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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第2章】盗まれたプレミアムソース~犯人分身味~

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第11話 デートのご予定は?

 五月っていうのは短いと思う。大型連休で最初のほうが休みになるからだ。だからあっという間に終わってしまう。中学二年生ともなれば、やることもいっぱいあるしね。


 ……なんてことを友人たちと話しながら弁当を食べて、一人でトイレに立った五月中旬の昼休み。

 廊下の向こうから吹き抜ける風には、気がつけば早くも夏の気配が漂っている。


 トイレから出て教室に戻ろうとしたところで、柘榴塚さんが突然僕の前に立ちはだかった。


「今度の日曜日、映画見に行かない?」


 柘榴塚(ざくろづか)くれろ。

 新学期である四月に南ヶ丘中学校にやってきた、なんだか凄い名前の転校生。

 話しかけるなオーラを発する彼女は、この学校では少し浮いた存在で――だけど僕にとっては『パンクババア事件』で一緒に真相を解体した、唯一無二の名探偵さんだ。


 いつも通りのぼさぼさのショートヘアに丸っこい瞳の彼女は、だけど僕を見てはいなくて、自分のつま先だけをじっと見つめていた。


「え……?」


 僕は思わず反応が遅れた。彼女の言葉に面食らってしまったからだ。

 どういうことだ? 柘榴塚さんって人を遊びに誘うようなタイプじゃないと思ったんだけど……。

 僕の反応を見て、彼女は萎縮してしまったらしい。目線だけは上げて、硬直させた頬をサッと桃色に染めた。


「……ごめん、忘れて。私のような者があなたを誘うなんて間違っていた」


「違う違う、全然そういうんじゃないよ。ただ、突然だったからちょっと驚いただけで……」


 ああっもう、僕の馬鹿。せっかく勇気を持って誘ってくれた女の子に対して、なんて態度をとってしまったんだ。


 あの事件――パンクババアの騒動以来、彼女は少しずつだけど、僕に心を許してくれてきていた。それがようやく遊びに誘ってくれるまでになったんだ。そう思うと、誘われたこと自体がなんだか感慨深いのに。……僕から誘えよ! って話ではあるんだけど。

 柘榴塚さんは硬直した顔に、ほんのちょっと期待の色を浮かべた。


「じゃあ、一緒に映画行ってくれるの?」


「えーと」


 僕は逡巡するふりをしつつ、後ろ頭を掻いた。


「ごめんね。その日は、ちょっと。先約があって……」


「そうなんだ。それじゃ、しょうがないね」


 彼女は驚くほどあっさり引き下がった。


「私の映画の方はどうしても行かなきゃいけないってわけでもないし、あなたはあなたの約束を果たすべきだ」


 仕方ない、仕方ない――口でそんなふうに呟きながら頷いてはいるけど、ぼさっとした髪が湿気を帯びてしんなりと落ち着いてきているように見えた。それに、見るからにがっくりと肩を落としている。


 友達がいない子だし、勇気を振りしぼって誘ってくれたんだろうと思うと断る方も辛かった。


「ほんと、ごめんね。何か観たい映画があったの?」


「別に。『嘘の話の続きをしよう』って映画の無料鑑賞券貰ってたんだけど、そろそろ上演も終わりそうだから。行っとかなきゃもったいないかなって思っただけ」


 あぁ、そういうこと。貰った無料券を使うために僕を誘ってくれたのか。柘榴塚さんが能動的に僕を映画に誘ってくれたわけではないんだ。それはちょっと……なんていうか、残念ではあった。って、僕はなにを期待してたんだ。柘榴塚さんが映画に誘ってくれたっていう事実だけでもありがたいじゃないか!


 ところで、『嘘の話の続きをしよう』は、ずいぶん前から大ヒットしているサスペンスミステリー映画だ。小説を映画化したもので、原作小説のほうも昨今では異例なほど売れに売れていると、この前ネットニュースで見かけた。そろそろそのブームも落ち着いてきた頃合いだけど、僕はまだ未鑑賞である。ミステリーってジャンルはけっこう好きだけど、何せこの一ヶ月は忙しくて映画館に行く時間がなかったしね。


「絶対、こんど埋め合わせするよ。『嘘の続き』じゃないかもしれないけど……」


「そりゃどうも」


 それでも苦笑しながら彼女は僕を見上げた。柔らかそうな真っ赤な頬が、なんだか可愛くて、申し訳なくて――。


「……あはは。もしかして、先約って女の子とデートとか?」


 いきなり核心を突いてくる彼女に、思わずドキッと心臓が跳ねた。まるで心を読まれような気分になって、手で心臓を庇うように押さえた。


「なっ、なんで分かるの?」


「え?」


 意外そうに、呆気にとられた顔をする柘榴塚さん。


「女の子とデートするの!?」


 あれ? 一番驚いてるの、柘榴塚さんみたいだ。自分の推理が当たったのが意外だったのかな。


「そうだよ? それをズバッと当てるなんて、さすが柘榴塚さんだね」


「あなたの顔に、そう書いてあったから……なんて……」


 あさっての方向を向いてそんなことを呟く彼女だけど、声のトーンが弱々しい。




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