ビスマルク侯爵家にて
僕達一家は王都ビザンツのおじい様に会いに来た。おじい様はこの国の侯爵だ。僕達が挨拶した後、早速おじい様が質問してきた。恐らく、僕が教会に行った時の件だろう。父様が説明を始めた。
「私とメアリーが見たままを話します。教会に着いて私達がウエヌス様の像の前に行き、礼拝を始めた瞬間ウエヌス様の像が光始め、ルカの身体が光始めたのです。しばらくして光が収まったのですが、ルカは全く気付かなかったようです。」
おじい様が僕に聞いてきた。
「ルカ! その時何があったのじゃ? 教えてくれないか?」
「ごめんなさい。わかりません。僕は病気を治してくれてありがとうございますって、お礼を言っただけです。」
「そうか。」
再び父様が説明を始めた。
「礼拝が終わって属性魔法の神授の部屋に行ったのですが、ルカが神聖水晶に手を置いた瞬間、神聖水晶は割れてしまったのです。」
「神聖水晶は何色に光ったのだ?」
「それが、神聖水晶は光りませんでした。」
「そうなのか? ならば、ルカは魔法が使えないのか?」
僕の心臓はバクバクと激しく鼓動を打っている。とうとうこの時が来た。この後どうなるのか不安でいっぱいになった。
「はい。ごめんなさい。魔力はわかるけど魔法は使えません。」
「そうか。」
おじい様はしばらく考え込んでいた。そして、入口に控えていたシャルルに命じた。
「シャルル。私の書斎に行って魔力水晶を持ってきてくれ!」
「畏まりました。」
すると、おじい様が優しい笑顔で僕に言った。
「ルカ! こっちにおいで!」
僕がおじい様の隣まで行くと、おじい様は僕を抱き上げて膝の上に乗せた。僕は何が起こったのか理解できないでいる。すると、おじい様が僕に話しかけてきた。
「ルカよ。可哀そうに。不安だったじゃろう。他の者達がみんな魔法が使えるのに、自分だけ魔法が使えない。どれだけ孤独だったか。じゃが、もう大丈夫だ。このじいがお前を守ってやるからな。」
僕の目から涙が零れた。もしかしたら、魔法が使えない僕は家を追い出されるかもしれない。男爵家の長男なのに魔法が使えないのだ。もしかしたら、男爵家がとりつぶされるかもしれない。そんなことを考えていたのだ。
「もうよい。泣くな。ルカ!」
すると、シャルルが神聖水晶より一回り小さな水晶を持って戻ってきた。
「お持ちしました。侯爵様。」
「ありがとう。そこに置いてくれ。」
シャルルはテーブルの一番端に置いた。すると、僕を膝の上に置いていたおじい様が僕を下ろして水晶のところまで行った。僕を手招きしている。
「チャーリーもマイケルもこの水晶のことは覚えているじゃろう?」
伯父様がすぐに頷いて答えた。
「当然です。父上。この水晶は魔力の大小を調べるものですよね。私もチャーリーも魔力を増やす訓練を毎日していましたから、この水晶のことはよく覚えていますよ。」
「そうじゃ。この水晶はどの程度の魔力を持っているのかを調べるものじゃ。では、試しにわしが手を置いてみよう。」
おじい様が水晶に手を置くと水晶が激しく光った。
「エリス。お前も触ってみるか?」
興味津々のエリス姉様に気付いたのか、おじい様がエリス姉様に声をかけた。
「はい。」
エリス姉様が椅子から降りて水晶に手を置くと、水晶は光ったがその光はおじい様とは比べ物にならないほど暗かった。
「私、魔力が少ないの?」
エリス姉様がおじい様に聞いた。
「いいや。お前の歳なら多い方だ。しっかりと毎日訓練しているのが分かるぞ!」
エリス姉様は褒められたのが嬉しいのか、ニコニコしながら席に戻って、隣の母様に甘えていた。
「ルカ! 見ての通りじゃ。魔力があればいつかは魔法を使えるようになる。お前に魔力があるかどうか調べてみようか。」
「はい。」
僕の心はすでに晴れていた。もう魔法が使えなくてもいい。優しい家族がいるのだ。僕は水晶に手を置いた。すると、水晶は七色に光り、その光はおじい様の光よりもはるかに眩しく光った。そして、水晶にひびが入った。僕は慌てて手を離したが、神聖水晶の時のように水晶は粉々に割れてしまった。
「父上! こ、これは?」
マイケル伯父さんが驚いておじい様に聞いた。僕は何が起こったのかわからない。大切な水晶を割ってしまったという罪悪感だけが込み上げてきた。
「おじい様! ごめんなさい! 大切な水晶を・・・」
おじい様が僕を抱き上げた。
「いいんじゃ。それより、ルカ! お前の魔力は異常じゃ。よいか! みんな、今見たことは誰にも口外するな! これはわしからの命令じゃ!」
その後、僕達子どもと母様達は食堂に行くように言われた。おじい様とマイケル伯父さんと父様は3人で何か話をするようだ。
「父上。ルカは異常なんですか?」
「2人とも聞いてくれ。」
おじい様は僕について話し始めた。
「あの水晶はこの国の王立学院の学院長殿でも割れることはない。」
「すると、ルカの魔力は学院長殿以上ということですか?」
「そうだ。マイケル。」
「ですが父上、ルカは魔法が一切使えません。どういうことでしょう?」
「それはわしにもわからん。だが、ルカが万が一魔法を使えるようになれば、凄まじい力を手に入れることになるだろうな。そうなると、帝国や他の国々がルカを狙うかもしれん。このことは絶対に他に漏れてはならんのじゃ。」
「わかりました。」
すると、おじい様が父様の顔を見て言った。
「チャーリー! ルカの高熱、教会での出来事。もしかしたら、ルカは『神に愛されし子』かもしれんな。」
「すると、あの子の記憶がないのも神の意志ということですか?」
「そうだろうな。」
一方、僕達は食堂にいる。何故か、僕の隣にはエリス姉様とリーナが座っている。
「ルカ君。食べ終わったら私のお部屋に行きましょ。」
「いいよ。何するの?」
「おままごとよ。」