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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第3章】図書室の王子様

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第31話 弱味を握られた直翔

 すると、菜月は途端に目を輝かせ始めたんだ。


「でしょー? あたしもそう思うんだ! でもさ、それなら図書委員の仕事が終わるまで待っててくれてもいいじゃない? そしたらもうこっちは恋に落ちる準備は万端なんだからさ! ほんと、王子様ったら恥ずかしがりなんだからっ」


 両手を組み合わせて、面白いくらい身体をくねっとさせる菜月。照れてる、というジェスチャーだ。

 ……普段柘榴塚さんと友だちづきあいをしていると、菜月のこういう態度が余計わざとらしく演技掛かって見える。

 ほんと、短期間とはいえこの人とよく付き合えてたなぁ、僕……。


「とりあえず、いまはその男子に夢中なんだね」


 ため息交じりにそういった僕の肩を、菜月はカラカラと笑いながら叩いた。


「あら、毒のある言い方するじゃない。あたしはそうでもないけど、直翔はあたしに未練たっぷりって感じ?」


「その男子の行く末が可哀想だなって思っただけだよ」


 まあ少なくとも菜月は黙ってれば美少女ではあるけど。中身がこれじゃあね……。

 付き合ったら、こんなはずじゃなかった! ってなるのが目に見えてて、王子様が哀れだ。


「それに、そういうことなら元カレの僕じゃなくて誰か他の人に頼んだ方がいいんじゃないの? 菜月は友達多いんだしさ」


 元カレが出て行くのは新しい彼氏に悪いよね……と思いながら提案するが、菜月はぶんぶんと勢いよく首を振ったのだった。


「冗談じゃないわよ! せっかくあたしに気がある王子様なんだから、あたしだけのモノにしとかないと」


 焦りの表情を浮かべつつ、ぐっ、と拳を握りしめる菜月。


「共通のアイドルにされたらおちおち付き合うこともできなくなっちゃうでしょ!」


 ……なんだか、女子には女子の複雑な事情があるようだ。


「ねぇ、こんなこと頼めるのは直翔だけなんだよ。お願い! 元カノのよしみでさぁー」


「うーん……」


 僕は腕を組んでうなり声をあげてしまった。

 いやね、本当は助けてあげたいんだよ。でも関わると、またやいのやいのうるさくなるから……。って、なんかもうすでに巻き込まれてる気はするけどさ。

 でもここでこれを食い止めないと、柘榴塚さんに迷惑掛かっちゃうからね。


「あら、いいのぉ?」


 わざとらしく――菜月の言動は全て芝居がかっているように見えるけど、それでも一際くねっと肩を前のめりにさせて――菜月は僕を上目遣いで見て、そして。


「まさか忘れてないよね? あ・の・こ・と」


 トントン、と自分の頬を指先で叩きながら、照れたように目を細める彼女を見て――。


 不意に、小6の、放課後の教室を思い出した。菜月と二人っきりになった、あの赤みがかった空気を。


 一瞬で、僕の身体は氷風呂に入ったんじゃないかと思うくらい奥底からサーッと冷めた。

 それから、


「う、うわぁぁぁぁぁっ!?」


 思わず口から悲鳴が漏れた。

 家庭科室にいた家庭科クラブ員たちの視線が僕に突き刺さったけど、そんなのに構っている場合じゃない。

 思い出してしまったんだ。


 なんだかもう、身体が勝手に熱くなっていく。小6の時のあの失態がドッドッと押し寄せてきて、変な汗までかいてきた。

 僕は思わず顔を掌で覆った。……鼻の先まで熱くなっていた。


 あれは忘れられるような記憶じゃないから、もしかしなくても脳みそが勝手に蓋をしていたんだろう。

 頭から湯気が出そうなくらい真っ赤になった僕の前で、菜月がどっしりとした凄みのある顔で笑った。


「あんなこと今カノにバラされたくないでしょ? だったらあたしのお願い、聞いてね」


 柘榴塚さんは今カノじゃないけどね……、とそんなことをいっている場合でもない。


「……水間くん、大丈夫?」


 突然の叫びに面食らったらしい柘榴塚さんがすっごく心配そうな顔で僕を見る。ああ、やっぱり柘榴塚さんだよ。ちゃんと僕のこと心配してくれるんだぁ……。


「う、うん……大丈夫……」


「『あのこと』って、なに?」


 うわああああやっぱりそれ気になるよね! でも柘榴塚さんに知られるわけにはいかない……! 他の誰より柘榴塚さんにだけはぁ!

 僕は慌てて手を下ろすと、彼女と距離を取るようにその両手を前に着きだしてうわごとのように口走っていた。


「なんでもない、なんでもないよ。本当になんでもないんだ」


 否定すればするほどますます怪しくなっていくっていうのは分かってるんだけど、否定せずにはいられない。

 ああっもうっ、心拍数が上がりすぎて倒れそうだよ。

 少し落ち着かなきゃ!


 僕はテーブルの上から白ウサギのぬいぐるみを手に取ると、耳をぺこぺこといじりながら、意識してすーっと息を肺いっぱいに吸い込んで、そしてゆっくりと吐いた。

 ……うん、ちょっと落ち着いた。


 それから、まだ鼓動と一緒に明滅する視界で菜月を見る。


「……分かった、菜月。依頼を受ける」


 逃げても無駄だってことは悟ったからね。


「やった!」


 椅子に座った彼女だけど、ウサギみたいに、ぴょん、と上半身だけ跳びはねさせた。

 けどね、と僕は釘を刺す。


「それなりの報酬は払ってもらうよ。僕の名探偵さんはタダじゃ動かないから」


「お金取るの?」


「お金じゃないよ。ね、柘榴塚さん」


 僕が視線を向けると、柘榴塚さんはダサセーターの袖口を手で揉みながら、何か言いたそうな目で僕を見ていた。

 彼女の声が聞こえてきそうだ。『一人でやれば?』と。


 やばっ、反論される前に柘榴塚さんがやる気になるような報酬を提示してもらわなくっちゃ。柘榴塚さんは現金だから、魅力的な報酬があれば依頼を受けるはず。

 え、僕一人で謎を解け、って? 残念ながら、僕の脳みそはそういう方向にはできてないんだ!



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