剣と魔法の練習を始める!
僕はセバスに連れられて姉様と初めて見る異世界の街を堪能していた。途中で、子ども達に話しかけられて一緒に遊ぶことになったのだが、その子達はどうやらスリの手下のようだった。セバスが全員を捕まえて衛兵の詰め所に連行した。そして、僕達は屋敷に帰って来たのだが、屋敷ではセバスが父様に何かを報告していた。
「そうか。ご苦労だったな。セバス。」
「はい。それではこれで。」
姉様が父様に言い寄った。
「父様。あのエルビンって子達はどうなるの?」
「お前達が気にすることはない。」
「でも、・・・」
すると、父様は僕達に向かって言った。
「彼らは罪を犯したんだ。いくら子どもでも許されないことなんだ。だが、大人に命令されていたのも事実。それに、彼らには親がいないそうだ。だから、司教様のところで修行させるさ。」
さすがは父様だ。考えが深い。僕は父様のことを尊敬のまなざしで見た。
「おいおい。2人ともどうしたんだ? 私はこの地を預かる代官として、当然のことをしただけだぞ。」
「大好き! 父様!」
「僕も大好き!」
姉様と僕は父様に抱き着いた。
“あれっ? 僕がこんな子どもっぽいことするなんて、どうしたんだろう?”
翌日、朝食を食べていると父様が僕と姉様に言ってきた。
「ルカが5歳になったんだ。今日から2人とも剣と魔法の訓練を始めるからな。食べ終わったら裏庭に来い。」
父様と母様は同じ王立学院を卒業して冒険者の活動をしていた。『バトルキング』という同じAランクパーティーに所属していたらしい。どちらもAランクの冒険者だったようだ。剣は父様が、魔法は母様が先生になって教えてくれることになった。
「エリス、ルカ、そこの木剣を手に取れ。」
僕と姉様は剣を手に取った。5歳の僕には少し重い。
「俺が一度やってみるから、同じように剣を振ってみろ!」
「はい。」
姉様が剣を振った。でも、なんかゆっくりだ。僕も剣を振ってみる。剣が重くて体がふらふらする。
“地球にいた時も、こんなことやったことないもんな~。”
心の中で文句を言いながらも必死で剣を振った。でも、まともに剣が振れない。すると、父様が僕に木の棒を渡してきた。
「これでやってみろ!」
「はい。」
今度はそれほど重くない。でも、父様のように『ブン ブン』とかいう音はしない。
「これから、毎日300回ずつ素振りをするんだ! いいな!」
「はい。」
僕も姉様も嫌々ながら返事をした。しばらく休んだ後、今度は母様の魔法の訓練だ。でも、僕は魔法を使ったことがない。というよりも、使えるかどうかも分からない。
「エリスちゃんはすでにシャボンの魔法が使えるようだけど、今日から基礎を教えるからね。しっかりね。」
「うん。」
最初に魔力を感じるところからスタートだ。母様が言うには、魔法を使うためには血液と同じように体中に魔力をいきわたらせる必要があるらしい。でも、地球にいた僕には魔力など無縁だった。どうすればいいのか皆目見当もつかない。
「どうしたの? ルカちゃん!」
「わかんない。」
「そうよね。初めてだもんね。なら、私の手を握ってみて。」
「うん。」
母様の手は大きくて、柔らかくて、そして温かい。すると、母様の手から電流のようなビリビリとした物が流れてきた。それが、体中を駆け巡る。なにか、おへその辺りに集まっていく。
「どう? 魔力が分かった?」
「ビリビリするのがそうなの?」
「そうよ。」
「ここにたくさん溜まったよ。」
僕はおへその辺りを摩って見せた。
「そう。良かったわ。魔力を感じたってことは魔法が使えるかもしれないわね。」
なんかワクワクしてきた。異世界に来て初めての魔法だ。早く使ってみたい。
「エリスちゃんもできたわね?」
「モチのロンよ!」
「そう。なら、次は簡単な魔法からね。エリスちゃんは水属性だから、手から水が出るのをイメージして魔力に命令するのよ。」
「どうするの?」
「なら私がやって見せるわね。」
母様は火属性だ。どんな魔法を出すのだろう。
「火よ。我が指に灯れ!」
母様の人差し指に火が付いた。でも不思議だ。熱くないのだろうか。
「母様。火傷しないの?」
「ルカちゃんは優しいわね。熱くないのよ。自分で出した炎はね。」
「なら、他の人が出した炎は熱いの?」
「そうよ。魔法は自分のためのものだからね。他の人には熱かったり、冷たかったりするのよ。」
「そうなんだ~。」
僕と母様の話を聞いていた姉様が魔法を発動した。
「水よ! 出ろ!」
すると、姉様の手からチョロチョロと水が出た。
「あらあら、できたわね。でも、魔力が少ないようね。」
なんか姉様がすごく羨ましい。今度は僕の番だ、でも、僕の属性が分からない。どうするんだろう?
「ルカちゃん。あなたは属性が分からないから全部試してみましょ。」
最初に母様と同じ火を試した。反応しない。次に水、これも反応しない。そして風、土、雷、光、闇、どれも反応しない。
「何故かしらね。魔力はあるのにね。不思議だわ。」
僕のショックは大きく、その日はもう何もする気が起きなかった。母様の魔法練習の後は自分の部屋に閉じこもってじっとしていた。
「エリスちゃん。ルカちゃんの部屋に行くつもりなら、今日はやめておきなさい。」
「どうして? 母様。」
「ルカちゃんは誰にも会いたくないはずよ。一人にしておいてあげましょ。」