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第7話 高い場所の掃除は気を付けよう

 翌日。午前の光が差し込む館の一室。

 マルタは椅子に乗り、背伸びをして棚の上を拭いていた。

 深いブラウンの髪が揺れ、光を受けてほのかに赤みを帯びる。


 埃アレルギーのマルタは、徹底して掃除を行う。

 おかげで館の中は見違えるほど綺麗になった。

 だが、綺麗になれば今度は些細な部分にも目が行ってしまう――。


 届きにくいので手を抜いてしまったいた部分が目立ち、マルタは必死に腕を伸ばす。


「あと少し……」

 指先が布切れを伸ばしたその瞬間――。


「きゃっ……!」


 ふわりと視界が揺れた。


 バランスを崩してしまった、そう思った瞬間、腰を強く支える感触を覚える。

 がっしりとした腕に抱きとめられ、背中に熱が広がった。


 鼻先が触れそうなほど近い距離。

 ヴィスタルの淡い金の髪が、わずかに頬を掠めた。


「……怪我をするところだった」

 低く落ち着いた声が耳元で響き、マルタの鼓膜を震わせる。


 息を詰めたまま、マルタは動けなかった。

 ヴィスタルの瞳が真っ直ぐに彼女を捉えて離さない。

 その深い蒼色に吸い込まれそうになり、胸がドクンと大きく跳ねる。


 風が吹き込み、マルタの髪が頬にかかる。

 ヴィスタルは無意識に指先でそれを払った。

 耳の後ろをかすめる仕草に、マルタの全身がびくりと震える。


「……っ」

 熱が頬から首筋に広がっていく。


 彼の指が離れるのは一瞬だった。

 けれど、その一瞬に時間が伸びてしまったかのように、胸の奥が甘く痺れる。


 気づけば、まだ腰は支えられたまま。

 離れようと思えば出来るのに、ヴィスタルはそのまま彼女を見つめていた。


(どうして……こんなに胸が高鳴るんだ)


 心の奥で呟いたヴィスタルの瞳に、初めて揺らぎが宿る。


 マルタは慌てて身を離す。

「し、失礼しましたっ……!」

 顔を真っ赤にして視線を落とす彼女の姿に、ヴィスタルの胸の熱は、消えるどころかさらに強まっていった。

 

「あまり無茶はするなよ。怪我でもされては困る」

「も、申し訳ありません……」

 マルタは深々と頭を下げる。


「……それも、いい」


 頭を上げたマルタは小首を傾げた。


「そんなに謝らなくてもいい。届きにくいところがあれば、今度から教えてくれ。拭き掃除くらいなら、俺でも出来る」

 ヴィスタルは照れくさそうに視線を逸らした。


「ヴィスタル伯爵……」


 やはりこの人は冷徹なんかじゃない。

 温かくて優しくて、少しドジで――。


 マルタの心が熱を帯びていく。

 魔力がない自分は家事や雑務しか出来ない。


 だけど……

 もっと彼の力になりたい。


 以前に比べて、街の住民たちがヴィスタルに抵抗を示すことは少なくなった。だが、未だ彼を恐れている人は少なくない。

 ――私に誤解をとくことが出来れば……。



 差し込む光がヴィスタルの金色の髪を輝かせる。

 マルタはそれを見詰めながら、内心で小さな決意をした。


 

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