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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第2章】盗まれたプレミアムソース~犯人分身味~

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第12話 彼女の眼が輝くとき

 柘榴塚さんは拗ねるみたいにして、上履きの先で床を軽く蹴った。


「……水間くん優しいし、こんな私にも話しかけてくれるくらいだもんね。彼女の一人や二人いてもおかしくない、か」


「違う違う、彼女じゃないよ」


 虚空に向かってため息をつく柘榴塚さんに、僕は笑って首を振った。

 小学生のときに頼まれて付き合ったことはあるけど……。でも少なくとも今は付き合ってる人はいない。


「ソース仲間とオフ会するだけだよ。でも女の子と一対一だからデートでしょ?」


「ソース……仲間?」


 ぱちくり、と柘榴塚さんの丸っこい瞳が瞬かれる。


「なにそれ? ソースって、食べ物に掛けるやつのこと?」


「そうだよ。言わずと知れた、いろんなものに掛けて美味しい魔法の万能調味料のことだよ。それもそのはずで、ソースの原料は野菜なんだ。野菜が合わない食べ物ってないでしょ? だから野菜を原料にしたソースもなんにでも合うってわけ」


 ということで、僕は柘榴塚さんにソースのことを説明しながら教室へと移動を開始した。トイレの前で長立ち話をしていたら、5月とはいえ足元が冷えてきてしまったんだ。


「僕、ソースが好きでさ。ソースオタクってやつ。実は僕が家庭科クラブに入ったのも自分でソースを作りたかったからなんだ。実際、去年家庭科クラブでも僕のリクエストでソースを作ったんだよ。自分で作れるなんて意外でしょ? なかなかうまくいったよ。ただ、僕としてはもうちょっと酸味が欲しかったけど」


「……その話、くだんのソース仲間とやらはいつ出てくるの」


「あ、ごめんごめん。えっとね、最近懸賞が当たったんだ。世界で10本しか作られなかった貴重なソースがね!」


 鼻息荒く自慢するけど、柘榴塚さんには響かなかったみたいで、ぽかんとした顔で僕を見返してきた。


「突然なんの話?」


「だから、懸賞でソースが当たったって話だよ。大手の老舗メーカーが創立100周年の記念として作った、創業当時の――つまり100年前と同じ材料を使って当時の製法で作り上げた、一世紀分という歴史の重みを感じるプレミアムなソース。【アメリアソース・百年の滴】っていうの。ウスターソース。あ、さらさらしてるやつね。全部で10本しか作られなかったんだ」


「すごい貴重品なんだね」


 柘榴塚さんの丸っこい瞳が鋭く光った。百年の滴の価値が分かったんだ。たいていの人はこの話をすると『たかがソースが当たったくらいでそんなにはしゃいで』みたいな顔をするのに。さすが名探偵、頭の回転が速い。


「でね、当たってすっごく嬉しくってさ。ソース瓶の写真付きでネットに上げて自慢してたら、おこのみ革命っていう人が話しかけてきてくれたんだ。おこのみ革命さんとはソースの話がものすごく盛り上がって。意気投合ってああいうこというんだなって思ったね」


 机に着いた僕は、バッグからスマホを取り出して画像アプリをタップした。そして、すいっすいっと画面をスワイプしていく。


「意外と近くに住んでるってことが分かって、じゃあ会ってみませんかって話になったんだ」


「……ネットで知り合った人と実際に会うのは危険だよ。貴重品のソース目当てで話しかけてきたってのも気になる。あなたのソースを盗もうとしてるんだ、きっと」


「そんなことないってば。柘榴塚さんは心配性だなぁ」


 というか、心配性というよりかは彼女の場合は極度の人間不信なんだけどね……。


「おこのみ革命さんは中二だよ。僕らと同い年。だから、普通に友達と会うだけだよ」


「顔が見えないからそういってるだけで、本当は30がらみの大男なんだよ。それで盗んでネットで転売しようとしてるんだ」


「ビデオ通話で何度も直接話したけど、ちゃんと綺麗な女の子だったよ。あ、これこれ」


 と、スマホ画面におこのみ革命さんから送られてきた写真を表示させて、それを柘榴塚さんに見せた。

 途端、彼女の顔がさっと蒼くなる。

 小さく、その口が動いた。


「……美人だ」


 そう、おこのみ革命さんは大人っぽい雰囲気の美人さんなんだ。


 背中に流れる柔らかそうな黒髪に、切れ長の奥深い二重。――一言でいってしまうと糸目。写真でも分かるくらいにまつげが長く、なんの加工もほどこしていないだろうに肌が透き通るように白い。自分の部屋を背景に自撮りしたその写真のなかで、安川さんは上品に微笑んでいる。


「生徒証明証も見せてもらったから、本人に間違いないよ」


「……」


 柘榴塚さんは張りついたようにじっとスマホ画面を見つめていた。


「この人と会うのか。二人っきりで」


「うん。ネットの雰囲気だと、なんとなく男かなーって思ってたんだけど、それがこんな綺麗な女の子だなんて、やっぱり分からないもんだね」


「相手が綺麗な女の子だろうと同じ学年だろうと危険は危険だよ。こういうのは詐欺って相場が決まってる。この人はソースを狙っている盗っ人だ」


「そこまでいうことないんじゃないかな」


 ここまでいわれたら、さすがの僕もムッとしてしまう。


 せっかくネットで仲良くなった同じ趣味の美人さんとオフ会するっていうのに、水を差してくるなんて……。そりゃ、柘榴塚さんと映画に行けなかったのは残念だけどさ。


 だから、スマホを持ったまま腕を組んで、目を半分閉じて柘榴塚さんを軽く睨んでやったんだ。


「おこのみ革命さんはね、【百年の滴】はオフ会に持ってこなくていいって言ってるんだよ? 瓶が割れたら大変だからって。そんな気遣いしてくれる人が盗もうとしてるわけないでしょ?」


 それでも柘榴塚さんは引かず、僕を心配そうに見上げた。


「水間くんは人を簡単に信じすぎるところがある。そこにつけ込まれてる可能性が高いって言ってるんだよ」


「もうっ、大丈夫だってば。柘榴塚さん、そんな疑ってばっかりじゃ友達増やせないよ?」


「余計なお世話だ。友達なんかいらない。友達は敵だ、絶対裏切る」


 またそんなこといって。

 ほんとに過去になにがあったんだ、この人は。友達になにをされた? 気になるけど、それを無理に聞き出したら今の関係すら切り捨てられてしまうのが目に見えているし……。


「大丈夫。僕は君を裏切らないから」


 僕としては、そう言うしかない。なんの保証もないけど、僕は……僕だけは、彼女を裏切ったりしない。


 すると、柘榴塚さんは「う」と喉になにかが詰まったような息をあげた。

 彼女は視線を外して頬を染めて、ついっと視線を窓の外に逃がした。


「……水間くんのそういうところが心配なんだよ」


 あは、照れてる照れてる。可愛いなぁ。


「まあ、私がなにをいっても聞かないってのは分かった――ん、まぁ、そうだな」


 とぶつぶつ言っていた柘榴塚さんだったけど、そこで太めの眉が何かを思いついたようにぴくんと跳ねた。丸っこい眼に黒曜石のような鋭いきらめきが宿る。なんだかいたずらを思いついた小学生みたいな顔だ。ほんと、中学二年生には見えない。


「ちなみにどこでデー……オフ会するの? 何時集合?」


「ささがわモールの映画館前で、11時集合だよ」


「映画観るの!?」


「違う違う。映画館のロビーで待ち合わせするだけ」


 僕は笑いながら否定する。


「落ち合ったらファミレスに行く予定なんだ。それでソース話に花を咲かせようってことになってる」


 柘榴塚さん、なんでこんなことを聞くんだろう。


 ……もしかしたら、僕が羨ましいのかな。柘榴塚さんは友達が僕以外いないから。友達と遊ぶってこと自体が物珍しくて、どんなものか興味が湧いたのかも……。


「なるほど。ささがわモール、映画館前。11時に集合……」


 確認するように呟く彼女の目が、何かを決意したように暗く輝くのが気になるけど。

 なんにせよ、柘榴塚さんとの映画を断ってまでオフ会するんだから。

 そのぶん、日曜日はいっぱい楽しまないとな……!



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