第13話 鈍感系主人公説
柘榴塚さんがなにやら決意を込めた瞳で自分の席に戻るのを見送っていたら、それを待っていたかのようにこんどは僕の背中から男子の声が掛けられた。
「……誰、それ。彼女?」
「うわっ」
びっくりしてスマホを取り落としそうになる。慌てて握りなおしてなんとかキャッチしたけど。
僕の肩越しからスマホをのぞき込んでいたのは、相沢就くんだった。僕より背が低い、猫っ毛の癖っ毛が特徴の男子だ。
「相沢くん。これはその……友達だよ」
僕は慌ててスマホの画面を暗くすると、さっとバッグにしまいこんだ。
こういうのはあんまり人に見せるものじゃない。あ、柘榴塚さんは特別だよ。だって僕が女の子と会うことを言い当ててきたんだからね。彼女にとっては、おこのみ革命さんの写真は立派な証拠品なんだ。
でもどうしたんだろう、相沢くん。自分から話しかけてくるタイプの人じゃないんだけどな……? 柘榴塚さんといい、なんか今日は僕の常識が覆される日なのかな。
相沢くんは、呆れたようにふぅっと息を吐いた。前髪が長いのをちょっと気にしているようで、盛んに癖毛の前髪を横に撫でつけている。
「それで柘榴塚と修羅場ってたのか」
「修羅場?」
修羅場って、確か『すごく困ったことが起きて、それに対処しなくちゃいけなくなっていること』だよね。僕、別にそんな状況に陥ってはいないけど……。
「自覚無し、か」
ふぅ、と軽く息をつく相沢くん。その声の奥に、ほんのかすかに苛つきみたいなものを感じた。そしてやっぱり彼は、癖の強い前髪をさっと横に流している。
「最近、水間って柘榴塚と仲いいだろ? 柘榴塚のことは女子だって遠巻きにしてるっていうのにさ」
「まぁね。柘榴塚さんは僕の名探偵だから」
僕の返答に、それまでのにやけ顔を一変させて、相沢くんは顔色を白くした。
「……名探偵? 柘榴塚が?」
あれ? おかしいな。ここは『なにごっこ遊びしてるんだよ』って笑われるところじゃないのかな?
「名探偵ってことは、なにか事件を解決したことあるのか?」
「うん、まぁね……えっへっへ」
僕は笑って誤魔化した。パンクババア事件とその真相のことは、関係ない人にはいわないほうがいいだろうから……。
「詳しくはいえないんだけど、でも柘榴塚さんが凄いのは事実だよ。真相をバシバシ見抜いたんだから」
「そう……なのか」
「うん、格好いいよ」
彼女と指切りげんまんした感覚が、小指にいまも思い出せる。ほっそりした指と僕の指が絡んで……可愛かったなぁ、柘榴塚さん。
「あまりにも格好いいから、僕、助手にしてもらう約束をしたんだ」
探偵ごっこかよ、小学生じゃあるまいし――今度こそそう言われると思っていたのに、相沢くんが口にしたのは意外な言葉だった。
「柘榴塚のこと、好きなんだな」
「え? うん、そうだね。好きだよ」
僕は素直に頷いた。凄い人だし、格好いいし。嫌いになるところがないよね。
……いや、そりゃ確かに取っつきにくいし人との縁を平気で切ろうとするけど。そういうところも含めて『変人の名探偵』って感じがして、かえって好印象だ。
すると相沢くんは、ぱっちりした二重の瞳を半眼にして、苦笑するように小さくひとり言を呟いた。
「水間直翔、鈍感系主人公説……」
「え?」
「いや、なんでもない。水間のこと好きになった女は大変だなぁ、と思って」
それで『鈍感系主人公』か。あはは、言い得て妙だな。
「実際そうみたいだよ」
「へ?」
僕の言葉に、こんどは相沢くんがきょとんとした。僕はそんな彼に言葉を続ける。
「僕、小学生のころ頼まれて女子と付き合ったことがあるんだけど。直翔ってなに考えてるのか分かんないって言われて、振られちゃったんだ」
「……本気でモテモテなんだな、水間って」
「振られたけどね。あれ以来女子とは付き合ってないよ。そういうこと頼まれても断ってる」
なんていうか……あの経験は、苦い経験だったな。一方的に告白されて付き合ってみたらこういう結果になっちゃって。まぁ小学6年生に『好きな人と付き合う』なんてのは早かっただけかもしれないけど。
「……でもさ、案外近くにいるぞ。傷を癒やすような新しい彼女候補」
「え」
「しかも水間も満更でもなさそうなのが」
僕が満更でもない?
「それって誰のこと?」
「鈍感系主人公に付ける薬はないってことか。はぁ、分かりやすく近くにいるのになぁ……」
相沢くんがそんな意味深なことを深いため息と共に吐き出したとき、5時間目の予鈴が鳴った。
それで相沢くんは会話を切り上げるとそのまま去っていった。
その背をなんとなく目で追っていると、教卓の真ん前の席に、柘榴塚さんの華奢な背中が見えた。5時間目までほとんど時間がないというのに、文庫本を取り出して熱心に読んでいる。
……柘榴塚さんが僕を好きって、相沢くんは言いたかったのかな?
それはないない、と、僕は苦笑交じりで否定した。
彼女は僕のことを『物珍しい友達』って目で見てるんだから。数いる友達のなかで僕が物珍しいって意味じゃなくて、友達って存在自体が物珍しい、ってことね。
だから僕のこと根掘り葉掘り聞いてきたんだよ。友達が友達と遊ぶっていうのが珍しくてさ。
いや、そこはせめて『頼りになる助手』でしょ! なんて自分で自分にツッコミを入れつつ、僕はバッグからスマホを取り出した。
ロックを解除して、写真を呼び出す。同い年の二重美人――おこのみ革命さんだ。
相沢くんもこの写真を見たんだし、もしかしたらおこのみ革命さんのことを言っているのかもしれないと思ったんだ。相沢くんがいうところの『分かりやすく近くにいる』彼女候補として。
おこのみ革命さん。ネットではソース話で意気投合して盛り上がったけど……。
元カノと付き合ったときは一方的に振り回されるだけだったけど、おこのみ革命さんは、僕が自発的に好きになれるような人……なのかな。
ああ。会うのが楽しみだな!
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