第45話 不利な交渉
ドイツ。ミュンヘン。アマリエンブルク荘。
中央のテーブルには、C4と青い水晶玉が置かれる。
水晶玉には、鏡面世界で行われていた映像が映っていた。
「ヒヒッ。どうやら、あの小僧は負けたようだねぇ」
水晶玉に両手を当てる老婆は、語り出す。
その顔には、勝ち誇るような笑みを浮かべている。
「……」
一方、老婆の正面に立つセレーナの表情は、暗い。
なぜ、わざわざ、不利になるような映像を見せたのか。
いや、そもそも映像は偽物で心理戦の可能性も考えられる。
そんな思考で、頭がいっぱいだった。邪推かもしれないけどね。
「お仲間が負けたことがそんなに悔しいかい?」
沈黙している理由を深読みしてきた老婆は、そう尋ねてくる。
正直に話すか、適当にお茶を濁すか。頭に浮かぶのは、この二択。
「わたくしが勝てば、彼を解放する。この条件を追加してもらえませんか」
ただ、ここで言うべきは、今思いついた三択目。
鏡面世界鬼ごっこで勝った後の、条件の追加だった。
(あたしとしたことが、超抜けてた……。なんで気付かなかったの……)
だって、彼はこのままだと鏡から出られない。
この後、勝っても、老婆が結社から抜けるだけ。
鏡面世界は維持。負けたジェノは、解放されない。
そのぼったくりに、今さらだけど気付いてしまった。
だから、ジェノが勝負に乗った時、老婆は笑っていた。
そう考えれば辻褄が合う。だからこそ、ここは交渉一択。
このまま勝負を進めれば、取り返しのつかないことになる。
「そいつは無理な相談だねぇ。これでも十分譲歩したつもりだよぉ」
ただ、老婆は一筋縄ではいかず、簡単には条件を呑まない。
場の有利は、ジェノという人質により、確実に老婆側にあった。
C4で脅しをかける行為も、人質がいるせいで、効力が薄まっている。
(くっ、言うとしたら、ジェノ様が鏡に入る前だった……)
どう考えても、交渉には不利な状況だった。
判断が遅れたことへの後悔だけが、頭に残る。
ただ、このまま、何もしないわけにはいかない。
「それなら――――――」
セレーナは、淡々と交渉を進める。
他の選択肢は、現状考えられなかった。
ジェノを巻き込んだ責任は、こちらにある。
彼が損する展開だけは避けないといけなかった。
「……ほぉ、そうきたか。だったら構わないよぉ」
考えを伝え終わると、老婆は納得する。
これで交渉は終わり。後は勝負に集中するだけ。
「それでは、ご案内いただけますか? 鏡面世界へ」
セレーナはC4の起爆装置から手を放し、鏡に向かう。
場は整い、追い込まれた状況で、勝負は後半戦を迎えた。




