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黄金の魔術  作者: 木山碧人
第五章 ドイツ

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第89話 葛藤と告白

挿絵(By みてみん)




 ドイツ。ミュンヘン。ドイツ料理店。


 赤ピエロが告げたのは、推しとの離縁。


 ジェノとの関係を断てという、事前勧告。


「……なんで、縁を切らないといけないわけ」


 セレーナは当然ながら反論する。


 どうするかはともかく、大事なのは理由。


 断るにしても、訳を聞かないと寝覚めが悪かった。


「彼と深く関わった者は、いずれ破滅する。アナタも例外じゃないのよ」


 赤ピエロが述べたのは抽象的な回答。


 うさん臭い占い師みたいな、言い分だった。


 まるで筋が通ってない。なんの根拠も理屈もない。


「なにそれ……。そんな理由で、あたしが納得すると思ってるの?」


 らしくないと言えば、らしくなかった。


 いつもなら、反論できない根拠を提示される。


 それなのに、今回は違う。子供騙しにもほどがある。


「思ってないわ。だから、彼と縁を切れば、一億ユーロ用意する。これでどう?」


 すると、次に告げられたのは、破格の条件。


 しかも、相手は、セレーナ商会の代表取締役。


 とっさに動かせるだけの資産は、十分あるはず。


 それに、条件を呑めば、相手は絶対に約束を守る。


 見ず知らずの人に比べたら、そこだけは信用できた。


(縁を切れば、楽できる……。一発ツモってわけね……)


 一か月以内に一億ユーロを用意しろ。


 組織と和解するために神父が課した条件。


 その期日が残り三日半と迫った上での、これ。


 間髪入れずに、断る。なんて英断はできなかった。


 一から資金を調達する苦労は、骨身に染み渡っている。


「……送金方法は?」


 ひとまず、話は聞く。全部、聞いてから判断する。


 受けたところで、期日に間に合わない可能性もあった。


「銀行振込でも口座振替でもオンライン決済でも小切手でもお好きなのをどうぞ」

 

 赤ピエロが提示するのは、漏れのない無難な方法。


 ただし、こちらの銀行口座は、全て凍結されている。


 新規口座を作るにしたって、数日かかる可能性がある。


(銀行振込も口座振替も、不確実ね。後者二つは、まだマシだけど……)


 オンライン決済は、インターネット上で、取引が完結する。


 一番手軽で、日数もかからない。ただ、それはデータ上の金。


 現金化しろと言われた場合、これもまた、数日は時間がかかる。


 そんな中、小切手なら確実。銀行に持ち込めば現金が用意される。


「……現金一括払いは無いわけ?」

 

 ただ、それも、銀行によっては日数がかかる場合がある。


 一億ユーロなんて大金。即日に用意できない銀行の方が多い。


 だから、現金一括払いが確実で、失敗するリスクが一番なかった。


「アナタねぇ……時代を考えなさい。現金が必要なら、小切手で十分でしょ」


 神父の課題を、赤ピエロは把握してるのか、してないのか。


 九割方は分かった上でやってて、残り一割は偶然ってとこかな。


「ふん、話にならない。だったら、受けないから!」


 バンと机を叩いて立ち上がり、セレーナは背を向ける。


 ここで確かめるべきは、相手に、どこまでの熱量があるか。


 どうでもいいならスルーされるし、そうじゃないなら食いつく。 


(このまま店を出られたら、割り切れる。だけど、もし……)


 コツコツと靴音を鳴らし、店外に向かう。


 食いつくかどうか。状況は至ってシンプル。


 ただ、胸中はシンプルじゃない。複雑だった。


 もし、条件が呑まれたら、どんな行動を取るか。


 自分のことなのに、予想ができない。分からない。


 それなら、声がかからない方が、気持ちは楽だった。


「………………待ちなさい。一時間もらえたら、なんとかするわ」


 それなのに、声がかかる。止められる。


 時間もタイミングも条件も全てが完璧だった。


 受ければ、組織と和解。行動の制限と圧はなくなる。


 その代わり、ジェノとの縁が切れる。二度と会えなくなる。


(考えるまでもないはずよ。条件を呑んでも、その先にジェノ様はいない)


 お金を稼いだ先に見たいのは、推しの成長。


 それが目的。人生を捧げてでもやりたいこと。


 あの日は答えられなかった。でも、今だったら。


「一分待って……。その間に決めるから」


 頭では分かってる。心では決まってた。


 それなのに、口走ったのは、待ったの一言。


 保身に走る気持ちがあったからこそ、出た言葉。


 自分のことが嫌いになってくる。嫌気が差してくる。


 それでも、頭を回し続けた。葛藤に終止符を打つために。


 ◇◇◇


 ドイツ。ミュンヘン。ホフブロイハウス。


 そこには、マフィアのボスと魔術結社の元幹部。


 そして、互いの腹心と、紛れ込んだ一人の少年がいた。


「……これは大人の話し合いだ。子供はすっこんでろ」


 睨みを利かせるのは、短い黒髪を逆立てた大柄の男ヴォルフ。 


 黒の革ジャンに、白のTシャツに、紺のジーンズを履いている。


 ドイツ滞在中に、色々とお世話になっていたマフィアのボスだ。


「そのとぉり! これは吾輩たちの問題。手出し無用ぞい!」


 一方、大人認定されて嬉しそうな、黒髪おかっぱ頭の幼女。


 グレーっぽい軍服に袖を通し、同じ色の軍の帽子を被っている。


 首には、黒い十字の勲章がかかり、左腕には卐印の腕章が見えた。


 彼女こそ魔術結社『イリーガル』の元幹部。今は仲間のリアだった。


(歓迎されないか……。まぁ、こうなるよね……)


 元々、マフィアと結社には因縁があった。


 第三者が首を突っ込むな、と言いたいんだろう。


 言ってることは分かる。状況が状況なら手を引くだろう。


「無理ですよ。アタッシュケースって、俺が預かってもらってたものですよね」


 ただ、今回に限っては、無視できない。


 アタッシュケースは、こっちの大事な所有物だ。


 紛失した可能性があるなら、口を挟む正当な権利がある。


「……ちっ、聞こえてやがったのか」


 ヴォルフは真っ先に反応し、バツの悪そうな顔をしている。


 アタッシュケースを預けていたのは、シュトラウスファミリーだ。


 責任を追及されると思っているんだろう。そんなことするわけないけど。


「やっぱり……。一体、何があったんですか。経緯を聞かせてください」


 ひとまずは、情報収集が先だ。


 中途半端に関わるわけにはいかない。


「別室に保管していたアタッシュケースが、今朝消えた。思いつく限りの場所を探したが、見つからず、最後に思い当たったのが、ここってわけだ。このチビがアタッシュケースを欲していたのは、フランクから聞いていたからな」


 ヴォルフは、つらつらと事情を説明する。


 特に気になる点や、疑問を差し挟む点はない。


 実際、フランクとは一度、ここに乗り込んでいた。


 リアが、ケースを欲していると言ったのも、その時だ。


 なんの矛盾もない。昨日のことのように鮮明に覚えている。


「理解しました。ともかく、アタッシュケースが見つかればいいんですね」


「まぁその通りだが、一つ聞かせてくれ。……アレの中には、何が入っていた」


 話を進めようとするも、ヴォルフは真剣な表情で尋ねてくる。


 最悪の場合、中身を立て替えれば問題ないと思ってる感じかな。


 できるなら、別にそれでも構わないけど、そう簡単にはいかない。


「あぁ……えっと。これは、オフレコで頼みますね」


 周りを見て、ここにいる人を確認する。


 全員、行動を共にしたことがある人たちだ。


 少なくとも、他人じゃない。秘密は共有できる。


「もったいぶらず、早く言え。金で解決できるものなら、最悪――」


 思った通り、ヴォルフは取り替えるつもりだ。


 この先は聞かなくてもいい。言ってあげた方が早い。


 どうせ、リア側は知っている。遅かれ早かれバレる問題だ。


「核ミサイルの発射装置なんです。あの中身……」


 ジェノは、戦々恐々としながら、話し出す。


 場は凍りつき、嫌な空気が満ちていくのが分かる。


 この後に来る展開は、申し訳ないけど、大体予想できる。


「はぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!!!?」


 叫んだのは一人。ヴォルフだけが、新鮮な反応を示していた。

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