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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第2章】盗まれたプレミアムソース~犯人分身味~

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第28話 本物の見分け方

 ファミレスでの事件解決会合から数日後の朝のこと。


 僕の脳内リソースは、成さんからのLINEになんて返信するかに割かれていた。


 昨夜、成さんとはLINE上で『恋人ごっこのあるある』で盛り上がったんだ。っていうのも、僕が無料公開されていた第一巻を読んで、その感想を成さんに送ったからだった。

『恋人ごっこのあるある』は映画化するだけあって、とても面白かった。基本はコメディで進んでいくんだけど、たまに泣けるシーンが入ってくるんだ。


 お勧めは第6巻で、ヒロインと相手役の男の子に危機が――おっとこの先は言えません! という内容のメッセージが寝ている間に成さんから届いてきていて、僕はその熱意にちょっと疲弊した。


 面白いは面白いんだけどそこまで熱中するほどでもなくて、お金を出してまで全15巻のコミックを揃えることもないかな……と思っていたし、映画版もそこまで追いかけようとも思えなかったんだ。


 やんわり、婉曲に、角を立てないように、それを成さんに伝えるにはどうしたらいいだろうか。

 僕はソースの方が好きです、って。


 そんなことを考えながら登校した僕は、頭を悩ませながらバッグを机に置いた。

 そこに話しかけてきたのが柘榴塚さんだった。彼女はすでに、荷物を自分の机にしまって僕の机に出張してきていた。


「水間くん。ラジコン、届いたよ」


「え、もう? 早いな。おととい出したばっかりなのに」


 ラジコン、というのは事件解決の報酬の、あのラジコンカーのことだ。

 まさか僕のお古とはいえ玩具を学校に持ってくるわけにもいかず、柘榴塚さんの住所を教えてもらって直接送ったのだ。そのときに、お互いのLINEも交換した。

 これで、なにか事件が起こったらすぐに彼女に連絡をとれるってことだ。


「さっそく分解させてもらってる」


 柘榴塚さんは嬉しそうに指をわなわなと動かした。


「いいね、あれ。なかなか凝った作りをしてる。分解のしがいがあるよ」


「それはよかった。柘榴塚さんって解体するの手芸だけじゃないんだね」


 いつも家庭科クラブでぬいぐるみを分解しているから、手芸作品の分解が専門かと思ってたんだけど……。


「こだわらないよ、それは。人が作り上げたものを解体して分析するのが好きなだけだから」


 人が作り上げたものを解体、か。

 なんだか業が深いこと言ってるなぁ。


「でも素人の下手な刺繍はいらないかな」


「もう。僕だって真剣に刺してるんだからね」


 ため息を一つついて、僕はバッグのなかの教科書を机の中に移しはじめる。


 まあ、彼女に解体されないっていうのはそこそこいいアドバンテージなのかもしれない、と思っておくか。せっかく作った刺繍が分解されちゃうのは、やっぱりもったいないからね。

 と、そこで柘榴塚さんは僕の顔をのぞき込んできた。


「……あなたは朝からなに口をへの字にしてるわけ?」


「へ?」


 僕は思わず口元に手をやる。への字になってたかな?


「いや、なんか。ずいぶん悩んでたみたいだからさ」


 さすが名探偵、鋭い観察眼だ。それか、僕が顔に出しすぎてたってことか?


「……それがさ。成さんが漫画勧めてくれるんだけど、正直、成さんほど熱中できなくて。どうしたもんかなーって」


「そんなのハッキリいえばいいじゃない。興味ないって」


「興味ないってほどではないんだよ。面白いは面白いんだ」


「気を遣うことないよ。『終生の番』はやめたんでしょ?」


 そう、終生の番はやめてもらった。


 いやね、調べたんだよ、終生の番の意味を。そしたら分かったんだけど、つまりあれって要は『結婚しましょう』っていうプロポーズの言葉だったんだ。

 そんなの、さすがに早い。あのとき柘榴塚さんが言っていたとおりに。それに、僕は成さんのことをほとんど知らないし……。


「でも友達ではあるから……」


「まずはお友達から始めましょう、ってか。ほんとに大丈夫なの?」


「大丈夫……だと思う……。ほら、別の学校っていう物理的な距離もあるし……」


 言いながら、あれ? と不思議な気がした。なんで僕は柘榴塚さんに言い訳しているんだろう。


「……まぁ、別にいいけど。八方美人も大変だね」


 と呆れたように肩をすくめる柘榴塚さんに、僕は苦笑いするしかない。

 事実だから。


 そんなやりとりをしていると……。


「水間くん! これ見てよ。ネットオークションでプレミアムソースが出てるんだけど……」


 スマホを持って話しかけてきたのは、相沢就くんだった。


「え、なになに?」


 思わず身を乗り出してしまう僕。モヤモヤした気分が一気にソース色に染まって、酸っぱさのなかにいくつもの野菜のエキスが熟成したソースの香りを嗅いだような気さえした。


 柘榴塚さんが無言で苦笑したのを目の端で捉える。


 ……まあ、いいたいことは分かる。相沢くんにはあれだけのことをされたのに、許したとはいえこんな簡単に仲良くなっていいのかって、思うよね。


 でも……。実はファミレスでの事件解決会合の夜、相沢くんがお父さんと一緒に僕の家に謝りに来たんだ。盗んだソースと菓子折を持って、きちんと頭を下げてさ。お金まで渡そうとしてきたけど、それはさすがに受け取らなかった。


 条件通り『おこのみ革命』ってソースアカウントも目の前で消してくれたし、まあ、それでケリはついたかなって。


「これは……!」


 僕は感嘆の声をあげながら、一緒に相沢くんのスマホ画面を覗いたんだけど……。


 あれ? これ……。

 相沢くんは僕の変化に気づきもせず、興奮気味に早口でまくしたてる。


「キヨミフーズの5年ものだよ。この年はトマトのデキがよくて、とくにキヨミフーズのプレミアムラインは酸味がまろやかで絶品って噂なんだ! これは手に入れとくべきじゃないか?」


「……待って。これ、運営に報告したほうがいいかも」


 僕は冷静に画面のソースを指さした。


「年代が合ってない。ラベルが貼り替えられてるんだ」


「え?」


「ほら、王冠の色が銀色だよ、これ。本物は赤いから」


 王冠は外せないけど、ラベルは貼り替えられる。そういうことだ。


 相沢くんは画面をじっと見つめて――。


「あーっ、ほんとだ!」


 叫び声を上げたので、クラスの何人かが僕たちを振り向いた。

 そんなの気にせず、僕は言葉を続ける。


「悪質だね。騙す気満々だよ。作られた年代が違うだけで同メーカーの本物ではあるのに、ラベルを変えたから『偽物』になっちゃったんだ」


「おやおや」


 呆れたように呟いて、柘榴塚さんが自分の机に戻っていく。


「ラベルを変えたら偽物、ね。象徴的じゃないか」


 その言葉が聞こえなかったふりをしながら、僕と相沢くんはこれからの動きについて話し合った。

 こんな詐欺を見つけてしまったからには、黙って見過ごすわけにはいかない。

 ネットオークション運営のお問い合わせフォームを探し出して、出品中の商品が詐欺だってことを告発するんだ。


 八方美人の鈍感系主人公だって、やるときはやるんだからね。


 ――結局。


 僕たちの告発は速やかに受理されたらしく、昼休みにネットオークションを確認すると、その偽ソースは出品削除になっていた。

 そのことに関して僕たちにお礼の連絡が来るなんてことはなかったけど、少なくとも誰かが被害に遭う前に取り締まれてよかった、と僕と相沢くんは胸をなで下ろしたのだった。


 で、結論としては。

 偽物には気をつけましょう、ってことで。




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