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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第2章】盗まれたプレミアムソース~犯人分身味~

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第16話 尾行者見つかる

 いや、まさか。だってネットで顔見せあってビデオ通話までしたんだぞ。それで本人確認できたわけだし。

 成さんは、間違いなくおこのみ革命さんだ。


 ネットとリアルで人格が違うなんていうのはよく聞くことだし、こんなもんなのかな。僕が期待しすぎただけなのかもしれない。


 うん。きっとそうだ。


 それから僕は違和感に蓋をして、成さんが好きそうな話題を出すことにした。

 すなわち彼女が好きな漫画の話だ。


「『恋人ごっこのあるある』って、少女漫画原作ですけど、僕みたいな男でも楽しめます?」


「あっ、はい!」


 ソースに浸ったハンバーグを微妙な表情で切り分けていた成さんが、勢いよく返事をした。


「早乙女先生の漫画って心理描写がすごく丁寧だから、男性でもハマってるひと多いんですよ。映画になった『恋人ごっこのあるある』もいいけど、いま連載中の『竜は(つがい)を離しはしない』っていうファンタジー漫画もすっごくよくて。あぁ、単行本持ってくるんだったな。すっごくいいから、是非読んでみてください!」


 なんて二重の奥深い瞳をキラキラさせながら作品の紹介をしてくれる。


 ははは、ソースより漫画のほうが好きみたいだなぁ、これじゃ……。



* * * *



 トイレから戻ってきた成さんは、なんだか微妙な顔をしていた。


「どうしたんですか?」


「……」


 彼女は糸目を瞬かせて席に座ると、ぐっと身を乗り出して声を潜めた。


「隣の人、ちょっと変なんです」


「隣?」


「直翔さんの後ろの……」


 僕の後ろの席。振り返ってみたけど、半透明な衝立が立っていてよく見えない。


「小学生くらいの女の子なんだけど、紙ナプキンちぎりまくってテーブルの上がゴミでいっぱいなんです。それに料理も……なんていうか、すごい丁寧に分解してて……」


 ――あれ? なんかそれ、心当たりがあるな。偶然かな?


「僕もちょっと見てきます」


 飲み残したウーロン茶をぐいっと飲んで、空になったコップを持って立ち上がった。ドリンクバーに飲み物をとりに行く、というていだ。


 で、後ろの席の前を、さりげなさを装って通り過ぎようとしたんだけど――。

 その席の人は僕の視線から逃れるように、バッとテーブルに腕を伏せてそこに顔をうずめたんだ。


 成さんのいうとおり、テーブルの上にはちぎられた紙ナプキンが散乱していた。まるで雪でも降ったのかというくらい、細かく隙がなく、だ。これだけでもかなり怪しいのに、彼女の腕の向こうにあるチョコレートケーキの皿が、もう決定的だった。


 スポンジとクリームが綺麗に分解されて並べられているのはまだ分かるとして、チョコクリームに入っている刻まれた桃やいちごといったフルーツまでもが、一つ一つ丁寧に別けられて、皿の縁に、まるでパティシエが飾り付けたみたいに並べられていたんだ。


 ……こんなことする人を、僕は一人だけ知っている。

 しかも、いま顔を伏せているのと同じようなぼさぼさのショートヘアで。

 着てるのが新品らしいグレーのジャージなのは、彼女のファッションセンスを垣間見れて興味深かったけども。


「……つかぬ事をお伺いしますが、もしかして……柘榴塚さん、だよね?」


「人違いじゃないデスカネ」


 僕の問いに、弱々しい声が伏せた腕の中から上がってきたのだった。

 前に、僕のこと『演技が下手そう』とかいってたのに。自分だって下手じゃないか。……ねぇ、柘榴塚さん?


「この前オフ会のこと詳しく聞いてきたのって、柘榴塚さんも来たかったからなんだね」


「……」


 彼女は腕の中で黙り込んだ。たぶん、このまましらを切るか、それとも認めてしまうかで迷っているんだろう。

 そして、彼女が選んだのは……そのどちらでもなかった。

 柘榴塚さんは観念したように頭を上げると、眉根を寄せて苦しそうな顔をしたんだ。


「違うんだ。映画観ようと思ったんだけど上映時間に間に合わなくて、ここで時間潰してただけで……」


「心配してくれたんだね、僕のオフ会」


「……」


 彼女は頬を赤らめると、無言でこくんと頷いた。

 僕はふっと鼻から息を吐く。やっぱり。ほんと、柘榴塚さんは心配性なんだから……。


「大丈夫だよ、成さんは悪い人じゃない」


「……聞こえてたから、その辺は知ってる」


 と彼女は僕たちの席を指さしながら言った。


「いきなり下の名前を呼び合ってるのには驚いたけど」


「なんていうか、話の成り行きでね。柘榴塚さんのことも下の名前で呼ぼうか」


「いい……自分の名前、あんまり好きじゃないから」


 あ、そうなんだ。くれろって珍しいからなぁ。由来とかなんなんだろ?


「どうしたんですか?」


 と、品のある優しい声が隣の席から聞こえてきた。

 立ち上がった安川成さんが、衝立の向こうから顔を覗かせていたのだった。





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