最終話 二人は仲直りしましたとさ
ダーナテスカ伯爵夫人とフランシアから、今回の騒動の原因から経緯まで説明を受けたベレンガリオは、その日のうちにダーナテスカ伯爵邸を発って、馬を駆り一刻も早く帰郷しなければと必死でした。
今回の『呪い』に関するおおよその事情は理解できました。しかし、未だ腑に落ちないこともあります。
とにかく、ベレンガリオはこう思うのです。
(今すぐにでも、ジョヴァンナと話をしなければ。いや、ジョヴァンナの話を聞かなければ。初めからそうすればよかっただけなのに……とにかく、まずは元凶を叩かないと)
今回の騒動を解決する道筋は、ベレンガリオの中ではもうついているので、あとはベレンガリオがどう振る舞うか、という問題だけなのです。
金の指輪を嵌めたベレンガリオは一路、北へ。翌日の昼前には、グレーゼ侯爵邸に辿り着いていました。
☆
厩舎前の馬丁に馬を預け、ベレンガリオはエントランスへ走ります。
ジョヴァンナはどこにいるのか尋ねようとして使用人を探しますが、やけに人けがありません。連絡を入れていないので出迎えはないとしても、閑散としています。
様子のおかしさに首を傾げながら、ベレンガリオはふと、女性たちの声が風に乗って耳に届きました。屋敷の本館と別棟の間にある庭、すなわちジョヴァンナが走り込みをしていた場所からです。
ということは、ジョヴァンナもきっとそこにいるに違いありません。
一目散に駆け出したベレンガリオは、愛する妻の名前を叫びます。
「ジョヴァンナ!」
ベレンガリオがエントランスから屋敷本館を抜け、庭に飛び出すと——。
そこには、不思議な光景が広がっていました。
「そのまま足を伸ばして〜……はい、頭のほうへぐいっと曲げて、ゆっくり下ろしてください」
「ぬううう〜……みぎゃ!」
ベンチに仰向けになって、繰り返し揃えた足を精一杯上へと上げては悲鳴を上げるジョヴァンナ。
その横でトレーナー役のメイドたちが応援しています。
老執事長ドナートとシェフはガーデンテーブルをいくつか出して、ここにいる使用人全員分の昼食を用意していました。
見渡せば、いつの間にか庭の小道はジョヴァンナのために走りやすいよう石畳を外して芝生を植えられ、庭全体に樹木を増やして木陰が作られていました。一部は屋根を拵え、絨毯が敷かれた休憩所もあります。
グレーゼ侯爵邸の庭は、すっかりジョヴァンナ専用トレーニング場となっていました。おそらく、老執事長ドナートの計らいでしょう。
薄いクッションを敷いたベンチで、足上げ腹筋というとても貴族の淑女がやる種目ではないトレーニングに励むジョヴァンナは、ゼエゼエと息切れしながらお腹を押さえていました。
「これきついです、腹筋が激痛です」
「我慢してください。死にはしません」
「うぅ……」
諦めそうになるジョヴァンナへ、メイドから厳しい指導が飛びます。励まされてまたプルプル痙攣する足を上げ、苦しそうに足を下ろす、その繰り返しです。
見慣れたはずの実家の庭がとんでもない光景です。しかし、よく見れば花壇の片隅に見覚えのある人物が倒れていました。
正確には、縄でぐるぐる巻きにされ、芋虫のようになった叔父、セネラ子爵の姿を目の当たりにしたベレンガリオは、開いた口が塞がりません。いえ、どのみち捕縛しようと思っていましたから、ちょうどよかったのですが。
ふん縛られたセネラ子爵は、ベレンガリオと目が合うとにこやかに——『呪い』の元凶であるにもかかわらず——挨拶をしました。
「やあ、ベレンガリオ」
「叔父う、え……?」
「ゆえあってみっともない姿で失礼するよ」
「みっともないというか、簀巻きというか」
どう考えてもセネラ子爵はグレーゼ侯爵家の人々の手で捕縛されていますが、ベレンガリオには経緯がさっぱり分かりません。
そこへ、老執事長ドナートが主人の出迎えにやってきました。
「お帰りなさいませ、坊っちゃま」
「え? ベレンガリオ様!?」
ジョヴァンナもベレンガリオの帰宅に気付き、慌てて起き上がっていました。
ベレンガリオが何かを口にする前に、老執事長ドナートとジョヴァンナが話しはじめます。特に、ジョヴァンナはひどく憤慨していました。
「今からそこのセネラ子爵をサンドバッグに、奥様のダイエットの一環としてボクササイズをやろうとしていたところです、はい」
「は? ……は?」
「ひどいことをしたので、私がその罰を命じました!」
ジョヴァンナはプンスカと可愛らしく怒っています。相当おかんむりのようですが、ここまで怒ったジョヴァンナを見るのは、ベレンガリオも初めてです。
「とりあえずボクササイズまでに時間がかかるので、もう少々お待ちください。そろそろ足の筋肉を鍛えましょう。しっかり大地を踏み締めて殴れるように」
「はい〜……」
どうやら、ジョヴァンナはダイエットの前に、セネラ子爵を殴るという目的を果たそうとトレーニングをしているようです。穏やかで虫も殺せない彼女に、セネラ子爵は一体全体何をしたというのか。
すると、その本人が会話に加わってきました。
「ひどいとは心外だな。ちょっと毒を盛っただけなのに」
「まさか、ジョヴァンナに?」
「私とシェフが阻止しました。そのあと、領内でベレンガリオ様の悪評を流そうとなさっておいででしたので、領兵たちに捕まえさせました」
「逃げようとしたんだがねぇ、ワイン畑でタコ殴りにされたよ」
「???」
ベレンガリオはわけが分かりません。
状況を整理しましょう。
まず、セネラ子爵が『魔女集会』という組織を通じてベレンガリオへ呪いをかけ、それをジョヴァンナが身代わりとして受けたため太ってしまいました。つまり、そこで簀巻きにされているセネラ子爵は、今回の騒動の元凶です。
その元凶が自らグレーゼ侯爵領にやってきて、何をしたのかと思えば、ジョヴァンナへ毒を盛ろうとして失敗し、さらにやらかそうとしたところを領兵たちに捕縛されたのです。
セネラ子爵の目的は、ベレンガリオへの嫌がらせでしょうか。
いえ、そうではありません。ベレンガリオは腑に落ちない部分を解き明かすためにも、この厄介な叔父と話をしなくてはなりませんでした。
ひとまず、毒に関しては無事だったジョヴァンナが、一生懸命説明します。
「ご安心ください、ベレンガリオ様。私、毒キノコの研究をしていた先祖のおかげでそういう毒は効かないので問題はありません!」
「そういう問題じゃない! 無事でよかった、本当に」
「はい! ……あの、ベレンガリオ様?」
近づいてきたジョヴァンナを、ベレンガリオは抱きしめました。
ちょっと、いや、だいぶ肉厚になりましたが、何も変わりません。触れた柔らかさも、髪の匂いも、潤った頬も、何一つ変わらないジョヴァンナがいることを、確認したかったのです。
困惑と恥じらいで無言になったジョヴァンナでしたが、満更でもありません。
そのまま、ベレンガリオはセネラ子爵へ問いかけます。
「叔父上、なぜ? 私に呪いをかけ、あまつさえジョヴァンナの命まで狙うとは、それほどまでに侯爵の爵位を欲してのことですか」
「いやあ、目的は別のところにある、というところかな」
「はい?」
「ほら、私は警察長官のもとで長年実務を任されていてね。王政打破を目指す、王都の反政府組織『魔女集会』の捜査をしていたんだが、意外にも彼女らと仲良くなれて、誰かに呪いをかけたいかと聞かれたから、断れなくてお前を指名した」
「はい!?」
ベレンガリオはめまいがしそうになりました。この自由すぎる叔父は、本当に長年警察長官の下で働いているのです。先代グレーゼ侯爵の弟である彼は、グレーゼ侯爵家の持つ爵位の一つ、セネラ子爵をもらって独立し、それ以来王都の治安維持を裏方として支えてきていました。
もちろん、仕事の詳細を明かされたことはごくわずかで、ベレンガリオがその世話になったことはほとんどありません。なので、正直に言えばベレンガリオは叔父の思惑や本性を察することはできかねる程度にしか理解していません。
それでも、ベレンガリオへ呪いをかけさせた理由は、妙に合理的でした。
「そもそも、呪いのほぼない今の時代、呪いの実在をどう実証するかは最大の課題だった。それで、お前の妻、ダーナテスカ出身の、魔法使いの裔であるジョヴァンナなら何とかできるだろう、と思ってそうさせたまでのことだよ」
呪いが実在するという証明のため、甥を生贄にした……そこまではまだいいのです。よくはありませんが、さておき。
ベレンガリオが知りたいのは、その背景です。
「叔父上、今更嘘を吐かないでください。フランシアから聞きました、今の王都の『魔女集会』の主張があまりにも過激であるものの、証拠もなく取り締まるには大義名分が必要……ダーナテスカを再び悲劇に巻き込まないためにも、ダーナテスカ伯爵家はフランシアを何度も王都へ送り込んで、その魔女たちを無力化しようとしていたそうですが」
ダーナテスカ伯爵邸で、ベレンガリオはダーナテスカ伯爵夫人とフランシアが王都で何をしようとしたか、その概要について説明を受けていました。
フランシアは婚約者を探すため、という偽りの目的を持って王都に何度も滞在し、『魔女集会』という組織を潜入捜査し、ときに行動を妨害していたそうです。彼女自身も魔法が使えることから、身分が怪しまれることはなかったのです。そのフランシアがベレンガリオに渡そうとしていた刺繍入りハンカチは、魔法や呪いを防ぐお守りのようなもので、結局ベレンガリオはジョヴァンナの分までポケットに詰め込まれてしまいました。
そして、機を見て、呪いを知らずに姉を傷つけたベレンガリオへ一部始終を話して恩を着せようとしていたものの、「みっともない」とダーナテスカ伯爵夫人に止められていた……ということでした。
ならば当然、セネラ子爵とフランシアは『魔女集会』捜査で知り合っていたはずです。それについてはフランシアには誤魔化されましたが、セネラ子爵から聞けばいいだけのことです。
「やれやれ、あのお嬢様は名前を出さないでと訴えていたんだが、本人が自白したのならしょうがない。そう、もし呪いがお前を蝕んだとしても、彼女の呪い返しが発動するはずだった。しかし、想定外に……ジョヴァンナの持つ、その金のフクロウのブローチの効果が凄まじくて、意図せず溢れた呪いをすべて自分に向けてしまったんだ。そして肉に転化されて今に至る」
「肉、ですか」
「ああ、肉だ。脂肪ともいう。女性は脂肪を溜めやすいが、案外魔女の呪いの耐性という意味で持ちえた特性なのやもしれない」
「そういうことだったのです! 私が! こんなになってしまったのは! セネラ子爵のせい……! 離婚宣告までされたのですよ!」
「はっはっは!」
「笑って誤魔化さないでください!」
ベレンガリオは、セネラ子爵を叩きに行こうとするジョヴァンナを抱きしめて、止めます。その怒りはもっともですし、ベレンガリオも勝手に呪いの対象にされて腹が立たないわけではないのですが、口も聞けなくなるほど痛めつけてもいけません。まだ話は途中なのです。
「まあ、毒はあくまで保険、そのせいでジョヴァンナは体調を崩した、という風説も流せる。私が実際にやったことなのだから、冤罪ではない。だろう? あとはそうだな、すべて私のせいにして、私ごと『魔女集会』を含む王都の呪い関係者を一掃する段取りはできている。とはいえ私は何食わぬ顔で、別の肩書きで王都に居座る。第一、セネラ子爵も偽装の身分だからな。何とでもなる。そういう筋書きだよ」
つまりは、セネラ子爵は己も身内も利用して、『呪い』を行使できる『魔女集会』という組織を壊滅させようとしていたのです。『呪い』の実在、そして『呪い』の被害はジョヴァンナが証明し、その一連の『呪い』の証拠を消そうと毒を盛った悪いセネラ子爵ごと、です。そうすることで、世間へ向けたお話としては筋が通ります。
ですが、保険があったとはいえ、呪いをかけたことは事実です。どんな理由があれ、そんな行動が許されれば、悪しき前例を作ることになります。
なので、セネラ子爵は自身を悪役に仕立て上げ、きちんと罪を罪として罰を受けるよう手筈を整えていました。そうすることで、世はこともなし、秩序と平和が保たれるのです。
かなり強引で、勝手な算段を立てられたことに関しては、ベレンガリオとジョヴァンナにも怒る権利はあります。しかし、この叔父のやることは確かに世のため人のためになることで、どうにも憎めません。
「はあ……そういうことをするから、父上に縁を切られるのですよ」
「それも表向きの話だ。お前の誕生日のお祝いで、風船の空気をガスに入れ替えて風に飛ばされていくお前を笑って見ていたせいでもある」
「あれは本当に死ぬかと思いました!」
そんな思い出話に花を咲かせていると、ベレンガリオは他にもこの叔父にやらかされたことを連鎖的に思い出してしまい、沸々とさらなる怒りが湧いてきました。
「思い出したら腹が立ってきました。叔父上、私も殴っていいですか?」
「いやいや、男に殴られる趣味はないよ」
「ご安心を、ベレンガリオ様! 私が代わりにボッコボコにしておきます!」
「お手柔らかに頼むよー」
余裕ぶって笑うセネラ子爵の顔を蹴り飛ばしたくてたまりませんが、それよりもベレンガリオにはすべきことがあります。
最優先の、義務ともいうべきことです。
抱きしめたままのジョヴァンナは、怒りで興奮して頬が紅潮しています。
ベレンガリオは、一つ深呼吸をしてから、彼女の名前を努めて優しく呼びました。
「ジョヴァンナ」
「はい?」
背中に回していた腕を解き、ベレンガリオはジョヴァンナへと頭を下げます。
「すまなかった。謝って済むとは思わない、ただ君の太っている姿を認められなくて、一時の感情の昂りを抑えきれなかった。私の未熟が災いした結果だ」
そして——本当は言いたくなかったその理由を、ようやくベレンガリオはジョヴァンナへと伝えます。
「実は、私の祖母はとても太っていたんだ」
「うむ、先代侯爵と私の母に当たる。とんでもなく厳格で、腕っぷしも強かった」
「は、はあ……そのお祖母様が、どうかしたのですか?」
「……祖母の厳しすぎた躾のせいで、太っている人間を見ると寒気がするんだ。怖気が走る、といったほうが正しいかもしれない」
そう言いつつ、ベレンガリオは手が震えていました。ジョヴァンナが信じられないとばかりに、ベレンガリオの手を見つめています。
一般的に、貴族の子女は厳しく育てられます。甘やかされた子どももいますが、この国においては家督を継ぐ子どもは例外なく、優秀な人材とすべく教育を施されるのです。
祖母が主導したベレンガリオの教育は、厳しいという一言では済まないものでした。武芸を磨きたければ招聘した専門家へベレンガリオを預け、ときに領兵の部隊に放り込んで実戦を経験させました。学問を磨きたければ賢者たちのいる庵へ出向かせ、その会話を理解できるようになるまで家に帰ることを許さないほどでした。
激しい叱責もさることながら、体罰も頻繁に行われ、しかしそれはベレンガリオのためと祖母は信じていたのです。
太った祖母に迫られ、泣いても許されない子ども時代を思い出すと、ベレンガリオは無意識のうちに恐怖します。それは父も叔父も同じで、祖母が死ぬまで安寧を得ることはなかったのです。
無論、そんな事情を家の外に漏らせるはずもなく、他の貴族の家も同じです。ただし、ダーナテスカ伯爵家はジョヴァンナを大変愛して育てたようで、ジョヴァンナにはその恐怖が分からないだろうし怖がらせるだけだ、とベレンガリオはその話題を避けていたのでした。
「分かっている、さっさとそれを言えというのだろう! しかしだ、こんな情けない話を君にできるものか! 愛するジョヴァンナに幻滅されるくらいなら、と……私は自分でも驚くほど本音を誤魔化すために怒り、虚勢を張った。つい離婚という言葉が飛び出してしまって、後に引けなくなったんだ」
ベレンガリオにとっては、ジョヴァンナの耳に入れたくない話はたくさんあります。ですが、すぐにプライドが邪魔をする難儀な性格のせいで、誤魔化し方が下手くそすぎました。
それを思い知った今、ベレンガリオはひたすらにうなだれるばかりです。
「やっぱり、自分で口にすると、己の馬鹿さ加減と不徳のざまに死にたくなる……」
「大丈夫だとも、ベレンガリオ。君の父もよく母に叩かれて尻を赤くして醜態を晒していたからね、もちろん私もだ!」
「まったく大丈夫ではありませんので黙っていてください」
ベレンガリオが空気を読まない叔父を睨みつけても、何の効果もなさそうです。
真剣に、自らの恥であり、なかったことにしたい過去を話したものの、それは言い訳に過ぎないのではないか——そう不安になった矢先のことです。
ジョヴァンナは、ベレンガリオの震える手を取り、見つめました。
「ベレンガリオ様。私、とても驚きました。あの貴公子のベレンガリオ様がそんなに落ち込む姿なんて一度も見たことがありませんでしたし、生まれたときからご立派なベレンガリオ様なのかもなんて思っていたくらいです」
「そんなはずはないだろう。誰しも、情けない真似をする子ども時代はある」
「でしょう? 私だって、走り回るせいで母に何度柱に縛りつけられたか、憶えていませんもの」
ベレンガリオが話していなかったように、どうやらジョヴァンナも明らかにしていないおてんばな過去があるようです。
それを打ち明けられて、初めてベレンガリオは思い知りました。
——自分は一体、ジョヴァンナの何を知っていたのだろう。
後悔が覆う顔を晴らすように、ジョヴァンナは明るい笑顔でベレンガリオを見上げます。
「あなたが私に結婚を申し込んでくださった日から、こんな気軽な話ができるようになるのを夢見ていました。完璧な侯爵閣下の夫人となるなんて、私には荷が重くて、ずっと緊張しっぱなしでしたから……粗相があってはいけないと気を張っているところに、まさかの、その、太った、はい、結果で」
「……本当に、申し訳なかった」
両者ともに、決まりの悪い結末です。
しかし、ジョヴァンナもベレンガリオも、こんな結末でも悪くはないと思っています。
ただ一つ、元凶の態度を除いては。
「まあまあ、雨降って地固まる、だ。夫婦水入らず、それでは私はこのあたりで失礼するよ」
セネラ子爵が花壇から降り立ち、颯爽と走り出しました。いつの間にか縄を解き、逃げ出すチャンスを窺っていたのです。
ベレンガリオは声を張り上げ、追いかけます。
「叔父上が逃げた! 領兵を呼べ! 決して逃すな! 合法的に殴れるチャンスだ!」
ベレンガリオに続き、衛兵や領兵、男性の使用人たちがセネラ子爵を再度捕縛するために奔走しはじめます。
グレーゼ侯爵邸はてんやわんやの大騒ぎです。
とはいえ、唯一残った男性使用人である老執事長ドナートには、目を輝かせて夫の勇姿を見つめていたジョヴァンナの世話をする仕事があります。
「ドナートさん、私もベレンガリオ様のように、あんなふうに速く走れるようになりたいです」
「では、頑張らなければなりませんな」
「はい!」
ジョヴァンナは素直に返事をしました。
その後、ジョヴァンナは呪いの影響が徐々に抜けていき、努力の甲斐もあって痩せていくのですが、どうしても元の細さには戻りません。
ベレンガリオがこう言ったからです。
「ジョヴァンナ」
「はい」
「……抱き心地がよかったから、痩せなくてもいいと思うんだが」
「え……あ、そ、そうでしたか。それは、はい、えっと」
「も、もちろんお前が嫌でなければ、だぞ! それも俺のわがままだ、だから」
「いえ! 無理して痩せなくていいとおっしゃられたなら、私も安心してご飯やデザートが食べられますから、とても助かります!」
そんな不器用なやり取りがあったことは、いずれ金のブローチと指輪を受け継ぐ子どもたちにも語られていくことでしょう。
おしまい。
これでこのお話はおしまいです。
ちょっとつたなかったものの、何とか終わりまで書けました。リハビリ。
面白かった、と思っていただけたらいいのですが、まだまだ精進しなくては。
よろしければいいねや☆で評価などしていってくださると幸いです。




