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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第2章】盗まれたプレミアムソース~犯人分身味~

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第24話 本物と、偽物

 僕が手に取った小ぶりのプラスチック容器には、【二十四草ソース】という赤地に白いゴシック体が抜かれたラベルが巻かれていた。


「24種類のハーブが入っている、地方の老舗メーカーが作ったもので……」


 説明するけど、なんだか、口の中がカラカラだ。僕はグラスに入った冷たい烏龍茶に口を付けてごっくんと飲んで、口の渇きを抑えた。

 そして続ける。


「ハーブの絶妙な調合もさることながら、使われている野菜も地元のものにこだわった最高級品なんだ。それもそのはずで、このソースは地域の農業や食文化が活性化するようにっていう企業理念の元に作られた、少数ロットの限定品で――」


「もういい。要点だけいって。つまり、これがいちばん高いんだね?」


 僕の説明をばっさり切った柘榴塚さんが、取り皿により分けたアイスをスプーンですくいながら言った。……溶けちゃうから先に食べることにしたらしい。

 僕は――頷いた。


「あ……」


 呻くように呟いた成さんの顔が、真っ青になっていった。


「え……そんな……嘘……」


 僕もなんと言ったらいいのか分からない。

 あんなに信頼してたのに。ネットだけの付き合いだったとは言え――まさか。成さん、君は……。


「『おこのみ革命』なら見抜いて当然なソースの価値を、あなたは間違えた」


 柘榴塚さんの言葉に、それでも成さんは首を振った。


「ち、違います。あの、ちょっと……たまたま、知らないソースだっただけで。ソースは種類が多いんです、全種類把握するなんて無理です」


「それは違うよ、成さん。僕、おこのみ革命さんとこのソースの話をしたことあるよ」


 僕は、テーブルにソースを置きながら成さんの顔を見つめた。


「そのとき、君は確かに言ったよね。自分も【二十四草ソース】は持ってるって。しかも味を絶賛してたじゃないか。企業理念も褒めてた」


 成さんは視線を落として口を開けたり閉じたりしたけど、言葉は出てこない。


「あなたは『おこのみ革命』ではない」


 早くもアイスクリームを食べ終わった柘榴塚さんは、湯気を立てたロイヤルミルクティーをすすりながら言った。


「じゃあ誰か? 決まってる。あなたは本物の『おこのみ革命』に代役を頼まれた、ただの『安川成』だ」


「……」


 うなだれる成さん。

 追い打ちを掛けるように、柘榴塚さんはロイヤルミルクティーをもう一口飲んで続けた。


「逆だったんだよ。私たちは水間家にソースを盗みに来た方が偽物だと思っていたけど、でも本当の偽物は、水間くんとデー……オフ会をしていたほうだった」


 それからちょっと肩をすくめる。


「本当の偽物、っていうのも変な話だけどね」


 僕の頭の中で、いままでの違和感が、音を立てて正しい箇所に嵌まっていく感覚があった。


 ああ。そうだったんだ。


 なんか成さん、ネット上とは違うなって思ってたんだ。でもリアルなんてそんなもんなのかなって、自分をなんとなく納得させてしまっていた……。

 僕は……そんな予感がしていた僕は、成さんのつむじをじっと見つめながら呟いた。


「おかしいなって、思ってはいました。成さん、ソースの話をほとんどしないから。ソースより漫画の方が好きみたいだし……」


 テーブルに置いた手を、ぎゅっと握りしめる。


「どうして。どうしてこんな。騙すようなことを。でもネットでは。本物のおこのみ革命さんは……!」


 うまく、言葉が出てきてくれない。


「ごめんなさい。知らなかったんです」


 頭を下げたまま、成さんはぽつぽつと話し始めた。


「代役をしてくれっていわれて。自分じゃ都合が悪いから、って頼まれたんです。私、それで事情もよく聞かず、面白そうだからって引き受けて。あの子がこんなことを企んでいただなんて……」


「お優しいことで」


 柘榴塚さんが興味なさそうに、パフェのゆるい生クリームをスプーンで皿にすくい取り始めた。


「まあ、遊びで代役を引き受けるのもいいとは思うよ。まさかこんなこと企んでるなんて普通は思わないからね。でも犯罪の片棒を担がされたんだと分かったら、すぐに水間くんに本当のことをいってあげて欲しかったな」


「ごめんなさい。恐くて、いいだせなかったんです。私がもっと、ちゃんとしていれば。罪に向かい合う勇気があれば……」


「ソースは無事なんですか?」


 この三日間サイトを見張っていたけど、どのネットオークションにもフリマアプリにも、【百年の滴】は出品されていなかった。だから、彼女が持っているはずだ。あとは、開栓してしまったかどうかって問題になる。


 だけど、成さんはゆっくり首を振ったのだった。


「……分かりません」


「分からないって、どうして。君が僕の家から持ち去ったんだよね?」


「安川さんはソースを持ってないよ、水間くん」


 意外なことに、柘榴塚さんが成さんの肩を持った。


「安川さんは偽物だって言ったでしょうが」


 そういえば、そうか。

 成さんは偽物なんだ。僕の気をこのファミレスに引いておく役目なだけの、偽物。ならソースを持っているのは、本物の『おこのみ革命』ってことになる。


「じゃあ、本物のおこのみ革命って誰なの。代役を頼まれた、って言ってたけど……」


 言いながら、僕は矛盾に気付いていく。


「……ちょっと待って。なんで僕の家の住所を知ってたんだ、本物は。本物……本物って、誰なの――」


「それはね」


 思わずパニックになりかけた僕に、柘榴塚さんは、生クリームの次の層のクリーム――チョコクリームにスプーンを突っ込みながら――。


「相沢(しゅう)だよ」


 その名を、口にした。



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