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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第2章】盗まれたプレミアムソース~犯人分身味~

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第27話 ソースの行方

 相沢くんは真っ赤に腫らした二重の目でちらりと僕を見てから、申し訳なさそうにまた下を向いた。


「【百年の滴】の状態は完璧です。もちろん綺麗なままお返しします。なんだったら僕のコレクションから何本か付けます――いえ、付けさせてください。これからマズい飯を食うから。そこにソースは掛けられないから……」


「……えっと」


 僕は言葉を探す。

 ソースは保存状態そのままに返してくれるという。そして、相沢くんは十分反省している……。

 ……。


 周囲に視線を逃がすと、ファミレス内はけっこう閑散としていた。夕時前のこの時間はそんなに混まないものらしい。


 みんな、謎解きをしているぼくたちなんかに構わず、緩やかに自分の時間を過ごしている。


 フォークやナイフがカチャカチャと皿と触れ合う音、ぺちゃくちゃという客たちのお喋り、狭い通路では料理を運ぶ店員さんとドリンクバーをとりに行く客が道を譲り合っていて――。


 なんだか手で触れられそうな、それは穏やかな午後だった。


 ……ねぇ。それで、いいんじゃないのかな?

 正しい罰より、これからの日常を選びたいよ。僕はそういう人間なんだ。


「僕、ちょっとソースのこと見失ってただけなのかもしれないなー」


 あ、思わず棒読みになっちゃった。でも続ける。


「いつの間にかソースが戻ってるかもしれないし。もう一回、コレクション見てみようかな。事件なんて起きてなかったんじゃないかなー」


 柘榴塚さんが横で、「はあぁぁ?」と素っ頓狂な声をあげた。


「ちょっそれ本気で言ってるの!? 3日経ったら警察に連絡するって約束したじゃないか!」


 僕は口の端をニヤリと上げた。


「反故」


 約束を反故にするのは名探偵の特権ってわけじゃないんだよ、柘榴塚さん。


「なっ……」


 言葉を失う柘榴塚さん。でも自分も約束を反故にしてきた身なんだから、僕に文句はいえないよねぇ?

 だけど目の前の双子は違う。ハッとしたように息を呑んで、顔を上げて……。


「水間くん……!」「直翔さん……!?」


 双子らしく、声が揃った。こういうところ、やっぱり双子なんだな。

 僕は、彼らに優しく微笑みかけた。


「相沢くんと――『おこのみ革命』さんとネットで話してるとき、ほんとに楽しかったんだ。ソースオタクなんてそんなにいないからさ。だから、オフ会楽しみにしてた。けど、いろいろあってソース話できなくってさ」


 結局、オフ会に来てたのはソースに興味のないお姉さんのほうだったんだから、それは当たり前の話だったんだけど……。

 でもやっぱりソース話はしたかった。


「だから、これからもソースのことで僕と盛り上がってくれるんなら……ソースも未開栓で返してくれるっていうし……」


 それに、十分反省してそうだし。


「また今度、オフ会しよ? 今度はちゃんと、君と僕でソースの話をしようよ」


 僕が笑いかけると、双子は互いの顔を見合わせてから……止めどない涙をぽろぽろと落としはじめたのだった。二人同時に。


「ぼ、僕、これからいくらでも話をします。ソースの話しでも、好きな女子の話でも、なんでも!」


「いやソースの話だけでいいけど……」


 苦笑する僕だけど、でも一つ付け足した。


「まあ、でも一つ条件があって。ネットのアカウントは消してもらいたいな。一応、ケジメってことで」


 僕、騙されたわけだしね。


「はい、いくらでも……それくらいならいくらでも、何個でもアカウント消します!」


「『おこのみ革命』のアカウントだけでいいからね?」


 わざわざ新たに作ってそれを消しそうな勢いの相沢くんに釘を刺していたら、成さんが手を祈るように組んで、涙で奥深い二重をキラキラさせて僕を見つめてきた。


「いいんですか? 本当に?」


「はい。ソースは戻ってくるんだし。成さんも、これからも友達でいてほしいです」


「っ、はい。私でよければ、終生の(つがい)でもなんでもなります!」


「? 終生の番って、なんですか?」


「はー、甘いね」


 隣で特大のため息がつかれた。


 見れば、いかにもつまらなそうに肩肘をついた柘榴塚さんが、取り分けたパフェの具をスプーンでツンツンとつついていた。お行儀が悪いぞ、柘榴塚さん?


「生クリームより甘い。もちろん甘口ソースより甘いのは確実だ。ソースだけにね! って、私としたことがうまいこと言っちゃったよ」


 え? そんな自画自賛するほどうまいかな?


 そんな彼女のうろんげな瞳が、ギロリとこちらに向けられる。


「というか、今回のことはあなたの危機感のなさが原因だからね。ネット上で知り合った人のことは安易に信じちゃいけないし、実際に会うなんてもってのほかだ。まだ中二なんだからね、私たちは。今回はこれで済んだけど、もっと酷い犯罪に巻き込まれたら私じゃどうしようもできないんだよ? あと終生の番はアウトね」


 正論パンチだ。殴られた僕はちょっと下を向いた。


「うん……それはもう、全面的に柘榴塚さんのいうとおりです。終生の番もアウト……」


 だから、終生の番ってなんなんだ?


「あ、忘れてた」


 柘榴塚さんはそう言うと、細いスプーンで僕をピッと指し示した。


「これで、事件の解体は完了とする。水間くん、報酬を忘れないように」


「うん。ところで終生の番ってなに?」


 だけど柘榴塚さんは僕の問いには答えず、皿の上の形のいい生クリームを細スプーンに載せて食べた始めた。


「早いよ、早い。早すぎるんだよ。いくらなんでも気が早い。中二だよ、私たちは」


「漫画ではそういうのもありますし。年齢は関係ないかと……!」


 反論を試みる成さんを見もせずに、柘榴塚さんは首を振った。


「現実は漫画じゃないので」


 それから柘榴塚さんは、分解したパフェをむしゃむしゃ食べ続ける。


 僕は――。


 そんな彼女から、目が離せなくて。


「なに。そんなに欲しいなら自分も頼めば?」


 じっと見られていることに勘違いした彼女にそういわれたけど、僕は微笑んで首を振ったんだ。


「ううん、ソース掛けられないからいらない」


「なにそれ」


 ムスッとする彼女の唇の端についた生クリームが、なんだか妙に美味しそうだな、なんて思ったりして。


 急に周囲のテーブルから漂ってくる美味しい料理の匂いが立体的になってきた気がする。

 なんだかお腹が減ってきたな。ああ。夕食に響くだろうけど、僕もなにか頼むかぁ。




お読みいただきありがとうございます!

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