第93話 捜索
目の前には、雨に濡れた赤髪のメイドがいる。
気が強く、ロリコンで、交渉上手で、面倒見がいい人。
感情を表に出さず、いつも面倒事を背負い込んでしまうタイプ。
名はセレーナ・シーゲル。同じ組織に属する、未だ底が見えない先輩だ。
「セレーナさん……。何と引き換えに、交渉を成立させたんですかっ!!!」
理由を聞いたところで、どうせ答えてくれない。
適当にお茶を濁されて、話は終わってしまうだろう。
だけど、そんなの納得できない。納得できるわけがない。
(本当の理由を聞くまで、絶対に折れてあげないから)
きっと、彼女とは、戦うことになる。
これだけは譲れない。避けては通れない。
意見が衝突することを、覚悟した上での問い。
これ以上、彼女には重荷を背負わせたくないんだ。
「理由を聞くまで、絶対に折れないって顔ですね」
セレーナは、当然のように心を見通している。
ドイツ滞在中は、ほとんどずっと一緒にいたんだ。
嘘をついても、意味がない。そう判断した上での反応。
不要なやり取りはしない。そんな意気込みと覚悟を感じる。
(次だ……。次で、きっと仕掛けてくる……)
長らく一緒にいたのは、こちらも同じ。
彼女の性格を考えれば、なんとなく分かる。
勘ぐるのは得意じゃないけど、分かってしまう。
一発で黙らされる『何か』を言われる確信があった。
「ラストレッスンです、ジェノ様。31日までに、あたしを見つけてください」
セレーナが出してきた『何か』。
それは、今までの総決算。最後の課題。
結社もケースも全て無視した、身勝手な行動。
だけど、対等だ。変な条件も汚いトリックもない。
(見つけろ……。つまり、かくれんぼってわけか……)
意味を汲み取り、前向きに事態を受け止める。
今は8月27日の夕方だ。期限は8月31日までになる。
見つけられなければ、姿を消す。二度と会えなくなる。
「面白い。そのレッスン、受けて立ちますよ!!!」
断る理由なんて、どう考えてもない。
今こそ教えてもらったことを、活かす時だ。
◇◇◇
二階に通じる階段から続々と、降りてくる人たちが見える。
その中の一人。ヴォルフは黒いアタッシュケースを持っていた。
足並みは、中央にある、長机の方向。ジェノが腰かける席へと迫る。
「あったぜ。お望みの品だ」
ドンという音が響き、机にケースが置かれる。
気付けば、ヴォルフは隣に立っていて、そう言った。
「見つけてくれて、ありがとうございます。助かりました」
ジェノは置かれたケースを受け取り、感謝する。
それ以上の反応はできない。する余裕なんてない。
思考と関心は、すでに別方向へ向いてしまっていた。
「ケースは見つかったが、どうする……?」
戻ってきたリアの表情は暗い。
危惧しているのは、きっと犯人捜し。
誰がアタッシュケースを盗み、隠したのか。
気になるのは気になるし、捜したい気持ちもある。
「あったなら問題ありません。この件は不問とします」
だけど、今は他に優先するべきことがある。
優先する順序が、ものの数分で変わってしまった。
「おい、待て。それだと、盗まれたこっちの示しがつかねえよ」
すると、ヴォルフは、引け目を感じている様子。
元々、アタッシュケースは彼の事務所に預けていた。
その責任者でもあるし、手下の目もある。当然の反応だ。
犯人には感謝しかないな。なんの遠慮もなくお願いができる。
「だったら、別に捜して欲しい人がいるんです。協力してもらえませんか?」
まず最初に試すのは、人海戦術だ。
ここから、彼女の痕跡をたどって見せる。




