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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第3章】図書室の王子様

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第32話 元カノの忠告

「えっとなにか分解できるものを報酬に用意してほしいんだ」


 柘榴塚さんが口を開く前に、僕は急いでそれだけを言い切った。それから、ややゆっくり付け加える。


「たとえばラジコンカーとか、素人が刺したんじゃない刺繍とか」


「分解できるもの……?」


 菜月は首を傾げて宙を睨んでいたけど、すぐにパッと顔を明るくした。


「あ、それならうってつけのがある。この前大きな音の鳴る目覚まし時計を買ったんだけど、思ったよりずいぶん音が大きくって、かえって使えないんだよね。それなりにいいお値段したからもったいなくて捨てられないし。それでいい?」


 セーターの袖口をもみもみしていた柘榴塚さんが、その手を止めてふぅっと息を吐いた。


「……分かった。手を打とう」


 柘榴塚さん! ありがとう……こんどなんか奢るよ!


「やった! ありがと、えーっと、名前は……?」


「柘榴塚くれろ」


「珍しい名前だね。ざっくーって呼んでいい?」


「……他の呼び方でお願い」


「じゃあ、くれろだからくーちゃん!」


「まあ、それなら……」


「決まりね。くーちゃん、よろしく!」


 と話がまとまったところで、菜月は家庭科室の壁時計を見上げた。


「おっと、あたしそろそろ行かなきゃ。今日はごうひょうがあるんだ」


「何それ?」


 僕が聞くと、菜月は得意げにふふんと鼻を鳴らした。


有永昌義(ありながまさよし)って、知ってる?」


「……ミステリー作家の?」


 僕は問い返す。突然、なにを言い出すんだ菜月は。

 それはそうとして、この前柘榴塚さんに誘われた映画――『嘘の話の続きをしよう』の原作者のミステリー作家が、有永昌義だったはずだ。それくらいの知識はある。


「その様子じゃ、有永先生がウチの卒業生だってことも知らないわね」


「えっ、そうなの」


 意外な有名人が卒業生にいるものだなぁ。


「しかもね、有永先生はなんと文芸部のOBなのよ。今日はその有永先生もやったっていう伝統のごうひょう会なんだ。みんなの自作の詩とか小説の感想をいいあって、批評し合うの。大先輩が揉まれたそのごうひょう会で、今日はあたしの作品も取り上げられるってわけ。こりゃ休めないでしょ!」


 ――菜月の言葉が終わったと同時に、ハッと小さく息を呑む音がした。柘榴塚さんだ。


「それ、『合評(がっぴょう)』では?」


「漢字は同じでしょ?」


「……同じ……か……?」


 腕を組んでしまう柘榴塚さんに構わず、椅子から腰を上げながら、それでも菜月は思いついたようにこういった。


「あ、くーちゃん、元カノとして一つだけ忠告しとくわ」


 小首を傾げる柘榴塚さんに、菜月はウインクしてみせる。


「直翔はやめといたほうがいいぞ。直翔ってたしかにいい奴なんだけど、気が多いから彼氏にすると疲れるんだよね。すぐ浮気するってことね」


「え……?」


「ちょっ菜月! なにいってるの!?」


 目をぱちくりさせる柘榴塚さんを横目で見ながら、僕は慌てて菜月に抗議する。

 だけど、菜月は僕なんか構いもせずに手を振った。


「じゃ!」


 そういってさっさと――それこそ逃げるように背を向けて、家庭科室を出て行ってしまう。


「……あの、柘榴塚さん?」


 僕はおそるおそる、柘榴塚さんに声を掛けた。


「僕、浮気とかしたことないからね? まったく、なにいってるんだろね菜月は!」


 可愛い女の子のことを可愛いっていったら菜月が怒ったことはあったけど、それくらいだ。菜月はそれすら『浮気!』て騒いでたけど……。可愛い女の子のことを可愛いっていわなくてどうするんだよ。それを浮気っていうんなら、アイドルのファンになったらどうなるっていうんだ。それも浮気になるの? そんなの、アイドルって仕事の営業妨害にならない?


 って、どうして僕、柘榴塚さんにこんな言い訳してるんだろ。

 いや待って、これは人のこと浮気魔みたいにいう菜月への反発なんだからな。ほんとに、人聞きが悪いったら!


「……なにしたの、藤元さんに」


 小さな、でもよく通る声で、ぽそりと聞いてくる柘榴塚さん。


「なに、って?」


「なんか弱味を握られてるみたいだけど」


「っ」


 落ち着いてきていた心拍数が、また急激に上がった。

 僕はウサギのぬいぐるみの耳をぴょこぴょこさせながら、彼女に無理矢理な笑顔を向ける。


「大したことじゃないんだ。ほんと、ほんと! あはは……」


 最後は笑って誤魔化した。

 あんなの柘榴塚さんに知られるわけにはいかないっ!

 柘榴塚さんはしばらく僕の顔をじっと見ていた。……呆れたような視線で、だ。

 やがて、ふぅ、と小さくため息をついた。


「図書委員の放課後の詳しいスケジュールが知りたい。明日、藤元さんの教室に詳しいことを聞きに行こう」


 渋々、といった感じだけど。柘榴塚さん、本格的に動いてくれるんだ……!


「うぅっ、ありがとう柘榴塚さん」


「元カノに……」


 彼女は視線を逸らして、ぽそりと呟く。


「新しい彼氏を斡旋するのは急務な気がするから」


「斡旋?」


「これ以上、好き勝手させるわけにはいかない……」


 なんか、柘榴塚さんは拗ねたみたいに視線を逸らしているし、頬も赤くなっているけど。

 え? これって、どういうことだ?

 ウサギの耳を、今の心情――すなわち『?』を現すように、ぴょこんと揃えて斜めにしてみたりする僕だった。




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