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黄金の魔術  作者: 木山碧人
第五章 ドイツ

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第79話 根源

挿絵(By みてみん)




 地下世界。黒龍の巣。最下層。


 時は現在。御前試合開始より数分後。


 目の前には、火球を浴び続ける人間がいる。


 魔物にとって、人間は言葉が通じず、縁遠い存在。


 どんなひどい目に遭おうと、関係がない。心は痛まない。


(あの時と、同じだ……)


 だが、ヘケヘケにとっては違う。


 公開処刑が行われた、あの日の出来事。


 ティーノが死んでしまった光景と重なっていた。


(何もできなかった。見ているだけだった……)


 状況も、立ち位置も、何もかもがあの時と同じ。


 問題に誰かを巻き込んで、自分は傍観者を気取ってる。


 弱いから。行っても意味ないから。遅いから。間に合わないから。


(もう、うんざりだ。もう、たくさんだ。もう、こりごりだ)


 胸の内に広がるのは、どんよりと暗い感情。


 後悔。憎悪。憐憫。怨恨。屈辱。殺意。焦燥。


 ヘケヘケは感情の矛先を、一匹の黒龍へ向ける。


(僕はここで死んだって構わない。でも、せめて、せめて……)


 やりたいことは、決まった。


 後は、行動に移してやるだけだ。


「…………っ」


 それなのに、体の震えが止まらない。


 相手は格上。やっても意味ない。無駄な努力。


 魔物としての本能が、やりたいと思ったことを阻害する。


(やらないと。僕が言い出したんだ。僕が、やりたいことなんだ……)


 できない理由ばかりが、頭にチラつく。


 それを上書きするように、自分に語りかける。


 それでも、足りない。動けない。本能には勝てない。


 本能に打ち勝つための、何か決定的な一言が必要な気がした。


(違う。僕はやりたいことをやり通した上で、何になりたいんだ……?)


 浮かばない。何も浮かんでこない。


 だから、問いかける。行き着く先を見る。


 動機の言語化。そこに答えがあると信じて考える。


 すると、見えてくるものがあった。腑に落ちるものがあった。

 

『お前は生まれ変わり……前世ってやつを、信じるか?』


 きっかけは、ティーノと交わした、最後の会話。


 あの時は、否定した。信じていないとハッキリ告げた。

 

『俺は信じてる。前世は、悪い奴……だったような気がするんだ』


 ここで会話は終わった。また今度と約束して、実現しなかった。


 これには、続きがある。彼が言いたかったことが、今なら分かる。


 前世は悪い奴だったから、今世は良い奴になるために死んでいった。


 ――だから。


(僕はティーノになりたい。悪い魔物じゃなく、良い魔物になりたいんだ!!!)


 体の奥底から力が溢れてくる。


 不思議と心が軽くなるのを感じる。


 今なら、何でもできるような気がする。


 きっと、魔物の本能にだって、打ち勝てる。


「―――」


 動いたのは、ヘケヘケ族自慢の尻尾。


 引っ張ったのは、抱えている人間の腕部分。


 なりたい自分になるためには、人間の協力が不可欠。


 どうにかして心で通じ合って見せる。どんな手段を使っても。


 ◇◇◇


 ジリジリと肉が焼けるような音が響く。


 熱い。痛い。助かりたい。諦めてしまいたい。


 目の前がぼんやりとしながら、心は徐々に弱っていく。


(俺……今、何してるんだっけ……?)


 ジェノは、意識を朦朧とさせながら思考する。


 火球を受け続けた代償が、目に見えて現れていた。


 それは熱中症。めまい、意識の混濁を引き起こす病気。


 本来なら、熱中症では済まず、体は焼け焦げて、死に至る。


 だが、センスによる防御が、熱を軽減し、生殺しの状態が続く。


 そのせいで、少しずつ、段階を踏んで、ジェノの体を苦しめていた。


(そうだ……。黒龍の攻撃を受けて……どれぐらい経ったんだっけ……)


 そんな中、ジェノは意識を保ち、防御に集中する。


 ただ、長く持たないのは、なんとなく分かっていた。


 恐らくだけど、受け切れるのは、後一発が二発が限界。


(まずいな。意識が飛びそうだ。そうなる前に、何か手を打たないと……)

 

 御前試合の敗北条件は、気を失うこと。


 それが、すぐ後ろに迫りながら、思考を回す。


 ゆっくり考える暇はなかった。浮かんだ策は一つだけ。


(アレ、しかないか……。次に火球が来た時が勝負……っ!)


 その思考に呼応するように、視界が晴れる。


 そこで、上空に見えてきたのは、一発の火球。


 この身を焼き焦がさんと、見る見る迫ってくる。


「――超原子アトミック……」 


 ジェノは、拳を構え、センスを高める。


 最後の搾りカス。打ったら、きっと気絶する。


 分かってるけど、やるしかない。それ以外ないんだ。


 そう思うと、力が増した気がする。なんとかなる気がする。


 体から生じる銀光は、意思に応じ、限界の少し先まで押し上げる。


(これが、今の俺のありったけだ。もってけ、泥棒……)


 何の疑いも持たず、自分の選択を信じる。


 意識は朦朧としながらも、体は勝手に動いた。


インパクト……っ!!!!!」


 右手に集まったのは、大量のセンス。


 それを迫ってくる火球に向けて、振り放つ。


「――ッッ」


 一度やったことは、二度目もできる。


 ジェノの狙いは、火球を拳で打ち返すこと。


 その思惑通り、拳は勢いを増し、容易に跳ね返す。


 手応えはあったし、上手くいった。だけど、違和感が残る。


(……こんな、軽かったっけ?)


 自分の最高到達点を更新できたから軽く感じた。


 それぐらいの感覚はあったし、そう思いたかった。


 だけど、相手は高度な知能を持つ魔物。甘くはない。


 甘いと感じたならば、それは、きっと、演出したもの。


(いや、違う……。わざと手を抜いて、余力を残した……っ!!)


 あの黒龍と手合わせしたのが、二度目。


 だからこそ、分かる。理解できる。思考が読める。


 条件は相手も同じ。同じように思考を読み、理解し、分かられた。


「――ッッッ!!!」


 思考が追いついた瞬間。体に迫るのは、鋭い牙。


 火球に紛れ、地上で気配を消していた、黒龍の攻撃。

  

 人の知能と同じ。いや、それ以上の狡猾さがある、一手。


(無理だ……。もう、センスは……)


 体の銀光が、弱まっていくのを感じる。


 精神的にも肉体的にも、限界が近づいていた。


 いや、そうなるよう、初めから仕組まれていたんだ。


(今回は、俺が、相手より浅かったな……)


 敗北を目の前にまで迫っているのに、不思議と悔しさはなかった。


 あるのは清々しさだけ。全力を出して、限界を超えた上で負けたんだ。


 納得できる。やり残したことはあるけど、悔いは残らないような気がした。


(生まれ変わったら、もう少し、楽な人生がいいな……)


 ジェノが、最後に思い浮かべたのは、来世のこと。


 これまでの人生は、辛くて、しんどいことが多すぎた。


 その分やりがいもあったけど、楽できるなら楽したかった。


「――」


 その間にも、牙は肉薄し、肌を突き破らんと迫る。


 加減をしているようには見えない。痛いのは、ほんの一瞬だ。


 せめて、傷口を直視しないよう、目を閉じようとした時、それは起こった。


「……ヘ、ケっ!!!!!!!!」


 黒い尻尾が空を縦に裂き、黒龍の頭を叩きつける。


 肉薄した牙は離れていき、ドシンと地面に衝撃が走った。


「…………ギャゥゥッ!!」


 黒龍は叫び声を上げ、地面に突っ伏している。


 あり得ない。目の前で、あり得ないことが起きている。


 起きた現象は理解できるようで、全く理解が追いつけないもの。


「なん、で……。君、こんなに、強かったの……」


 現れたのは、ヘケヘケ。この巣の中で、最弱と呼ばれる魔物。


 それが最強の魔物である黒龍を叩きつけ、その体の上に立っていた。

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