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解体探偵の日常推理 ~「話しかけるな」と言った解体癖持ち天才少女が、僕を助手にしてデレ散らかすまで~  作者: 卯月八花
【第1章】パンクババアの解

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第1話 この謎を解いたら名探偵!

 中学生二年生になってまで、こんなことをいうのもなんだけど。

 近ごろ小学生の間でもちきりの都市伝説があるらしい。

 ……って、友達に教えてもらうまで知らなかったんだけどね。


「パンクババアって知ってるか?」


 1時間目の休み時間にそう言ってきたのは、奥野陽大(ようだい)くんだった。


 スポーツしてますといわんばかりに引き締まった日に焼けた長身を、少しくたびれた紺色のブレザーに包み込んだ野球部員だ。丸坊主なのがいかにもという感じ。だけど運動部らしい明快さはなりを潜めていた。眉間には深い皺が刻まれているし、視線は不安そうに揺れている。


 よく人に頼られる僕は、ピンときた。これは人が本気で困っているときの顔だって。

 あ、僕は水間直翔(みずまなおと)。で、ここは南ヶ丘中学校、2年3組の教室ね。


「パンクババア? なにそれ」


「YouTubeから流行りだした都市伝説でさ……」


 僕が水を向けると彼は神妙な顔で説明を始めた。


 パンクババアっていうのは、YouTubeの子供向け動画で流行りだした都市伝説だそうだ。

 夜に自転車に乗っているとカートを押したお婆さんが呼び止めてきて、「カートのタイヤが壊れてしまったの。タイヤを交換してくれない?」と言ってくる。で、それに応じると乗ってる自転車のタイヤがパンクしてしまう。引き替えにお婆さんのカートのタイヤは不思議なことに直ってしまう――。


「そんなの初めて聞いたよ。でもパンクさせてくるだけならそんなに大したことないね。断っちゃえばいいんじゃない?」


 パンクババアは、迷惑なだけでそんなに危険ではない。都市伝説としては生ぬるい方だ。都市伝説といえば、命を取られたり、異世界に連れ去られたりするのが圧倒的に多いから。


 だけど、奥野くんはため息交じりに首を振った。


「断ったら呪いで殺されるんだと」


「うわ。けっこう殺意マシマシなんだね、パンクババアって」


「そのパンクババアに……」


 奥野くんはそこでいっそう声を潜めた。手が所在なさげに坊主頭を撫でまわす。


「俺の弟が、会ったんだ」


 ――弟くんが、流行りの都市伝説に遭遇した?


 思わず瞬きを忘れて、日に焼けた野球部員らしい顔を見つめる僕。彼は後頭部をさすりながらバツが悪そうに身体を揺らした。


「いや、俺もさ、最初はそんなバカなって思ったんだよ。都市伝説なんて本当なわけないだろ。けど弟は実際にパンクした自転車で、泣きながら帰ってきたらしい……俺はそのとき野球部の練習で家にいなかったけど……」


 彼はとても真剣で、冗談を言っているようには見えない。弟くんのことを信じているんだ。


「弟くんは大丈夫だったの?」


「ああ。命に別状はない。ピンピンしてるよ。でもその日は母さんも心配して塾を休ませた……あ、塾に行くときにパンクババアに遭遇したらしくて」


 ふぅ、と奥野くんはため息をついた。身体の大きな彼なのに、背を丸めて縮こまった彼は、なんだか小さい。


「で、それだけならいいんだけど、それから怖がって塾に行かなくなっちゃってさ……」


 奥野くんはそこで話を切ると目をギュッと瞑って、勢いよく上半身を45度倒したのだった。うわぁ、野球部仕込みのお辞儀だ。


「水間、頼む。弟を助けてやってくれ。いや弟だけじゃない、我が奥野家の危機なんだ。俺の母さんってそこそこ名の知れた刺繍作家なんだけど、弟のことが心配でうまく集中できなくて、指に針を刺しまくって作品が血だらけになって商売あがったりなんだよ。父さんは出張中でいないし、俺は野球部で忙しいし……」


 まくし立てるように一気にいう彼に、僕はにっこりしてみせた。


 胸に拳を当て、ゆっくりと頷く。


「顔を上げてよ、奥野くん。分かった。僕でよければ、力になるよ」


 我ながらものすごい安請け合いだ。こんなだから『困ったときの水間頼み』なんて言われるんだ――でも僕は、その評判がそんなに嫌いじゃない。友達を助けるって良い気分だしね。


「ホントか。ありがとう水間! 恩に着る!」


 奥野くんは上半身を元に戻すと、ホッとしたような笑顔で僕の上腕をパンパンと叩いてくる。


「ほんとにありがとう。この恩は必ず返させてもらう!」


「あはは、気が早いなぁ。まだなにもしてないよ?」


 それにしても、真正面から見る短く刈り揃えた髪はいがぐりみたいだったな。そんなことを考えていたら――彼がこちらに向けた天頂部が惜しくなって、いたずら心がむくむくと頭をもたげてきたのだった。


「あ、一つ条件があるんだけど。いい?」


「なんだ?」


 なにを言い出されるのか不安になったのだろう。急に声を潜めた奥野くんに、僕は笑いながら告げた。


「頭を撫でさせてほしいな」


「? なんだ、それ」


「いやほら、手触りよさそうだし」


「……ほれ」


 多くを聞かず、機敏に身を倒して頭を突き出してくる奥野くん。

 覚悟は決まってるってことか。


 僕は「じゃ、遠慮なく」と言って、彼の頭に触れた。


 じょりじょり、じょりじょり。短い髪の感触が手のひら全体を刺激してくる。なんだか上質なタワシでも撫でてるみたいで気持ちがいい。


「あ、やっぱり。いい手触りだぁ」


 僕は気の済むまで彼の頭の、生えそろった短い毛を堪能する。

 奥野くんはされるがままにじょりじょりされていた。


 やがて頭を奥野くんが顔を上げて、不思議そうにこっちを見下ろしてきた。


「水間は変わってるな。こんなんでいいのか?」


「野球部員の頭を触れる機会なんてそうそうないからね。僕は満足したし、奥野くんは弟くんを助けられてハッピーだし。Win-Winってやつだよ」


「そういうことになる、のか……?」


 首を傾げる奥野くんの、見上げるほど高い位置にある頭にもう一度手を伸ばしたら、彼は振り払おうともせずに神妙な顔で撫でられていた。それがなんだかおかしくて、僕は声をたててしばらく笑った。


 都市伝説を調べる、か。

 胸の奥の光が炭酸みたいにシュワシュワと弾ける感覚がある。教室の窓から入ってくる風まで、僕の前途を祝福するかのように柔らかくカーテンを揺らしている。

 中学二年生になったばっかりだけど、なんだか急に人生が開けたような気がした。


 ふふふ。

 この問題を解いたら名探偵って名乗っちゃおうかな。


 ……だけど。

 僕のこの野望は結局叶わなくて、小学生みたいな可愛い女子の登場を待つことになるんだけどね。




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