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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第3章】図書室の王子様

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第35話 謎の答えはすぐそこに

 見ると、階段の上から、手摺りに手を置いて降りてくる柘榴塚さんの姿があった。スカートから伸びるすらりとした足が、なんだか妙に目を引いた。


「家庭科クラブにレギュラーという制度があるのか?」


 川中先生のいぶかしげな声に、内心で僕も同意していた。当然の疑問だと思う。僕も知りたい、家庭科クラブのレギュラーってなに? そんなの聞いたことないんだけど。


 柘榴塚さんはトントン、と靴音を鳴らしながら階段を降りてくると、川中先生の前でぴたりと止り、真面目くさった顔で告げた。


「しかも、彼はエース級です」


「ちなみになんて競技なんだ?」


 柘榴塚さんは肩をすくめた。


「お喋りです」


「ふはは」


 冗談だと思ったのだろう――そして実際冗談だ、なんだよお喋り競技って――川中先生は破顔し、僕の肩に軽く手を置いた。


「なるほどな。水間ならレギュラー入り間違いなしだ。しかし水間、運動も大事だぞ? 特に男子中学生はな。転部は大歓迎だ、気が向いたら武道館に来てくれ。柔道部の門戸はいつでも開いているぞ!」


 体格を確かめるような手つきでポンポンと背中まで叩かれて、そのまま川中先生は立ち去っていった。

 ……はぁ、ようやく行ってくれた。


「ありがと、柘榴塚さん」


「どういたしまして」


 で。えぇっと、僕はなにをしていたんだっけ……って、そうだ。

 図書室の王子様を追ってきたんだった。

 と思って周囲を確かめてみたんだけど、もうあの王子様の姿はなかった。


「あの人なら、先生があなたにロックオンしている最中に一礼してさっさと逃げてったよ」


 柘榴塚さんが教えてくれた。逃げられたかぁ、残念。


「えー。なんだ、もう。川中先生の邪魔が入らなければ捕まえられたのに」


 はー、と息を吐きながら、僕はその場にしゃがみ込んだ。

 どうせなら柘榴塚さんも、僕なんか放っといて王子様を追ってくれたらよかったのにー。


「ああもう。菜月になんて言ったらいいんだ。逃げられちゃいました! ってだけの話じゃないよ、これ。こんな逃亡劇をしちゃったんだからもう警戒して図書室にも来なくなるだろうし……」


 そんなことになったら菜月の恋を邪魔したカドで、絶対に『あのこと』を柘榴塚さんにバラされる!


 そうなったら僕、柘榴塚さんに……あんな恥ずかしいことを知られてしまったら、もうどういう顔して柘榴塚さんと友達付き合いすればいいのか分からないよ……。

 そんな情けない気持ちの僕の肩に、柘榴塚さんの影がかかった。


「いや」


 と、声が頭上から聞こえる。


「彼は必ず来るよ」


 意外なほどしっかりしたその声に、僕は。


「え……?」


 ぽかんと、彼女を見上げて聞き返していた。

 彼女は自分の膝に手をついて、僕のことをじっと見下ろしていた。

 まるで見透かされるみたいな、吸い込まれるような感覚になる柘榴塚さんの丸っこい思慮深い瞳……。


「で、でもこんなことがあったんだよ? いくら菜月に気があるからって、普通はもう来なくなるんじゃないの?」


「それでも来る。また、藤元さんの担当日にね」


 断言して、得意げに微笑む柘榴塚さん。

 彼が、また来る? どれだけ菜月に執着しているっていうんだよ、王子様は。

 それとも――別の理由があるのか?


 僕は反射的に、すぐ隣りにある膝小僧に縋り付きたくなった。相変わらず小柄で小学生みたいな彼女なのに、なんなんだ、この頼もしさは。


「もしかして、謎を『解体』できたの?」


「まあね」


 といって彼女は僕に手を差し出してきた。僕はその手を頼りに起き上がる。――小柄な女の子の手は、やっぱり小さかった。


「このまま手を引くのも元カノさんに悪いし、ネジの一本、糸の一本まで綺麗にリビルドしてあげようじゃないか」


 そういう彼女の瞳は生気を得たように爛々と輝いていて……。

 僕の心臓がきゅっとする。ああ――こういう時の柘榴塚さんは、怖いけどすごく格好良いんだ。さすが、僕の名探偵さん。




お読みいただきありがとうございます!

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