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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第3章】図書室の王子様

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第34話 逃げる王子様

 僕が大テーブルで座り直して様子を窺っていたら、『図書室の王子様』は本棚のなかに消えていった。


 戻ってくるときには、彼は一冊の冊子を手にしていた。本屋さんに流通している雑誌というよりは、どこかの会報誌みたいな、そんな雰囲気の活字の表紙の本だった。しかも結構古そうな……。


 王子様は冊子を持ったまま、僕たちの方には来ないで図書室の奥の一人用の机に向かった。そして、一番隅っこの机に座る。

 そこで彼は本を開いて、熱心に読み始めて――。


 ぽんぽん、と柘榴塚さんが僕の腕を叩いた。見ていないようで王子様に注目していたその目が、くりりと僕に向けられる。そして、こくんと小さく頷いたんだ。


 よしっ、許可が下りた。

 僕はスマホをポケットに滑らせながら、椅子を引いて立ち上がった。

 柘榴塚さんも僕に続いて立ち上がる。小柄な彼女の頭頂部は僕の目の前にあって、小学生みたいなその顔は慎重この上なくて、なんだかやっぱり柘榴塚さんて可愛いな、と思った。


 僕たちは王子様のいる図書室の隅に歩いて行く。

 彼が座っているのは、普通の机と同じタイプの、一人用閲覧席だ。読んでいる表紙がハッキリと見える。『南ヶ丘中学校文芸部 言の葉通信』。文芸部の文集だ。

 よしよし、情報ゲット。

 これを切っ掛けに話を広げていけば楽勝だよ。

 言葉遣いにちょっと悩んだけど、なんか年上っぽいから敬語を使うことにして……。


 彼の横に来た僕は、「ちょっといいですか?」と笑顔で声を掛けた。

 王子様は弾かれたように僕を見上げた。白目と黒目のコントラストがやけに綺麗な、澄んだ瞳だ。でも、その目はさっと怯えの色を帯びて……。


「こんにちは。文集読んでるんですね。文芸部に興味があるんですか?」


 緊張を解くためににこやかに挨拶する。だけど彼はいきなり読んでいた冊子を乱暴に机に伏すと、同時にバッと立ち上がって、何も言わずに、僕らを肩で割って――駆けだした!


「え?」


 そんな逃げることってある? ちょっと話しかけたくらいじゃないか。

 転入して来たての柘榴塚さんだってもうちょっと落ち着いてたぞ? まあ彼女の場合、こっちがなにもしてないのにウーウー威嚇してくる猫みたいだったけど……。


 一瞬、呆気にとられた僕だけど、すぐにハッと我に返った。

 ここで逃したら、もう二度と会えないんじゃないか――そんな予感があったんだ。

 だって、彼との接点はこの図書室だけなんだからね。

 そこで逃げるってことは、つまり警戒してもうここには来ないってことだろうし。ってことは、ここで逃がしたら菜月に頼まれた王子様の正体を暴くことはできなくなるわけで、ということは……菜月に『あのこと』をバラされてしまう!!


「待ってっ!」


 僕は慌てて追いかけることにした。

 でも……王子様の足は、思ったより速いんだ!


 図書室を出たときにはもう姿が見えなくて。でもバタバタバタバタって凄い足音がして、それで階段を降りていることが分かった。図書室は特別棟の二階にあるから、もしかしなくても一階の渡り廊下を目指して進んでるってことになる。


「待ってよ! ちょっと話があるだけだってば!」


 僕も階段を降りながら必死に呼びかけたけど、ダンッという大きな着地音がしてから小走りで階段を降りていくことになる。

 と、いうのも。


「こら!」


 と、男の先生の声が響いたからだった。

 階段の下から聞こえてきたから、僕に声を掛けたんじゃない。つまり、これは――。


「なにやってるんだ君! 危ないだろうがッ!」


 踊り場から下の様子を覗き見る、そこにいたのは。ああ、やっぱり……。体育の川中先生だった。

 柔道部の顧問をしている、いつも黒ジャージを着ているかなりガッシリとした体格の中年の先生で、密かについたあだ名が堅筋肉(カタキンニク)だ。

 その川中先生の前に、背の高い王子様が背中を丸めて縮こまっていた。


「まったく、廊下を走るならまだしも……って廊下も走っちゃいけないんだからな! 君……んんん?」


 僕は一歩一歩、確かめるようにして階段を降りていく。僕まで注意されたら、助けるに助けられないからね……。


「見かけない顔だな。何年何組だ?」


「先生!」


 一階に降りきった僕は、ぱっと口を挟んだ。二人とも僕を見る。


「なにかあったんですか?」


「ああ、水間か。こいつが階段を……見た感じ五段は飛ばして降りてきてな。注意してたんだ」


 うわぁ、それは流石に危ない。王子様って見かけによらずアスレチックな動きをするんだな。


「あは、すみません」


 と僕は頭の後ろに手をやって、へへへっと苦笑いしてみせた。


「僕たち、どっちが先に階段を降りきれるかって競争をしてたんです」


「なにー?」


 川中先生が眉を思いっきりしかめる。……川中先生は顔の迫力があるから、これだけで結構恐い。けど僕は知ってる、先生が恐いのは外見だけで、実はそんなに怒らないってことを。というか、家庭科クラブが調理実習をしているとどこからともなく現れてはお相伴にあずかるちゃっかり先生でもあったりするんだ。


「いやぁ、君ってほんとに逃げ足が速いんだから。全然叶わないや」


 このこのっ、と肘でつつくと、王子様は顔を俯かせて「悪い……」と小声で謝っている。

 川中先生は特大のため息をつくと、僕の肩をガシッと掴んだ。


「水間、そんなにパワーを余らせているなら柔道部に来なさい。家庭科クラブじゃ発散できるものもできないだろう?」


「え?」


「思春期の鬱憤は、やはり身体を動かすことでしか昇華できないんだ。柔道はいいぞ、全身を使ったダイナミックな押さえ込みとか!」


「い、いえ、あの、僕は家庭科クラブがいいので……」


 料理を作ったり、手芸をしたり、女子とお喋りするのは性に合っているし、なにより――。ちらり、と僕の頭に小学生みたいな女の子の顔がよぎる。家庭科クラブには柘榴塚さんが入ってきてくれたんだ。柘榴塚さんと並んでチクチク針を動かすのは楽しいし(といっても彼女は分解するのが主だった活動内容だけど)、まだ調理実習はしてないけど、柘榴塚さんと一緒にご飯を作るのだってすごく楽しいはずだ。


 でも、柘榴塚さんがいるから家庭科クラブがいいんです……だなんて、恥ずかしくて川中先生には言えないよ!


「家庭科クラブを否定はしないが、階段をどっちが早く降りられるか競争なんかするより柔道部で汗を流した方が有意義だぞ!」


 うわ、正論だ!


「ええっと……」


 どうやって勧誘をかわそう……なんて困っていた僕の耳に届いたのは。


「水間くんはうちのクラブのレギュラーなんで」


 階段上から廊下に響く、柘榴塚さんの冷静な声だった。




お読みいただきありがとうございます!

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