第22話 犯人は誰だ
柘榴塚さんは、真面目な顔で一つ頷いた。
「つまり、ソースを持ってこられたらマズい、という理由があったってことだね」
「それって?」
「最初からソースを盗むためにオフ会をしようって言い出したってこと。オフ会の目的は、あなたとソースを物理的に離すことだった、というわけ」
「そんな……」
柘榴塚さんのいうとおりなのだとしたら。オフ会を楽しみにしていた僕っていったいなんだったんだ。実際、成さんとファミレスでお喋りしたの、かなり楽しかったのに……。
……って、納得しかけたけど。
「ちょっと待ってよ。成さんには無理だよ、だって僕たち一緒にいたんだよ? ここからあのファミレスまでは自転車で行って帰って30分はかかるよ」
だけど僕の疑問には答えず、柘榴塚さんはスマホを僕に返しながら質問を重ねてきた。
「ソースが盗まれたことは、SNSには投稿したの?」
「ううん。あまりにもショックでしてないよ。話題にする気分にならなくってね……」
「いい判断だ。そのまま情報は漏らさないでおいて」
「情報……?」
「犯人を泳がせておく、っていったほうがいいかな。ところで、ここの住所は安川さんには教えたの? 30分の行って帰って問題が解決したとして、住所知らないんじゃ話にならないけど」
「さすがにそこまでは教えてないよ。僕だって安川さんの家がどこにあるのか知らないし。あっ……」
僕はそこではたと気付いた。
「どうして犯人は僕の家を知ってたんだろ? 一言も教えてないのに」
「問題の把握が遅いな、水間くん。問題はもう一つある。偽おこのみ革命は、あなたのお母さんに『安川』と名乗ってる。しかもあなたの名前まで告げている。おこのみ革命・ソースレベル100ってハンドルネームじゃなくて本名を知られてる。つまり、安川さん本人か、あるいは安川さんにこのことを教えられた誰かの可能性が高いってこと。そのどちらかがあなたの住所を知っていたってことだよ」
それから、と彼女は言葉を続ける。
「本名の問題や住所の問題がパスできたとしても、まだ分からない問題がある。どうやってDM画面を入手したか、だ。これは、安川さんと偽おこのみ革命が関係なかったら、って前提の話だけど」
「そこは……ほら、サイバー犯罪だよきっと。DMやビデオ通話のやりとりを、不正アクセスで入手した第三者がいるんだよ」
柘榴塚さんは、ふぅ、と軽くため息をつきながら首を振った。
「なんだか、どこかで聞きかじった単語を一生懸命並べただけに聞こえるな」
「う……」
まさにその通りのことをバッサリと暴かれて、僕は顔が熱くなる。
ちょっと、棒読みすぎたかな。
「まあ、第三者がいることは確実だよ。あなたたちのことはずっと見張ってたから分かるんだけど、安川さんは水間くんが席を離れても、大人しくぼーっと景色を眺めているだけだった。トイレに立っても寄り道もせずにすぐに帰ってきた。スマホすら一度も触らなかった。外部の誰かに連絡をすることはしなかったってことだ。安川さんは実行犯ではないよ。誰かに犯行を頼んだ主犯である可能性はあるけど」
「そんなに僕らのことじっと見てたの?」
「……こほん」
咳払いをして誤魔化すけど、それ、肯定してるのと同じだからね?
「情報を整理しよう。知られていないはずのあなたの家に、偽おこのみ革命がやって来て、DM画面を見せて信用させて部屋に侵入し、懸賞で当たったプレミアムソースだけを選んで持ち去った。第一容疑者である本物の安川さんには私たちと共にいたという鉄壁のアリバイがあり、しかも彼女はあなたの家の住所を知らない」
そこで、柘榴塚さんの丸っこい瞳が鋭い光を帯びる。
「逆にいうと。あなたの家の住所をどういう手段かは知らないけど入手して、DM画面にアクセスできて、ソースの知識があって、おこのみ革命とソースレベル100の本名がそれぞれ安川成・水間直翔であることを知っている、アリバイのない人が犯人だ」
その条件に当てはまる人を、頭の中で検索してみる。
……思いつかない。
僕はすぐに音を上げて、腕を組んで唸った。
「そんな人、見当が付かないよ」
「そうだね。だから、私たちが知るなかで一番可能性が高いのは、『おこのみ革命』安川成本人ってことになる」
「でも成さんにはアリバイがあるんだよ? 犯行を人に頼んだとしても、僕の住所は教えてないし……」
「そこがネックになる。でもどこかに確実にいるんだ、条件を揃えている人物がね。でないとこの犯罪は成立しない」
「うーん……」
見事に堂々巡りだ。
でもそこで、僕はピンと閃いた。
「あ、もしかして成さん、実は超能力者なんじゃないかな! テレパシーで僕の頭を覗いて、僕の家がどこにあるか知ったんだ。瞬間移動じゃなくて分身したんなら、君が見張っていても盗むことはできる……」
荒唐無稽にみえるけど、これなら柘榴塚さんのあげた条件を満たせる。意外とアリなんじゃないか?
柘榴塚さんは、やれやれ、と肩をすくめた。
「冗談は性格だけにしときな」
「酷い。って、僕の性格、そんなに冗談っぽい?」
「まぁね」
それだけ答えて、彼女はしばらく無言でソースの棚を見つめた。
僕も釣られて見たけど、林立するソース瓶は、なんだかもの悲しそうに見えた。自分たちの新しいリーダーを失って意気消沈しているみたいだ。
僕も肩をすくめて、負けを認めた。
「……なんか、お手上げって感じだね」
分からない。成さんが超能力者でもないかぎり、プレミアムソース盗難は不可能犯罪ってことになる。
これじゃさすがの柘榴塚さんも、解体は難しいんじゃないかな。
靄にまかれて出発点に戻った旅人みたいに頭を捻る僕に、柘榴塚さんはさらりと答えた。
「そうでもないよ。なにがあったのかの予想はできてる」
「え!?」
僕は思わず声をあげた。
「分かるの、ここまでの情報で!?」
「ここまでの情報だからこそ分かるんだよ」
さすが僕の名探偵さんだ!
「なにがあったのか教えてよ。誰が僕のソースを盗んだの?」
僕の言葉に答えるでもなく、彼女は小学生みたいな顔でニヤリと笑ったのだった。
「今日はもう帰る。私の方で調べてみたいことがあるから。まあ警察に連絡する期限の3日めまでにはなんとかなると思うけど……駄目だった時が恐いから、ここには触らないでおいた方がいいと思うよ」
と棚に並ぶソースを指さす柘榴塚さん。
「やっぱり警察の科学捜査に勝るものはないからさ」
「うん……っ」
僕は頷きながら、自分の胸に手を置いて押さえていた。
何故だか急に胸が甘酸っぱくなって、苦しいんだ。なんだ、これ?
もしかしたら、名探偵が僕の目の前で動いていることに感動しているのかもしれない、と思った。
柘榴塚さんは僕が予想できないようなことまで事件を理解していて、最後のパーツを探そうとしているんだ。全てのパーツを揃えて、まるで100均の熊のぬいぐるみみたいに謎を解体をするために――。
僕のソースを取り戻すために、柘榴塚さんが、その明晰な脳みそを回転させてくれている。
なんか、それって、すごくありがたいよね……!
そんな僕に向かって、柘榴塚さんはあくまでも事務的に告げた。
「SNSへの投稿は控えてね。安川さん――おこのみ革命を泳がせることを徹底して。変に追い込んだりしちゃ駄目ってことだよ、安川さんはぜったいに事件に関係してるから。私を信用するんなら、協力して」
「分かった」
ああ、なんか。
――嬉しい、楽しい、頼もしい。自分の気持ちに名前を当てはめてみるけど、どれも違うような気がした。決定的なワードが……もっとビシッバシッピタッと合う言葉があるような気がするんだけど……。
「それから、ネットにソースが流れてないかどうかのチェックはしとくのをお勧めするよ。もし流れてたら運営会社にすぐに連絡することだ」
「各サイトは、もう見張ってる」
「よし、それでいい」
彼女は頷きつつ、並び立つソースの瓶に目を見つめていた。
「あと一つパーツがあれば分解できるよ、この事件」
……うん。やっぱり『頼もしい』でいいのかな、僕のこの気持ちの名前は。
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