第30話 元カノ襲来
それでも変に誤解されたくない僕は、柘榴塚さんに向けて弁明を開始した。
「小六のときにちょっと付き合ったことがあるだけだよ。しかも僕が振られたんだ」
「今カノさん、探偵ってほんと?」
喰い気味に僕の話をぶった切って、菜月が身を乗り出す。
ちょっとちょっと、人の話を聞けってば。
「柘榴塚さんとは付き合ってないって――」
「ビックリ! 探偵なんて、今の私にピッタリじゃん。これぞ直翔の繋いだ縁だね!」
だから人の話を……って、いまの菜月にピッタリって、なに?
菜月は椅子を引いて座った。ああ、長居するつもりなんだぁ……と思ったのもつかの間、彼女は柘榴塚さんに向かってパシンと手を合わせたんだ。
「お願い、名探偵様! 私に力を貸して。図書室に来る王子様の正体を暴いてください!」
僕と柘榴塚さんは、思わず目を見合わせた。
互いの表情に書いてあるのはこうだ。「突然なんだ?」と……。
というわけで。
ウサギのぬいぐるみの黒い瞳が見つめるなかで、菜月は。
「あたし、図書委員してるんだけどさ」
と、頼んでもいないのに事情を語り始めたのだった。
それは、自分が図書室のカウンターにいる日に限って、見ず知らずのイケメンがやってくるようになった、という話だった。
「なんだかミステリアスで大人っぽくて、あたしすぐに恋に落ちちゃったのよ!」
興奮気味に話す菜月だが、すぐにシュンとする。
「でも、本を借りないから名前も分からないのよね」
「ネームプレートは?」
柘榴塚さんがすかさず聞くけど、菜月は残念そうに首を振った。
「外してる。だから何年生なのかも分からないの」
僕は自然と相づちを打っていた。
「まあ、帰りのHR終わったら外すのが普通だからね」
僕や柘榴塚さんも、もちろん菜月も、いまはネームプレートを外している。
「あたしが図書委員の仕事を始めて少し経ってから図書室に入ってきて、隅っこの机で読んでるの。でもあたしが仕事を終わらせる前にいなくなっちゃうんだ。このすれ違い、たまんないでしょ。まさにレア王子様!」
「格好いい男子ならもう何人か有名なのがいるから、そっち方面から調べてみては?」
柘榴塚さんの冷静な言葉に、僕も「そうだねぇ」と頷いてみせる。
僕の脳内にも、南中で噂のイケメンの名前が何名か浮かんでいた。菜月のいうイケメンも、そのなかの誰かなんだろう。柘榴塚さんが出動するほどの謎でもないよ、これは。
「それがさぁ」
はぁ、とため息をつく菜月。……ていうか馴染むの早いなあ菜月は。人嫌い柘榴塚さん相手でも関係なくグイグイ行くんだもんな。って、それは僕も人のこといえないか。
「あたしも調べてみたんだよ、ぜひともお近づきになりたいからね。でも、南中プリンシズのなかにはいないし……。それだけじゃない、プリンシズ以外の生徒にも見かけないの。放課後のあの時間、あそこでしか見かけないスーパーレア男子なんだよねぇ」
「なにその南中プリンシズって。僕の知らないチームが存在してるの?」
「女子のなかでは有名だよ。南中のイケメンの皆様をアイドルみたいにグループにして、勝手にメンバーカラーとか作って推してんの。楽しいよ」
「楽しいんだ……」
「恋は楽しくないとね」
「図書室の仕事をちょっと休憩して、その男子に直接聞けばいいだけじゃないの?」
僕と菜月の馬鹿話に口を挟んだ柘榴塚さんが、ごもっともなことを言ったが、菜月はやっぱり首を振ったのだった。
「それができたら苦労しないわよ。あたし、これでも文芸部員でさ。文芸部はそういうとこ厳しいんだよ。図書委員の仕事をちょっとでもサボったらチクられちゃうの。横の繋がりも縦の繋がりも厳しくってねぇ……」
「じゃあ、あなたの担当日以外の日に図書室で待ち伏せしておけばいいんじゃないの?」
「ところがどっこい、あたしの担当日にしか来ないのよね」
菜月の担当日にしか来ない王子様ねぇ……。
ん? ってことは。
僕のなかに閃くものがあった。
「それって、菜月に会うためにわざわざ菜月の担当日に来てるってことじゃないか?」
だって、そうとしか考えられないよ。菜月の担当日にだけ来るなんていうのは、菜月に興味がある証拠じゃないか。
となると、遅かれ早かれ王子様は菜月にアプローチしてくるはずだ。
なんだ、やっぱり柘榴塚さんの出番もないくらい簡単な謎じゃないか。
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