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黄金の魔術  作者: 木山碧人
第五章 ドイツ

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第21話 じゃんけん

挿絵(By みてみん)




 人数えゲーム。『ホフブロイハウス』内にいる人数を当てる。


 一階、二階、三階で区切る全三回勝負。勝ち越した方の勝ちとなる。


 道具は一人一つ使え、先攻後攻はじゃんけんで決め、口頭で数字を伝える。


「早速、じゃんけんで先攻後攻を決めるが、ドイツ式のルールをご存じか?」


 向かいに立っている対戦相手の幼女。


 リアは、淡々とゲームを進行していった。


「いえ、浅学ながら存じておりません」


 普通なら、グー、チョキ、パーの三すくみの構図。


 グーはチョキに強く。チョキはパーに強く。パーはグーに強い。


 同じ手ならあいこで仕切り直し。三手しかないことで深い読み合いに発展する。


(わざわざ聞いてきたってことは、既存のルールじゃないってわけね……)


 ゲームは始まってから、ほんの一分も経ってない。


 それなのに、早くも先手を仕掛けられたような気がした。


「ドイツ式のじゃんけんは四つ。グー、チョキ、パーに加え、井戸がある」


 リアは、長袖から小さな手を出し、指で丸を作り、井戸に見立てていた。


 聞き覚えもないないし、見覚えのない手。それ以上に嫌な予想が頭に浮かんだ。


「まさか、複数の手に勝てる手。でしょうか……」


「ご名答! 井戸はグーとチョキに勝て、パーに負ける手となるぞい!」


 手で作った丸を望遠鏡のように見立て、リアは答えた。


 グーとチョキは一手にのみ有効で、パーと井戸は二手に有効。


 つまり、パーと井戸を出せば勝率33%。グーとチョキの勝率は16%。


 自ずと勝率の高いパーか井戸が選ばれ、一点読みでチョキを出すかどうか。


(グーはほぼ死に手。実質、パー、井戸、チョキのゲーム……)


 冷静に考えをまとめ、繰り出す手を考える。


「これって俺も参加していいんですか?」


 すると、そこに割って入ったのはジェノだった。


 確かに、相手から参加人数を指定された覚えはない。


 味方は一人でも多い方が、じゃんけんの勝率は高くなる。


 いい質問かもしれなかった。そんなに甘くはないだろうけど。


「回が終わるごとに交代してもいいが、じゃんけんと人数えは一対一とする」


 やっぱり、思った通り、甘くはなかった。


 これ上なくフェアな形でリアはルールを告げる。


「交代制ですか、分かりました……。どうします、セレーナさん」


 ジェノは大人しく引き下がり、前向きに尋ねてくる。


「ひとまず、初手はわたくしにお任せください。その後は状況次第で考えます」


 アタッシュケースの所有権は彼にある。


 勝負に口を挟める権利は、十二分にあった。


 だけど、今じゃない。まずは相手の力量を試す。


「決まったか。掛け声はアイン、ツヴァイ、ドライでゆく。準備はいいか?」


 腕をぶらぶらとリラックスさせ、リアは尋ねてくる。


 いくら考えようとも手は四つ。この中から手を選ぶだけ。


「構いません。いつでもどうぞ」


 焦る必要も、深読みする必要もない。


 ただ、淡々と自分が出す手を信じるだけ。


「ゆくぞい」


 リアは基本形となるグーの形を作り、準備は整った。


「「アイン、ツヴァイ、ドライ!」」


 小気味いい掛け声とともに、手を繰り出す。


(本命はパーか井戸。さっきの素振りは井戸と思い込ませるブラフ。つまり――) 


 セレーナが形作ろうとしているのは、一点読みの択。


 勝率の高いパーを刈り取るためだけの手。チョキだった。


「……ふっ、なかなか、トリッキーな手を選ぶ」


 賞賛か誹謗か。自嘲気味に笑いながら、リアは語る。


(この反応、どっちの……)


 焦る心のまま、すぐに目の焦点を絞り、手が見えてくる。


「……っ」


 思わず息を呑んでしまう。


 だって、そこに見えていたのは。


「ただ、トリッキーなのはこちらも同じ。心理戦は吾輩が一枚上手だったようだ」


 使い勝手が悪い、死に手だったはずのグー。


 一回目のじゃんけんは、完全な敗北の形で終わった。

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