないんだ。そりゃ受験に乗り気な小学生なんてそうそういないだろうけど、でも度を超えてるっていうか。

 パンクババアのせい……かな?


「おっと。あんまり話し込んでると塾が始まっちゃうね。じゃ、行こうか」


「……はい」


 夏高くんが自転車のサドルにまたがったのを見て、僕もサドルにまたがった。

 さて、出発だ。

 僕たちは夜のなかに漕ぎ出した。


 白い月は、僕になにを見せてくれるんだろうか。



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