属性魔法神授の儀式
僕がこの世界に男として転生して数日経ったある日、僕は父様と母様に呼ばれた。
「ルカ! いよいよお前も5歳だ。明日、教会に行くからそのつもりでな。」
「ルカちゃん! 楽しみね! 魔法属性は何かしらね? 父様と同じ水かしら、私と同じ火かしら。」
「母様。ルカはもしかしたら2つあるかもしれないわよ!」
“いよいよ明日だ。魔法が使えるようになる喜びと、魔法が使えないかもしれないという不安とで胸が一杯だ。”
そして、いよいよ教会に行く日が来た。教会へは馬車で行く。馬車に乗るのは日本にいた時もない。はじめての経験だ。なんかウキウキしてきた。御者席にはセバスが乗って手綱をしっかりと握っている。僕と父様と母様と姉様は馬車の中だ。馬車は左側にドアがあり、右側には窓があった。しばらく席に座っていると、再びあの嫌な不安が頭に浮かんできた。
「どうしたの? ルカちゃん?」
「母様! ルカは不安なのよ!」
「不安?」
「そうよ。もし魔法が使えなかったらどうしようかって! そうよね? ルカ!」
僕は静かに頷いた。すると母様が僕を抱きしめてきた。
「大丈夫よ。もしルカちゃんが魔法を使えなくても、私があなたを守ってあげるわ。」
母様はいつも優しい。それに、いい匂いがする。
「そうだな。ルカが魔法を使えなくても俺達がついているさ。例え、おじい様が何か言ってきても、俺達がルカを守るから安心しろ!」
“やはり魔法が使えないと何かあるみたいだな。 怖くて聞けないよ! 考えてみれば僕は男爵家の長男だもんね。その長男が魔法が使えないとなると、男爵家は廃絶になるのかもしれないし。”
僕はなるべく考えないようにした。しばらくして、馬車が教会の前で止まった。馬車から降りると、聖職者のような服を着た男性と女性が挨拶をしてきた。
「男爵様。お待ちしていました。」
「司教様。今日はよろしくお願いします。」
すると、司教様も女性の方も僕の顔を見て驚いている。
「男爵様。ルカ様は男の子ですよね?」
「そうですが。何か?」
「いいえ。あまりにも美しいお顔立ちをしているものですから。」
すると母様がニコニコしながら挨拶をした。
「ありがとうございます。でも、ルカちゃんは男の子ですよ。」
「申し訳ありません。」
「いいえ。」
僕達は教会の中に案内された。教会の奥に礼拝場所があるようだ。最初にそこで女神のウエヌス様の像に挨拶をするのだ。僕達は女神像の前に案内された。そして、そこで目にした女神像を見て僕は驚いた。
「えっ?! どうして?」
「ルカ様。どうかなさいましたか?」
「いいえ。何でもありません。」
女神像の女性は僕が転生するときに出会った女性だったのだ。僕は心の中で文句を言ってやろうと思った。
「では、女神ウエヌス様にご挨拶をいたしましょう。」
僕達は司教様にならって片膝をついて挨拶を始めた。すると、突然目の前に光の渦が現れ、僕はその中に吸い込まれていく。気が付くと以前にも来たあの真っ白な場所に立っていた。そして、目の前にはあの時の女性、女神ウエヌス様がいた。
「どうやら無事に5歳を迎えたようですね。どうですか? この世界は?」
「ありがとうございます。優しい父様と母様、それに姉様に囲まれて幸せです。でも、ウエヌス様に言いたいことがあります。」
「何かしら?」
「どうして男なんですか? 私は美人にってお願いしましたよね?」
「だから、美人にしたじゃない! 男とか女とか聞いてないわよ!」
「え~! 美人って言ったら女でしょ!」
「そんなことはないですよ。あなたが暮らしていた地球にも美人の男性がいたでしょ?」
確かに言われてみればその通りだ。女と指定しなかった私が悪い。
「ごめんなさい。ウエヌス様の言う通りです。」
「わかってくれたのね。それに、あなたを男にしたのには意味があるのよ。」
「どんな意味ですか?」
「そのうち分かるわ。そろそろ時間のようね。しっかり修行するのよ。」
「修行?!」
再び僕の目の前に光の渦が現れた。僕はその光の渦に吸い込まれていく。気付くと僕は女神像に片膝をついていた。ふと、周りを見ると司教様、父様、母様が驚いた様子で僕を見ている。姉様は何故か喜んでいた。
「どうしたんですか?」
「ルカ! お前どこも痛くないのか?」
「ルカちゃん! 大丈夫?」
「何が?」
すると、司教様が説明してくれた。僕達が女神様の像の前で挨拶を始めると、女神様の像が光始めて僕の身体も光っていたそうだ。でも、僕にはその自覚がない。なにせ白い世界で女神様に会っていたのだから。でも、それは秘密だ。
「どこも痛くなければいいんだ。ルカ。———— 司教様。属性魔法神授の儀式をお願いします。」
「畏まりました。では、場所を移しましょう。」
僕達は女神像の隣の部屋に案内された。その部屋には小さな女神像が置かれていて、その前に人間の頭ほどの大きさの水晶玉があった。どうやら、この水晶玉で儀式を行うようだ。
「では、ルカ様。この水晶に手を置いてもらえますか?」
僕の心臓はもうバクバクだ。不安でいっぱいなのだ。
「ルカ! 早くしなさい!」
「はい。」
僕は水晶玉に手を置いた。だが、水晶玉は何も変化しない。
“やっぱりダメか~! そうだよな。地球から来た僕に魔法が使えるわけがないよな。それに、僕は美人に生まれたいとはお願いしたけど、魔法は頼んでないもんな~! あ~、どうしよう!”
僕が悩んでいると突然水晶玉にひびがはいった。
「バリバリバリ―ン」
次の瞬間、水晶玉は大きな音を立てて割れてしまった。その場にいた全員が驚きの声をあげた。
「エッ、エ————!!!」
「司教様! これはどういうことですか?」
「わかりません。こんなこと過去にもありませんでしたから。聞いたこともありません。」
「でも、水晶は光らなかったわ。どういうことかしら?」
焦った僕は父様に聞いてみた。
「父様。属性があるとどうなるんですか?」
「そうか。言ってなかったな。俺は水属性だから青、メアリーは火属性だから赤、つまり属性によって水晶がいろんな色に光るんだ。」
「なら、僕はどうなるの?」
父様も母様も司教様も誰も何も言わない。その後、司教様の計らいで教会内でしばらく休ませてもらった。
「大丈夫よ。ルカちゃん。魔法が使えなくても私達が絶対に守ってあげるわ。」
「そうだぞ! ルカ! くよくよするなよ! もしかしたら、いつか魔法が使えるようになるかもしれないしな。」
その後、僕達は再び馬車に乗って家に帰ることにした。