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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第2章】盗まれたプレミアムソース~犯人分身味~

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第25話 真犯人

「相沢、(しゅう)……?」


 その名を口にしながら、僕は柘榴塚さんの顔を穴が空くほど見つめた。


 柘榴塚さんは微笑みもしないが、あきらかに満足げだと分かる表情でパフェの容器に長細いスプーンを突っ込んで、ブロックになっているコーヒーゼリーの摘出に取り掛かっている。


 彼女の前にある取り皿には、すでに、チョコプレート、巻いた生クリーム、ミニチョコケーキ、ゆるい生クリーム、チョコクリームが几帳面に別けて並べられていた。


 お行儀の悪さはピカイチだ。それどころか、こんな食べ方、彼女のことを知らなければギョッとする光景だろう。彼女のことを知っていても幾分かはギョッとするくらいだから。


 僕はもう一度、その名を口の中で転がした。

 相沢就。


 ――それは、僕も知っているクラスメイトの名前だった。猫っ毛の癖っ毛で、ぱっちりした瞳が印象に残る男子である。


 彼とは特別に仲が良いというわけでもなかった。直近で話したのは確か先週のことで、つまりそれ以降話していないということでもある。

 そのとき、確か彼は僕が柘榴塚さんに映画に誘われて断ったのを見て、僕のことを『鈍感系主人公』とか言っていた……。


 つまり、彼はいまこの流れでその名前が出るか? っていうくらい関係のない人なんだ。


 でも。


 僕が呆けるのと同時に、テーブルに並んだ10本のソース林の向こうで成さんがハッと息を呑んだ。


 それが答えだった。

 成さんは、相沢就くんを知っている。


「切っ掛けは単純なものだったんだろうね」


 柘榴塚さんは皿に取り分けたコーヒーゼリーを、スプーンで一つ一つ丁寧に離しながら言う。


「水間くんが学校でスマホをいじっているときに、相沢くんは偶然、画面をのぞき込んでしまったんだろう。で、水間くんがソースアカウントを持っていることを知った。自分と同じソース好きだ! それは普通なら嬉しいことだろう、話が合うからね。だけど相沢くんはそうは思わなかった。それは、あなたが懸賞を当てていたからだよ」


 言いながら、でも彼女の目線はパフェにある。最後のブロックコーヒーゼリーを皿にすくい出しながら、柘榴塚さんは続けた。


「相沢くんは懸賞ソースが欲しくてたまらなかったのに外れた。そこに、当たったあなたを発見する。あなたのことが羨ましくてたまらない相沢くんは、正体を隠してネット上であなたに近づくことにした。『おこのみ革命』のアカウントは今年の4月後半に開設されている。あなたの事情を知ったあとに開設したってことだよ。そしてあなたのアカウントに見ず知らずの人を装って、「はじめまして」と話しかけた。そうやって、じわじわと――でも性急に、距離を詰めていった。何故か? もちろんソースをぶんどるためだ」


「でも、どうして相沢くんなの。それに相沢くんとはクラス替えで一緒になっただけだよ、どうやって僕の家の住所を……?」


「リアルで知り合いなら、やりようなんかいくらでもあるでしょ。帰り道を付けるなりなんなりすればいい。クラスメイトならそれもたやすい」


 柘榴塚さんは、次にパフェの底に詰まっているシリアルに取り掛かった。ざくっと細いスプーンを容器に突っ込むと、そっとすくって持ち上げる。水分の多い具の下にいたわりにはカラカラと乾いたシリアルが、少量ずつ取り皿に積もっていく。


「つまり、ネット上で知り合ってから水間くんの家を突き止めたんじゃなくて、あなたの住所を知ってから犯行を思いついたってことだよ」


「あ……!」


 そうか。そういうことだったのか。

 ネットでしか知らない仲のおこのみ革命さんが、どうやって僕の住所を知ったのかってずっと不思議だったけど……発想が逆だったんだ。

 僕の家の住所って、最初から知られていたんだ!


「で、代役にソースデートをさせておいて、自分はその隙に女装して水間家に行ってお目当てのソースを盗んだ。女装した意味は分かるよね? 犯行時刻に自分はあなたと会っている、っていう鉄壁のアリバイを作るためだ。あなたのお母さんを信頼させるため見せたDM画面の謎も単純。自分のスマホを見せればいいだけだからね」


 確かに筋は通る。通るけども……! 僕は最後の抵抗のようにうめき声をあげた。


「じゃあ、SNSで通話したのはなんだったの。僕、確かに成さんとビデオ通話したんだよ……!」


「そんなのアカウントとパスワードを教えればいいだけでしょ。別に、一台のスマホでしかSNSに入れないなんてことないんだから。そんなの機種変更できなくて不便だし」


「そうだけど……!」


 僕の反論は次々と論破されていく。


「相沢くんが急に出てきたのはなんでさ。いくらなんでも唐突すぎるよ」


 と、僕はそこで正面に座る成さんに目をやった。ソースの向こうにいる彼女に、そうだそうだ、と相づちを打って欲しかったのかもしれない。


 でも成さんは俯き、落とした肩で、じっとテーブルを見つめているだけだった。

 成さんが相沢くんを知っているのは、もはや自明の理だ。


 彼女と相沢くんにどんな接点があるっていうんだ……?

 小学校が一緒だった、とか? うーん、でも中学校が違うくらいなんだから学区が違うよなぁ。

 私立ならあり得るけど、成さんの着ているセーラー服は笹川市にある公立中学校のものだし……。

 引っ越しか?


 首を捻る僕に、柘榴塚さんは言う。


「まったくの唐突ってわけでもないんだよ、これが。まず、既視感があった。安川さんを初めて見たとき――あなたのスマホでだけど――どこかで見たことがあるって思った。実際に安川さんを見て、その思いはもっと強くなった」


 ああ、そういえばそんなこと言ってたな。


『どこかで会ったことある?』


 とかなんとか成さんに聞いてたっけ。


「でも思い出せなかった。安川さんの特徴のある切れ長の目にばかり注意が行っちゃって、そこばかり見てしまったから。でも、その目を隠せば――」


 彼女は自分の目の前に手を横にかざした。自分の視界から成さんの奥深い切れ長の二重を隠したのだろう。


「口元だけ見れば、相沢くんとそっくりだ。男女の双子は必ず二卵性双生児になる。普通のきょうだい程度には似るってことだ。普通のきょうだい程度には似ない、ともいえるけど」


 危うく聞き逃すところだった。


「ちょっと待って。双子!? 成さんと相沢くんが!?」


 柘榴塚さんはこくんと頷いた。


「安川さんのこと調べたんだ。そしたら、小さいころに両親が離婚して、別々に引き取られた双子の弟がいることが分かった。その人物こそが、この事件を分解するための最後のパーツだったってわけ」


「そんな……!」


「驚いてる顔してるけど、あなたは気付いて然るべきだったんだよ。なにせ、あなたは何度も何度も下の名前を口にしてるんだからね」


「……? 下の名前がなにか関係あるの?」


「思い出してごらん。安川さんと相沢くんの名前を」


 そういわれて、僕は素直に思い出す。


 安川さんは、『(なる)』。相沢くんは、『(しゅう)』。漢字一文字同士ってこと? でもそれがなんだっていうんだ。漢字一文字の名前なんてよくある。それがたまたま偶然重なったからって、なんだっていうんだ。


 ふぅ……。と、成さんが深く息を吐くのが聞こえた。


「いつバレるかと思って……恐かったです。かといって偽名を名乗るのもリスクがあるし……。この名前を付けた親を恨みました」


「え……? どういうこと……?」


「しょうがないな」


 柘榴塚さんはスマホを取り出してなにやら操作しはじめた。

 そして、すいっと僕にスマホを滑らせる。

 そこには――メモ帳アプリに書かれていたのは。


 成就


 という二つの漢字だった。


「ほら。名前からしてニコイチだ」


「――あ、『成就』。二字熟語!?」


 思わず声がひっくり返る。

 成就。ことを成し遂げる、という意味の二字熟語。

 こんな単純なことだったの!?


「双子らしい、いい名前だよね。二人で一緒に一つのことを成し遂げますようにって親の願いを感じる。まあ、それがこんな形で叶うなんて予想はしてなかっただろうけど」


「漢字一文字の名前なんて、よくある……」


 僕は掠れた声で呟いていた。


(なる)は女性の名前としておかしくないし、(しゅう)だって男性の名前としておかしくない。でも、それでも。並べたら、あからさまだ……!」


 身体の内から、熱が沸騰してきていた。ファミレス内の照明が急に明るくなったような気がして、僕は思わず天上を見上げる。白々と輝く照明が天井に並んでいるだけで、輝度は変わらなかった。そりゃそうだ、ファミレスの照明は急に明るくなったりしない。僕の感覚がおかしくなったんだ。


 でも――えぇぇぇ、そんな。


 なんで気がつかなかったんだ? 目の前にあったのに。


 その時。

 当惑する僕の視界の端っこに、突然なにかが滑り込んできた。


「すみませんでした!」


 ズザァッ! っと、僕らのテーブルの横で、床に手を付けて、額を擦りつけてきたのは。


「ほんの出来心で……! ソースには手を付けてません。お返しいたします。だから、どうか、どうか……!」


 ――相沢就くんだった。



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