第13話 ヴィスタルの誓い
戦いの余韻がまだ森を覆っていた。
焦げた木の匂いと、白い靄のような冷気が入り混じり、荒れ果てた大地には魔力の衝突の爪痕が刻まれている。
ヴィスタルは荒い息を吐きながら、震えるマルタへと歩み寄った。
彼女の首筋に赤黒く光る刻印が浮かび上がっている。
それは、未だにカインの魔力が支配を続けている証だった。
「……痛むか」
低く問う声に、マルタは小さく首を振った。
だがその肩は震えていて、強がりにしか見えない。
ヴィスタルはそっと彼女の肩に手を置き、もう片方の手を首筋へと伸ばした。
指先が触れる瞬間、マルタの全身がビクリと震える。
「落ち着け。……怖がらなくていい」
彼は静かに呟き、指先から氷の魔力を流し込む。
冷たいはずの力が、不思議と心地よい温もりを帯びてマルタを包み込む。
「これは兄上の魔法だ。だが……俺が必ず解く」
赤黒く光っていた刻印が、徐々に淡く、淡く溶けていく。
やがて光は完全に消え、残ったのはヴィスタルの手の温もりだけだった。
「……終わった」
安堵の息を吐いたヴィスタルの瞳は、今まで見たことのないほど優しい色を宿していた。
ヴィスタルはそのままマルタの髪を、彼女の耳後ろへと撫でつける。
マルタは呆然と彼を見上げる。
刻印が消えてもなお、彼は手を放そうとはしない。
――どうして胸がこんなにも熱いのか。
涙が溢れそうになる。
「もう二度と、刻印などつけさせない」
ヴィスタルは低く囁き、震える彼女の手をそっと握った。
「……俺が守る」
その言葉は、森に響く風よりも強く、そして確かな誓いとなった。




