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黄金の魔術  作者: 木山碧人
第五章 ドイツ

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第23話 ハイアンドロー

挿絵(By みてみん)




「……」


 先攻となったリアが、堂々と宣言した人数は899人。


 『ホフブロイハウス』一階の座席数は、1300席以上ある。


 昼下がりのこの時間は、目視でも席がほぼ埋まっている状態。


 かなり妥当な数字だった。誤差があっても一人や二人ぐらいの差。


 それに、あの赤い本を触媒にした魔術。人を探知したなら厄介すぎる。


「さぁ、次はお前の番。ハイかローを選ぶといいぞい!」


 勝ち負けをつける以上、引き分け狙いの同数宣言は、論外。


 だから、ハイアンドロー。上か下かを選択しないといけない。


(ひよったところで、どうにもならないか……)


 賽はすでに投げられた。


 深く考えても予想の範囲を出ない。


「……897人。道具は使いません」


 仕方なく宣言したのは、ロー。


 相手の数字よりも少し下回る人数。


 置きにいったような感じの答えだった。

 

 でも、いい。ここで道具を使うのは、論外。


 万が一の切り札としてとっておかないといけない。


「出揃ったな。計測はうちのスタッフと、そこのちっこいのに任せる」


 リアは、そう語ると、背後から黒髪ロングの褐色肌をした少女が現れる。


 赤と黒のウェイトレス服を着ていて、後ろ髪は全体的にウェーブがかっている。


(計数器が二つ……。段取りよすぎでしょ……)


 スタッフの手には、人数調査用の計数器が二つ。


 それを無言でジェノに渡し、計数が始まろうとしていた。


「……これ、俺が使ったら、道具を使った扱いになりませんよね?」


 と思いきや、ジェノは計数器を見つめ、不安げに尋ねる。


 ルール上、道具は一人一つ。計数器も一応、道具に該当する。


 屁理屈にもほどがあるけど、後出しで突っ込まれる可能性があった。


「ふん、抜け目のないやつ。計数器は例外として認めてやるぞい」


 言われなければそうするつもりだったのか、リアは悔しそうに語る。


(ナイス、ジェノ様……っ! あたしもしっかりしないと……)


 完全に気を抜いてしまっていた。


 あの魔術に意識を割かれたせいかもしれない。


「助かりました。……計数の方も、くれぐれもお気をつけくださいませ」


 ともかく、今回は彼がケアしてくれた形になった。

 

 素直な感謝を述べつつ、次の展開に備えた警告をしていく。


 だって、ここは敵地。裏で何をされるか分かったもんじゃなかった。


「分かってます。セレーナさんも気を抜いちゃ駄目ですよ」


 去り際に、ジェノから耳の痛い一言を言われ、今度こそ計数が始まった。


 ◇◇◇


 『ホフブロイハウス』一階、ビアホール内。


 カチカチカチと無機質な音が、二人の間に響き渡る。


 隣には、無言で計数器を押し続ける黒髪褐色肌の少女がいた。


 首には包帯が巻かれていて、何かしらの怪我をしているように見える。 


「……あの。少しいいですか?」


 手を止め、声をかけたのは、ジェノだった。


「……」


 しかし、少女は無視を決め込み、計数を進めていく。

 

 リアから、口を利くなとでも言われているのかもしれない。


(厳しい教育……。いや、それ以上か……)


 そこで、嫌でも目に入ってくるのは、首元にある痛々しい包帯。


 状況から考えて、日常的に虐待を受けているようにしか思えない。


(敵である以上、深入りは厳禁ってやつなのかな……)


 ただ、聞いたところで、どうにかできないかもしれない。


 責任を持てない行動は、かえって相手を苦しめる可能性もある。


「あなたも俺と同じ、異世界人の血が混じった……劣等種。なんですよね」


 だけど、抑えられるわけがなかった。


 あんな話を聞いた後だと余計に見捨てられない。


 三原色の髪か、褐色の肌。それが、劣等種の特徴なんだから。


「……同情のつもり? 気安く話しかけないでちょうだい」


 すると、女性は振り返り、後ろ髪をなびかせ、反応してくる。


 その声音は冷たく、表情は険しく、毛虫を見たような態度だった。 


 高飛車なお嬢様のようなタイプ。品のない相手には当たりが強そうな人。

 

(確定だ。やっぱり、この人は……)


 その態度を見て、察するものがあった。


 どう考えても、普通のウェイトレスじゃない。


 結社の一員か、もしくは、奴隷のような存在なんだ。


「同情なんかじゃありません。宣言しようかと思ったんです」


 だったら、居ても立っても居られない。


 拳は震え、体の奥底の血がたぎるのを感じる。


 視線は目の前にいる態度の悪い少女に注がれていく。


「……まさか、聞こえていないの? 気安く話しかけないでと――」


 心配をかけさせないためか、少女は気丈に振る舞おうとしている。


 深入りする必要がないって、余計なお節介だって、頭の片隅では分かってる。


「結社は俺たちが必ず潰します! だから、安心して待っていてください」


 だけど、このまま何もせずに、見過ごせるわけがなかった。


 人が奴隷のように扱われる行為が、許されていいわけがないんだから。

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