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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第2章】盗まれたプレミアムソース~犯人分身味~

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第26話 土下座

 僕は言葉が出ないまま、相沢くんが限界まで下げたうなじを見下ろしていた。


 ていうか、いたの!? この場に!?


「私は後ろに相沢くんがいるって気付いてたよ」


 無言で目を白黒させる僕に、柘榴塚さんが、自分の席の後ろを指さしながら得意そうに言った。


「さっきドリンクとりに行くときに、あからさまに机に突っ伏して寝たふりしてたからね。私もあの席で同じことしたから分かるんだ」


 僕だって見たはずなのに。しかも相沢くん、 南ヶ丘中学校のブレザー制服着てるのに。でも僕、気付かなかったんだけど……。僕が鈍かったってこと? ジャージ着てた柘榴塚さんの時は気付いたんだけどなぁ。いやあれも成さんにいわれて気付いたんだったっけかな……。


 それはそうと、ファミレス内は、突然の土下座に息を呑んだようにピリついていた。みんな見ないようにしながら――あるいは遠慮なく見つめてくる視線もなかにはありながら――床に膝と手を突く相沢くんに、遠巻きな集中を投げかけている。


「えっと、とりあえず、土下座はやめよう?」


 僕は戸惑いながら相沢くんに声をかけた。遠くから店員さんがやってくるのが見える。


「ほら、お店の迷惑だからさ。こっちのテーブルに来ない?」


 ……というわけで、様子を窺いにやってきた店員さんにお願いして相沢くんの席をこちらに移してもらって。


 僕、柘榴塚さん。そして成さんと相沢くん、という列に別れてボックス席に座ることになった。

 林立していた10本のソースもトートバッグにしまったので、いまテーブルの上にはそれぞれのドリンクと、解体されたパフェがあるだけだった。


「柘榴塚さんのいうとおり、成は僕の、双子の姉です」


 膝の上で拳を握った相沢くんは、視線を上げずにそういった。


「両親が離婚してそれぞれに引き取られたから、苗字が違うんです……」


 俯いた顔を真正面から見ているのに……癖の強い前髪の向こうに彼のまつげが見える。長いんだ、まつげが。そこは確かに成さんと似ていた。

 そっくりだという口元は、俯いているから確認のしようがないけど。


「双子って、鏡写しみたいに、もっとそっくりなのかと思ってた……」


 僕の呟きに反応したのは柘榴塚さんだ。


「それは一卵性双生児だね。さっきも言ったけど、男女の双子は二卵性双生児になるんだよ。早い話が一緒に生まれてきた普通のきょうだいってこと」


 なんて蘊蓄を語ってくれる。そうなのか。いろいろあるんだな。

 けど、いまはそれより……。


「相沢くん。柘榴塚さんがいってたこと、聞いてたんだよね?」


 問うと、彼は顔を俯かせたままこくんと顎を引いた。


「じゃあ、柘榴塚さんがいってたことって本当なの?」


「……はい。びっくりするくらい、僕のしたことの通りです」


 ほとんど泣きそうに声を震わせながら……と思ったら紙ナプキンをとって目元に当てて本当に涙を流しはじめた彼は、掠れる声を絞るようにしながら、自分がしたことを並べていった。


「成に代理をお願いして、女装して、成と水間くんが喋っている時間を見計らって、あらかじめ調べておいた水間くんの家に行きました」


「なんでそんなことをしたの、相沢くん……」


 聞いてから、意味のない質問だ、と後悔した。

 そんなの決まってる。ソース好きなら【百年の滴】は喉から手が出るくらい欲しくて当たり前だから。


 だけど、彼の答えはちょっと違った。


「羨ましかったんです。水間くんはなんでも持ってるのに、さらに懸賞で【百年の滴】まで当たって。それに引き替え、僕は……」


 ぐすっ、と鼻をすすって、鼻下を紙ナプキンで擦る相沢くん。


「ネクラだし、友達も少ないし。仲の良い女友達と鈍感系主人公ごっこをするような楽しい日常もなく……。でも僕にはソースがあるって思ってた。なのに水間くんはそれすらも簡単に上回っていって……」


 ずっ、ずっと鼻をすする相沢くんに、隣に座った成さんが、すっと新しい紙ナプキンを滑らせた。

 それを手にとって涙を吸わせると、相沢くんは下を向いたまま声を震わせた。


「それで悶々としてたら、ある時ふっと、思いついちゃったんです。今回のトリックを。これならいけるんじゃね? って、ワクワクしました。これなら水間くんを懲らしめられる、って」


「懲らしめる……僕を?」


「鈍感系主人公のこと懲らしめてみたいって欲求が、僕のなかにずっとあったんです……」


「就!」


 成さんは声を鋭くしたかと思うと、俯いていた相沢くんの頭をむんずと掌で抑えて、更に下へ下へと落とした。


「もうっ。言い訳しないの! 就がしたことは悪いことなのよ。私も一緒に謝るから、もっと真剣に謝りなさい!」


 と言いながら成さんも頭を下げた。癖のある長い髪が、彼女の顔の前にさらさらと落ちる。


「直翔さん、ごめんなさい。私も悪いんです。私が協力しなければ実現しなかった犯罪ですから。私、就はネットで女の子のふりをしていたのかな、って思っちゃったんです」


「え?」


 なにを言い出したんだ、成さんは?


「……よくあるじゃないですか、漫画で。文通とかで女の子のふりをしてやり取りしていて、文通相手を騙しているって。でも実際会うことになって、慌てて女の子の代役を立てる……そういうシチュエーション」


「僕、そういう設定は作らなかったけど……?」


「うん、だから、全部私の早とちりだったの」


 相沢くんの呆気にとられたような声に、さらに力を入れて彼の頭を一段と下げさせる成さん。

 おしとやかそうな成さんだけど、意外と手の力はありそうだった。


「ごめんなさい。就に、もっとちゃんと確認すればよかったんです」


 そこで彼女は頭を上げると、相沢くんの頭からも手を引いて、かわりに彼の肩を掴んだ。


「就、一緒に罪を償いましょう。これから警察に行くわよ」


 ビクッと肩をふるわせて頭を上げた相沢くんは、怯えたような顔で成さんを見つめる。


「警察……!?」


 そこで僕は改めて彼の顔を見ることができたわけだけど。


 ぱっちりした二重は成さんとは違っていたけど、唇の形がそっくり同じだった。それに髪質が癖っ毛の猫っ毛なのも同じ。うん……これは確かに似ている。この二人、確かにきょうだいなんだ。


「当たり前でしょ。あなた、人様の大事なソースを盗んだのよ!」


「う……は、はい。そうだね……」


 ガクッと肩を落として、相沢くんは、こんどは自分から頭を下げた。


「すみませんでした。申し開きはしません。これから自首します」


 ……えっと。


「ソースは、開栓してないんだよね?」


 確認すると、相沢くんは喉が潰れそうなくらいに深々と頷いた。


「あんな貴重なソース、恐くて開栓できません」


「どこにあるの?」


「僕の部屋の、ソース専用冷蔵庫で保管しています」


 え、すごい。僕だってソース専用の冷蔵庫なんか持ってないのに、相沢くんは持ってるのか。これは本物だな……。もしかしたら僕以上にソースに対して本気なのかもしれない。



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